見出し画像

応募者必読! ジャンプホラー小説大賞第5回選考結果&第6回応募者へのメッセージ

ジャンプホラー小説大賞応募者の方に向けて、前回の結果と、それを受けた受賞へのヒントとなる記事をお届けします!

(この記事は、昨年、Jブックスの公式HPに掲載した第5回ジャンプホラー小説大賞の結果発表に加筆し、第6回ジャンプホラー小説大賞応募者へのメッセージを追加したものです)


第5回ジャンプホラー小説大賞を終えて(総評)

銀賞受賞作『お前を殺してでも、幸せになりたかったから。』は、応募作の中でも、序盤だけで「目に留まる」作品でした。高校生主人公・事件のほとんどは学校内で起きるという、この賞では競争倍率の高い設定ながら、主人公が物語開始時点で既に霊であるという視点の転換と、主人公を追いつめる敵キャラが生み出す残虐・恐怖シーンの描写力、それらを青春ドラマに巧みに織り込んだ手腕が評価されました。地縛霊である主人公は呪いの力を身に着けており、激高すると本人の意思にかかわらず他人を呪殺してしまう。そして、生きている人間と意思疎通をすることも、学校から出ることもできない。そんな孤独と絶望を抱えた主人公のもとに、彼を「視る」ことのできる少女が現れる、という導入にまずフックがあります。霊を祓う者が主人公にとっての脅威、「恐ろしい」存在となる、通常とは逆の構図も効果を上げていました。本作品は猟奇的な描写にも力が注がれています。この賞は必ずしも凄惨な描写があればそれだけで高く評価するというスタンスではありませんし、エログロを安易に描くだけでは多くの読者を獲得できませんが、本作のように、物語的必然で納得させて、ドラマで引き込める技術があれば、企画や内容・描写の過激さは、読者を掴む強い武器になるでしょう。


特別賞受賞作『死人の花嫁』は「冥婚」がテーマの作品でした。「幼馴染が死んだ後、幼馴染の母親によって知らないうちに『冥婚』の相手にさせられた女性」を主人公に、妄執に囚われた人間の恐ろしさ、「嫌」な部分をリアルに描けていました。反面、最小限の人間関係の話だけで終始したことは、スケールの点で弱みにもなりました。

同じく特別賞受賞作『オビナ様』は、ジャンプホラー小説大賞に応募された『村』ものの中では初めての受賞になります。「人形供養」というモチーフを最大限生かした演出、怪異の背景にある因縁の丁寧な構築などに、筆力を感じました。キャラや設定の面で現代の若い読者に受けるような味付けがもう一段あれば更に上を狙えるでしょう。


『死人の花嫁』の作者は既に出版経験があり、『オビナ様』の作者も怪談本に作品が収録されています。『死人の花嫁』『オビナ様』ともに、基本的な小説技術は出版されていて不思議のないレベルでしたが、企画と事件が小さくまとまっていることが弱点でした。応募者の方は、既に商業出版にかかわっているなど、自分の技術に自信がある方ほど、ぜひ、トリッキーだったり大上段に構えたりの、はったりのきいた題材・プロットに挑戦してみてください。

第5回の応募作は、金賞受賞作の出た第4回に比べて、大人しい作品の多かった印象です。その中にあって突出していたのが銀賞受賞作ですが、最終候補に残った作品のうちでは、『3LDK ~女子高生とストーカーの密室劇~』には「こちらを殺そうと全力で襲い掛かってくる殺人犯を相手に、マンションの3LDKで女子高生がひとり籠城する」というワンシチュエーションであの手この手で恐怖させ、長編を押し切ったことにインパクトがありました。共感しやすいキャラの描き方を会得し、基礎的な文章の力を底上げできれば、より受賞に近づくでしょう。

