イチジクとイチジクコバチの対応の謎
沖縄の木シリーズで、Ficus属の他の木を推したかった人もいるでしょう。
「アコウは実がたくさん成るので目立つ」
「ハマイヌビワを推したい。赤い実が美しい」
「オオバイヌビワの葉が立派でよい。海洋博公園に見本樹もある」
「ベンガルボダイジュを推してほしい。東京に観葉植物を出荷している」
どの木も魅力的です。
しかし、属で一つとなると、ガジュマルの優位は揺らぎそうにないです。
Ficus属同士は遺伝的に近縁です。
観光客は、他の木を取り上げても特徴を見分けられない気がします。
「同じ属の種なら遺伝的に近いのは当然では?」
いやいや、遺伝学上の遠近はさまざまです。
相同性は高いことも低いこともあります。
染色体の本数まで変わってしまったら、それはさすがに別々ですが、
通常、属内の種の距離は、グラディエーションになっています。
Ficus属における種の安定は、受粉虫によるところが大きいです。
受粉虫に依存する状況は、ランに似ています。
ランは、花の形をポリネーター(受粉者)に合わせて大胆に変えています。
花の形は大きく違うのに、人工授粉をするとしばしば種間で交雑します。
種どころか、属間で交配が成立することすらあります。
花の形こそ分化しましたが、遺伝的には近い状態です。
Ficus属の花は花嚢の中で咲きます。外界に開放されていません。
花粉をつけた虫が花にとまって起きる、偶発的な交雑が阻止されています。
ランはインターメディア(中間種)が散発しますが、Ficus属はそれがない。
Ficus属は交雑の阻止によって遺伝的に近い状態で種が成立しているので、
人の手で受粉してやると種間雑種ができます。
(スポイトで花粉をプシュプシュ)
参考文献
イチジク株枯病抵抗性をもつイチジクとイヌビワの種間交雑体の獲得
https://www.naro.go.jp/project/results/laboratory/fruit/2012/142b0_04_09.html
Ficus属と受粉虫は、植物1種に対してコバチ1種で対応しています。
たとえば、以下のようにです。
ガジュマル ⇔ ガジュマルコバチ
イヌビワ ⇔ イヌビワコバチ
アコウ ⇔ アコウコバチ
参考文献
イチジク属植物とイチジクコバチの共進化のメカニズムの解明https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-19570225/19570225seika.pdf
別の大陸ならともかく、Ficus属は狭い島にところ狭しと生えています。
1種対1種が、仕組みなしで維持できるとは思えません。
何か、対応の逸脱を許さない仕組みがあるはずです。
イチジクは、自分の果肉をコバチに食べさせる犠牲を払います。
受け入れる虫を自種の受粉を担う虫種に絞りたいだろうと想像します。
別種の花粉ではダメなので、絞り込みたい動機があります。
虫側は「果肉を食べさせてくれるなら、なんでもいい」のはずですが、
イチジクの穴は出入り困難な、きついゲートであるため、
雌雄のマッチングが外れないほうが都合がいいかもしれません。
イチジクはプロテアーゼを発現します。
イチジクを食べて口の粘膜がピリピリした経験を持つ人がいるでしょう。
このプロテアーゼに抵抗できないと、成虫も産んだ卵も溶けそうです。
参考文献
植物乳液が対植食者防衛に果たす決定的役割
https://doi.org/10.14848/esj.ESJ51.0.701.0
植物と虫でマトリックスを組んで、抵抗性を調べてみたいところです。
生物で 酵素とくれば 特異性。
・・・お? はまった。
いや、プロテアーゼインヒビターで防衛しているかも。
調べてみないことには、何もわかりません。
(瀬戸 裕紀)
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