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Part3 摩耗試験


 建材試験センターの機関誌「建材試験情報」で2013年6月~2015年6月にかけて連載していた基礎講座「有機系建築材料の劣化因子とその試験」をNOTEにてアーカイブしています。(一部加筆修正)

 PART3は2015年2月号からです。


1.はじめに

 今回は,有機系建築材料の「摩耗試験」について解説します。

 「摩耗」とは,あまり日常で使う言葉ではないと思われますが身近な現象です。手元の辞書で調べてみると,このような記載がありました。

まもう【摩耗・磨耗】こすれて減ること。多く機器・部品・道具などについていう。

 つまり,摩耗とはすり減ることであると言い換えることができます。建材が摩耗する理由として,筆頭にあげられるのは人間の歩行です。建材の中でも,耐摩耗性が特に求められるのは床材といえるでしょう。一人が一回歩いたときの負荷はわずかでも,何年もかけ,多くの人に歩かれた床は汚れてすり減ってしまいます。オフィスビルや店舗等の出入口には,多くの場合マットが敷かれています。このマットは,靴底の汚れを取るためだけでなく,人通りの多いところの床材を守るためでもあるのではないでしょうか。

 実際に,当センターで受注実績のある摩耗試験は床材に関するものが多くを占めています。


2.摩耗試験の規格

 当センターは,日本産業規格(JIS)など様々な試験規格に準拠して試験を行っています。JISを審議する機関である日本産業標準調査会のウェブサイトで「摩耗試験」を検索すると,数十件のJISがありました。2)

 これらのJISには,特定の材料に特化した試験方法もあるため,全てを挙げることはとてもできません。ここでは,当センターで実績のある摩耗試験のJISについて表1に示します。

表1 摩耗試験の例

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 これらの試験及び試験装置は,規格名称が長いためか試験装置の開発者や製造社に由来する名前で呼ばれることが多くなっています。そのため,表1には試験装置の名称も載せました。


3.摩耗試験の方法と装置

 表1に示した摩耗試験について,簡単に説明します。


3.1 JIS A 1451  吉岡式摩耗試験機

 JIS A 1451は,試験片の表面に砂を撒きながらピアノ線のブラシと鋼板を擦りつけ,更に打撃鋲で打ち付けるという試験です(写真1及び写真2参照)。試験片厚さの減少や,外観の変化について評価を行います。

写真1_1

写真1 吉岡式摩耗試験機

写真2

写真2 ピアノ線ブラシ及び鋼板

 この試験は,JISが制定された当時の研究においても他の試験方法に比べて人間の歩行によるダメージを良く再現しているという報告3) が得られています。高輝度蓄光式誘導標識(非常口を示す標識)の認定4) にも採用されている方法です。

 また,この試験装置はJIS A 1454(高分子系張り床材試験方法)の耐摩耗性試験5) にも用いられています。


3.2 JIS A 1452  落砂摩耗試験機

 JIS A 1452では,回転する試験片の上から砂を落とし,表面の削れた度合いを評価します。この試験方法では,試験片表面の光沢,透明度,塗装のうちいずれかの変化を測定します。測定対象により,砂の種類と落下高さを変えて試験を行います(写真3参照)。

写真2-落砂摩耗試験機

写真3 落砂摩耗試験機


3.3 JIS A 1453とJIS K 7204  テーバー式摩耗試験機

 JIS A 1453とJIS K 7204は,良く似ている試験です。装置の基本構成は同じですが,寸法が少しだけ異なります。JIS A 1453はゴム輪の表面に研磨紙を巻き付けたもの,JIS K 7204は摩耗輪と呼ばれる研削用の砥石を回転する試験片に擦りつけます(写真4参照)。質量・厚さの減少,外観の変化について評価を行います。

写真3-テーバー式摩耗試験機2

写真4 テーバー式摩耗試験機

 JIS K 7204では,様々な研磨作用を備えた摩耗輪を選択することが可能です。また,摩耗輪を試験片に載せるときの荷重にも複数の選択肢があります。そのため,適切な試験条件を選ぶ必要があります。試験条件がわからないと,試験をすることも結果を比べることもできません。

 また,この試験装置はフローリングの日本農林規格における摩耗試験6) にも用いられています。


4.まとめ

 今回は,摩耗試験について紹介を行いました。この連載は有機系建築材料に関するものではありますが,これらの試験は無機系の建築材料にも用いられています。様々な材料に対応していますので,試験をご検討の際はお気軽にお問い合わせください。


【参考文献】

1) 松村明・三省堂編修所:大辞林 天金総皮装,株式会社三省堂,1990,pp.2294(1889第一刷,1990第二刷)

2) 日本工業標準調査会http://www.jisc.go.jp/(参照:2020/9/10)

3) 吉岡丹,名知了三,床材料の摩耗試験方法に関する研究-その5-(床材料摩耗試験機による実験),工業標準原案 床材料の摩耗試験方法(回転円盤による摩擦および打撃法)作成委員会「床材料の摩耗試験方法に関する研究報告」,1968,pp.213-216

4) FESC E 010-19:2019,高輝度蓄光式誘導標識の試験基準及び判定基準,一般財団法人 日本消防設備安全センター

5) JIS A 1454:2016,高分子系張り床材試験方法

6) フローリングの日本農林規格,平成25年11月28日

<執筆者:中央試験所 材料グループ 吉田仁美>


<試験の問い合わせ先>
総合試験ユニット 
中央試験所 材料グループ 
TEL:048-935-1992 
FAX:048-931-9137



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