受賞作・最終候補作のあらすじと選評


銀賞 賞金50万円
『お前を殺してでも、幸せになりたかったから。』P.N 雨宿火澄
(あらすじ)
いじめに遭い不慮の死を遂げた入月出希留は、三年後に学校の地縛霊として復活した。出希留は復讐も叶わず学校をさまよううちに、女子生徒に乱暴した男子生徒を呪殺してしまう。それに気づいたのは転入生の少女・楢花。彼女の正体は、悪霊を喰らう不死身の化物で、霊である出希留を捕食しようとする。
(講評)
霊を主人公に据えながら、様々なシチュエーションの工夫で主人公と読者を恐怖させる話が作れています。グロ・バイオレンス描写に迫力がありつつ、それがただの悪趣味にならず、主人公を襲う霊能力者の邪悪なキャラを際立たせるのに繋がっていました。ヒロインのキャラが強く、バディ物のラノベとしても達者です。

特別賞 賞金10万円
『死人の花嫁』 P.N.黒井ひよこ
(あらすじ)
婚約者を連れ十年ぶりに帰郷した早苗。彼女がかつて振った幼馴染・翔太は死亡していたが、早苗を翔太の冥婚の相手にしようと目論む翔太の母・優子は、早苗へ攻撃を始める。
(講評)
構成・文章とも危なげなくまとまっています。冥婚という題材の他、優子の初登場場面など、細部の演出も魅力的です。周囲の人間を巻き込むなど、もっと派手な展開も書いて欲しかったです。

特別賞 賞金10万円
『オビナ様』 P.N.霧野つくば
(あらすじ)
牧山佑紀は引っ越し先の鬼無里村で人形供養の神社に訪れた際、等身大の市松人形に襲われた。やがて佑紀の体に大量の瘤が生じる。村人は「オビナ様の呪い」だと怯えるが…。
(講評)
安定した筆力と構成力を持ち、呪いの由来にまつわるドラマもよく練られていました。良質のジュブナイルに仕上がっていますが、終盤でもう一波乱あれば更にホラー性が高まるはずです。


最終候補作
『Heavy Links』 P.N.雪村勝久
(あらすじ)
高校生の蔵石蓮は、少女を殺害する夢に悩まされていた。ある日、彼が友人に誘われて見た映画に主演していた新人女優は、彼が夢の中で殺し続けている少女に瓜二つだった…。
(講評)
主人公に殺されようとするヒロインを据えた、キャラ性の強いボーイミーツガールとして丁寧に作られています。終盤、主人公の力以外で解決する部分が大きかったのがもったいなかったです。

最終候補作
『イツキ』 P.N.岩沢泉
(あらすじ)
女子高生・加藤めぐみはクラスの人気者である神田亜衣加の機嫌を損い、スクールカーストの下位に落とされる。そんな折、めぐみは「首を吊って死ね」と言う縊鬼・イツキと出会う。
(講評)
高校生の人間関係の機微がリアルに切り取られていました。終盤のサプライズも効いています。導入に対して、イツキのキャラや主人公との関係が弱かったことが物足りない部分でした。

最終候補作
『3LDK ~女子高生とストーカーの密室劇~』 P.N.鈴木純一
(あらすじ)
マンションに一人暮らしをしている倉科愛香は、自宅内で親友の死体を発見する。更に着ぐるみ姿の不審者が侵入を試みていることに気づき、部屋から脱出しようとするが…。
(講評)
3LDK舞台で正体不明の殺人犯に対する籠城戦、という目を引くシチュエーションで長編を描き切ったことは好評価です。キャラの好感度や基礎的な文章の力を更に磨いて欲しいです。

『よく似た部屋』 P.N.真田五季
(あらすじ)
謎の男に誘拐された少女・飯名絵里は、同じ境遇にある少女たちと共に閉鎖環境で生活していた。ある日、少女の一人が脱出口を掘っていたことが発覚し、絵理は選択を迫られる。
(講評)
極限状況における少女たちの葛藤と対立を描いていて感情移入しやすかった第一部の展開に比べ、第二部以降はキャラ数の多さやスケールの大きさなどやや入り込みにくい内容でした。


