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Part5 オゾンによる劣化とその試験

建材試験センターの機関誌「建材試験情報」で2013年6月~2015年6月にかけて連載していた基礎講座「有機系建築材料の劣化因子とその試験」をNOTEにてアーカイブしています。(一部加筆修正)

 PART5は2013年12月号からです。


1.はじめに

 

 オゾンは3つの酸素原子からなる酸素の同素体であり,分子式はO3で表されます。オゾンは自然界においては空気に紫外線が触れることによって発生しますが,不安定な分子である為放置しておくと酸素に変換されます。そのため空気中に含まれる量は季節や時間帯によって異なり,夜間で約3pphm,日中で約10pphm程度とされています。


 オゾンは光化学スモッグの原因物質である光化学オキシダントの主成分のひとつでもあり,高濃度の場合は中毒性が有る一方で,強力な酸化作用によって殺菌・脱臭などの効果があります。使用後は自動的に酸素に分解するため,洗剤のように残留の心配が無いことから,塩素の代わりに水道水の殺菌に使用される他,農業では農薬の代わりに病害菌の殺菌,畜産においても臭気の分解やサルモネラ菌,鳥インフルエンザウイルスの殺菌など,その他にも医療・食品といった分野で広く利用されています。


 このように,オゾンは近年利用頻度が増加傾向にあり,それに伴い,建築材料が受けるオゾンの影響も増加することが考えられます。


 当センターでは有機系建築材料の耐オゾン性能ついて,さまざまな性能試験を多数実施し,主に日本産業規格に定めた性能を保持しているかの確認や評価を行っています。今月号では「オゾンによる劣化とその試験」と題してオゾン劣化の影響を受けやすい有機系建築材料とその試験方法,試験設備などについて解説します。




2.オゾンの影響を受けやすい建築材料について

 

 オゾンによる劣化の影響を受ける材料としては,代表的なものにゴムが挙げられますが,全てのゴムがオゾンの影響を受ける訳ではありません。ゴムの耐オゾン性は,ゴムの種類(分子構造)によって左右され,シリコーンゴムやアクリルゴムはオゾンに対する抵抗性が高い反面,ニトリルゴムや天然ゴム,ウレタンゴムなどはオゾンの影響を受けやすい種類と言えます。オゾンの影響を受けやすいゴムについては,ワックスや老化防止剤を配合することでオゾンに対する抵抗性を高め,その効果を試験によって確認する必要があります。


 ゴムが使用される建築材料としては塗膜防水材,合成高分子系ルーフィングシート,建築用シーリング材,ガスケット,ゴムパッキンなどがあり,表1に示すように,材料ごとに耐オゾン性についての試験条件が定められています。


表1 オゾン劣化の関連規格とその条件の例

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 オゾンの影響を受けたゴム製品は,表面にひび割れクラック)が生じます。このひび割れはゴムに応力がかかった状態の方が発生しやすい傾向にあり,時間の経過とともに幅・深さともに増大し,最終的には破断に至ります。ひび割れ自体は紫外線照射による影響でも発生しますが,紫外線によるひび割れは方向がランダムであるのに対し,オゾンによるひび割れは応力に対して垂直に発生することから,目視によって原因を判断することが可能です。写真1にオゾン劣化によってひび割れが生じた塗膜防水材を示します。


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写真1 オゾン劣化によってひび割れが生じた塗膜防水材


3.オゾン劣化試験装置について

 

 表2に建材試験センター西日本試験所で所持しているオゾンウェザーメーターの仕様を,写真2にオゾンウェザーメーターの外観写真を示します。オゾンによる劣化は応力が加わった状態の方が発生し易いことから,ガスケットや加硫ゴムの耐オゾン性試験では,試験片に繰返し引張応力を加えながらオゾン暴露行う「動的試験」が採用されています。また,建築用塗膜防水材や合成高分子系ルーフィングシートは,ダンベル状に切り出された試験片を所定の長さに伸張した状態で暴露を実施する「静的試験」 を実施したのち,表面のひび割れの発生を確認することで判定を行います。


表2 オゾンウェザーメーターの仕様

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図2 オゾンウェザーメーターの外観


4.まとめ

 

 過去には,「オゾンは体に有害なもの」 との認識が一般的でしたが,近年は除菌や消臭などの用途で利用が増え,一般家庭用の家電製品にも空気清浄機やエアコン,掃除機,洗濯機など多くの製品にオゾンを利用するものがあります。家電製品の発生するオゾンの濃度は,人体にとって有害なほど高くありませんが,オゾンを除菌や消臭に使用する発想は「毒をもって毒を制する」考えだと言え,建築材料,特にゴムにとってのオゾンは毒以外の何者でもありません。


 1.はじめにでも書いた通り,オゾンは太陽光(紫外線)によって発生するため,空気中のオゾン濃度は屋内よりも屋外の方が高い傾向にありました。そのため,これまでご紹介したオゾン劣化暴露試験は,屋外のオゾン濃度を考慮した上で設計されています。しかし,屋内でオゾンを発生する家電製品などを使用した場合,その付近にある有機系材料は屋外よりもはるかに高い濃度のオゾンにさらされることとなります。そのため,今後は屋内で使用される建築材料についても,高い耐オゾン抵抗性が要求されるようになると考えられます。



【参考文献】

1) 建築工事標準仕様書・同解説JASS8 防水工事(日本建築学会)

2) 大石不二夫:高分子材料の耐久性(1993 工業調査会)

3) Wolfram Schnabel:高分子の劣化(1993 中央印刷)


<執筆者:中央試験所 材料グループ(当時) 志村重顕>


<試験の問い合わせ先>
総合試験ユニット 

西日本試験所 試験課 
TEL:0836-72-1223
FAX:0836-72-1960


https://www.jtccm.or.jp/biz/hinsei/zai/tabid/110/Default.aspx