第十四話 サドの挿絵の無修正版とその修正(改変)について


 こんにちは、安田鋲太郎です(・ω・)ノ
 さて、このnoteでは勢いで買った変な古書なども少しずつネタにしてゆきたいのですが、たとえばいま手元に『SIXTY EROTIC ENGRAVINGS FROM JULIETTE』という本を持ってきました。

『SIXTY EROTIC ENGRAVINGS FROM JULIETTE』(ニューヨーク刊、1969)

 タイトルから鋭い人はすでにお気付きのように、これはサドの代表作『ジュリエット物語あるいは悪徳の栄え』の挿絵を60点収録した図録なんですね。

 日本でもサドの翻訳は数種類ありますが、元版の挿絵を大規模に収録しているものはおそらくなく、研究者はともかく一般読者にはその全容はあまり知られていないんじゃないでしょうか。

 ではそれはどのようなものか、さっそく見てゆきましょう。

 これはあれですね。大人の組立て体操ってやつですね。

 正直なんで買ったのかよく憶えてないんですが、まあ、顔なじみの古書店に足を運べばなにか一冊くらいは買わないといけないような気がするし、即売会に行ってボウズで帰るのも癪というもの。あるいは仕事帰りにストレス発散のため内容は二の次で本を買い込みたいときなどもあって、こういう意味不明な本(サド研究者は別として)が堆積してくるんですね。

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 さて、ぱらぱら見ていて気付いたんですが、サドといえば澁澤龍彦訳/菊池信義装丁のものが河出文庫から出ていますよね。たとえばこちら。

 これは上で掲載したものの三枚目と同じですね。
 どうやら河出文庫版のサドの表紙は元版の挿絵を使っているようです。ただし比較すると男が手に持っている鞭がなくなっています。これだとまるで男がゲンコツで尻をなぐっているように見えてしまう(ゲンコツにしてはやや握りがゆるいですが)。
 また男のペニスの先端もなくなっているし、椅子に仰向けになっている女の局部もほとんど消されています。


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 ではこちらの絵はどうか。

 この絵に該当するものも収録されていました。

 こちらは鞭はなくなっていない。しかしひざまづいている男が元の絵では鞭を持つ男のペニスを咥えているのに対し、河出文庫版ではやはりペニスが消されています。
 まあAVの修正みたいなものと言えなくもないのですが、さらにきちんと見ると河出文庫版ではひざまづいている男の手の位置が下がっているんですね。

 これは、単に局部は見せませんよというのではなくあたかもフェラチオをしていないかのように改変されているのだと言えます。
 じっさい『SIXTY EROTIC ENGRAVINGS FROM JULIETTE』で偶然元絵を見つけるまで、僕もずっとこの絵がフェラチオをしているところだとはわかりませんでした。

 べつに修正がいけないと言うつもりはないんですが、鞭がげんこつになったりフェラチオ自体を〝なかったこと〟にするというのは、元絵の意味じたいが変わってしまう(ついでに言うと、抹消されたのが同性愛行為であることがさらにモヤモヤを増幅させる)ので、ちょっとどうなんだろう、サド文学にたいするリスペクトはあるんだろうか、と少々思ったりはします。

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 他にも、

 こちらの挿絵も修正があって、本当はこうなっています。

 そう、ハンモックの右側のロープがない。
 たぶんロープを消さないとタイトルにかぶるからだと思うんですが、左だけを残した結果、河出文庫版はもはやハンモックだかなんだかよくわからないうえに、人物が鯉のぼりみたいに不自然に浮いているように見える。
 
やはりこの修正も納得いかないものを感じます。

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 最後にもう一つ、こちらの絵はどうか。 

 これはあれだな、たぶん板が下がると自動的にペニスが挿入されるタイプのイラストだな、赤い菱形の下端がちょうどペニスっぽく見えて、うまい具合に隠したなと思うじゃないですか。

 その元の絵がこちらです。

 そこは普通に女同士なんかい!(よく見ればおっぱいついてるしね)

 この絵はどういうプレイをしているのだろうか。まん中に男が入って「わーい女のサンドイッチだ!」みたいに楽しむんでしょうか。もしわかる人がいたら教えてください。

 現場からは以上になります。では(・ω・)ノシ




 【参考文献】

 GROVE PRESS『SIXTY EROTIC ENGRAVINGS FROM JULIETTE』(1969)

 サド/澁澤龍彦訳『ソドム百二十日』

 サド/澁澤龍彦訳『新ジュスティーヌ』

 サド/澁澤龍彦訳『悪徳の栄え』

 サド/澁澤龍彦訳『美徳の不幸』


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