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友達のお母さんが作った肉まん

小学校低学年の頃、一番仲の良かったMちゃん家に、急に遊びに行くことになりました。
他に誰かいた記憶が無いので、私と二人で遊んでいたのだと思います。

この日、初めてご自宅にお邪魔しました。

自分の家とは対照的な造りだったのを覚えています。玄関ドアにガラスがはめ込まれていてオシャレだったなぁ。応接間が洋風で、ソファーが幾つも置いてあってステキだったな。カーペットが敷いてあったな…。
(羨ましいなぁ〜)と思ったのを覚えています。

ひとしきり彼女の部屋で塗り絵やぬいぐるみで遊んでいたら、「応接間にいらっしゃ〜い。」とMちゃんのお母さんから呼ばれました。
オヤツの時間になったのです。

私は彼女の後ろに着いていくと、応接間のテーブルの上には、お茶と肉まんが用意してありました。
「肉まんだぁ〜♪」
彼女はちょっと嬉しそうに笑って、慣れたふうに一つを手に取りました。
季節は初冬だったと思います。蒸かしたて熱々の肉まんが、楕円形の白い大きなお皿にこんもりと積まれていました。
(コレは手作り肉まんだ…)
いつも自宅で蒸し器で温めて出されていたソレとは見た目が違うので、子どもの私にも直ぐに分かりました。

(肉まんって家で作れるんだ…へぇ…)

私はとても衝撃を受けました。肉まんって、買うものじゃなくて作れるものなんだ…オニギリみたいに自分で作れるものなんだ、と。

食べ慣れた市販の肉まんよりも、皮はモチっとしていて厚めで、それだけでも何個も食べたいくらいでした。
中の餡は惜しげないお肉の量、そして椎茸と玉ねぎが、ギュ〜ッといっぱい詰まっていました。


よそ様の応接間で粗相をしてはいけないので、小皿をお借りして、いつもはかぶりつくところを半分に割って食べようとしていました。
するとMちゃんのお母さんは、「味が薄いかもしれないから、お醤油足す?」と言って、卓上用の醤油さしを持ってきてくださいました。

緊張しているし、早く食べてみたいし、こぼしてはいけないしでドギマギしつつ、半分に割った片方はとりあえずそのままで頂きました。
確かにちょっぴり薄味な気もするけれど、このままでも十分美味しくいただけます。でもどうしようかと迷っていると、Mちゃんは慣れた手つきでちょっと齧った肉まんに、上手く醤油を数滴垂らしていました。

(アレは流石に無理だなぁ。お皿に醤油を出して、付けて食べよう。)

Mちゃんのお母さんが横で見守る緊張の中考えた末、この作戦で行く事に決めたのでした。

その後計2個の肉まんを美味しくいただき、ごちそうさまを言って、無事に帰宅しました。



さてその後、ずっとアノこんもり積まれた肉まんが頭から離れることはありませんでした。

自分が大人になり結婚して日本を離れ、肉まんが売っていない、若しくは売っていても日本価格の三倍近い国に住む様になった時、自分で作るようになりました。
そう、Mちゃんのお母さんの様に皮も中身も全て手作りの肉まんを……。
中身を変えて あんまん、青椒肉絲まん、角煮まん、カスタードクリームまん…いろいろ作って来ました。友人・知人の口にも入ることも何度もありました。

薄力粉と少しの強力粉or中力粉。イースト菌と砂糖と少しの油分と牛乳・水と少しの塩で出来る皮。

おやつにもなるし、体調が優れず食事が作れない時などの緊急時用として「肉まん・あんまん」は海外生活ではとても便利なとっておき冷凍保存食でした。


何十年も前に頂いたMちゃんのお母さんの手作り肉まん
あの時の出会いを、とても感謝しています。