最終候補一歩手前作品への講評


最終候補には残らなかったものの、最終候補一歩手前まで残った2作品について、講評のみ掲載します。

『Less in Peace』P.N.萩野真
異様なシチュエーションから生まれる、正体不明の不気味さは応募作の中でピカ一でした。情景・心理含め丁寧な描写が武器になっています。世界が激変した真相は漠然と匂わされるだけで読者に説明はなされておらず、「若い読者向けのエンターテイメントとしてのホラー」を目指すこの賞としては、明確に説明し、納得させて欲しいです。また、主人公の受動性が強く、たとえば貴志祐介『新世界より』あるいは『約束のネバーランド』のように、世界の秘密が説明されたあとに主人公がどういう風に行動していくのか、ドラマをもっと描くことで強靭な長編を作ることができるはずです。


『幻想のメリサ』P.N.吾妻梓
1節、2節、3節と進むにつれ世界の見え方ががらりと変わってしまうという構成で、物語を語る手順に非常に自覚的で、先を読ませる強い力がありました。また、序盤、平穏な日常の中に紛れ込む違和感、不穏な緊張感を静かに恐ろしく書くことに成功しています。そういったムードが保たれていた序盤に比べ、後半でたどり着いた真相、怪異の根源がミニマムでスケールの小さいものに感じられてしまったこと、クライマックスのホラー描写もB級なものに寄ってしまったことが残念でした。


第6回ジャンプホラー小説大賞応募の方へ

これまで5回にわたってジャンプホラー小説大賞を開催していますが、最終候補まで残ってくる作品の多くが、下記の①、②のどちらかが優れたものです。

①「企画性」(メインアイデア・キャラクター・シチュエーションなどが目を引く魅力あるものものになっているかどうか)
②「小説技術」(文章の読みやすさ・描写力・構成力など)

この2点を満たしていれば高い賞を得られるはずです。今回の銀賞受賞作『お前を殺してでも、幸せになりたかったから。』はその好例ですし、特別賞受賞の『死人の花嫁』『オビナ様』は「小説技術」については持っており、「企画性」にもう一歩が欲しいところでした。

これまで(ホラー含む)多くの小説に触れてきて、「小説技術」には自信があるという方なら、「企画性」をこれまで以上に意識するようにしてみてください。


自分の作品の「企画性」が高いのかどうか? という部分に不安のある方は、一旦、自分が書こうとしている話を、「50文字以内で骨子を説明しただけで面白く聞こえるかどうか」確認してみてください。
「名前を書くだけで人を殺せるノートを使って、新世界の神になろうとする少年が世界的名探偵を相手に戦う」話(『DEATH NOTE』)
「地球を爆破しようとしている謎の生物が教師を務めるクラスで、生徒たちが教師を暗殺しようとする」話(『暗殺教室』)
このように、「企画性」の強い作品とは、メインアイデア・キャラクター・シチュエーションを限られた字数で説明しても、そのコンセプトだけで「読みたい」と思わせる力を持つものです。若い読者に与える訴求力も含め、「企画性」を吟味してみてください。

小説はそれほど数を読んでいなくても、漫画・アニメ・ゲーム・映画など多数のエンタメに触れてきた方なら「企画性」の強い作品を容易く生むことができるかもしれません。そういった方には、ぜひ「小説技術」へも関心を向けてみてください。構成力については、「何からどういう手順で誰が語るのが、その企画を最大限魅力的に見せることができるのか」ということを意識すれば自然と身についてきます。

文章力については、作品によって求められるものは異なってきますが、共通して言えるのは「背伸びをしすぎないこと」です。ムード作りのために、凝った言葉遣いや回りくどい言い回しを多用して、結果、誤字誤用やおかしな文章だらけになる、というのは避けるべきです。読者にとって読みやすく、誤りで引っかかる文のないこと、それが理想的な文章のひとつです。凝りまくった文章を意のままに操ることを求めるのであれば、ぜひ読書経験を積み上げて、プロの筆力を意識的に吸収してみてください。

皆さんの新たなホラー作品を読めるのを楽しみにお待ちしています。


ジャンプJブックス編集部 

ジャンプホラー小説大賞宣伝隊長・ミニキャッパー周平