麻布十番という街場の力(その②)
●その①の続き
麻布十番という特殊な街場の力について①の続きを書きます。
●本文
麻布十番は、ニノ橋の先にある「仙台坂下」から六本木ヒルズ手前の「暗闇坂」付近までを指してます。
六本木ヒルズは、元々真っ暗な場所で我々はヒルズが出来る前は「ロクロク」(六本木六丁目)と呼んでおりました。
Stockholm
古くはあのエリアにスモーガスボードの「Stockholm」があり1970年代から80年代にかけてワケありだが感性の高い方が夜な夜な食事をしていた場所です。「Stockholm」はビルの地下あり一階にはVOLVOが展示されていました。
石造りの内装とスウェーデンの伝統料理の数々が並ぶ高級感のある空間でした。現在の商業建築物の中でもトップクラスの重厚さと洗練されたデザインを持っていたと思います。現在は赤坂見附に移転していますが、内装の面影は皆無だと感じます。
https://tabelog.com/tokyo/A1308/A130801/13002217/
六本木ヒルズの開発やビル群をみると非常に大造りで日本人的ではない思想を感じます。その根底には中国における香港や上海を始めとした都市の設計思想を感じさせます。
松玄
仙台坂下には「松玄」がありました。
https://www.matsugen.net/azabujuban/
恵比寿の「松栄鮨」に入り浸っていた身として、このお蕎麦屋さんの空間、味、繊細さに瞠目したことを今でも覚えております。お酒と酒肴の幅と広さは今も健在かと思います。
会食やプライベートで行った回数があまりに多いので詳しい記憶が逆にありません。しかしこのお店から器や漆器、酒肴の盛り方、素材選び方を視覚味覚の両面から学びました。
更科堀井
麻布十番のお蕎麦繋がりとしては「更科堀井」があります。
https://www.sarashina-horii.com/毎年ここで畏友と仕事納めの日に蕎麦を手繰り忘年会という、その年を忘れる会をやるのではなく、その年を心に刻む事をやってました。
わたくしは執念も業も深い人間であるため、クソ上司の言動や下手を打った自分の未熟さを思い出し、敢えてそれらを口にし自覚し合うという会を畏友とサシでやっておりました。
また1年間かけて全力で育てた部下が、あっさり転職し、無力感に苛まれていた時もここで送別しました。
千栄(韓国料理)
既に閉店してしまったお店です。ここは野球選手が数多く訪れていたようですが、私はほぼいつも一人で『牡蠣の和え物」とビビン麺を生ビールやチャミスルと共に食していました。ここもほぼ毎週通っていた時期があります。
今は生ものや牡蠣を食べなくなりましたが、あの当時は新鮮な牡蠣に千栄子さんの特殊な調合による唐辛子の調味料がかかっており、辛みの奥に旨味が直接舌に届く和え物でした。
後にも先にもあれ以上の牡蠣料理、韓国料理を食べたことがありません。
くすりの城南
ここは見たこともないようなサプリメントや健康関連の商品が多く深夜も営業していたので二日酔い防止の医薬品等を買っていました。
https://daiwaseibutsu.co.jp/wp/shop/%E3%81%8F%E3%81%99%E3%82%8A%E3%81%AE%E5%9F%8E%E5%8D%97?prefectures=tokyo&city=%E6%B8%AF%E5%8C%BA
ご主人のアドバイスも正確で面白いためよく通ってました。
La礎
内装、料理、お酒全てにおいて嗜好性の高いお店でした。今は閉店されていますが最も通った場所であることは間違いありません。渡邉達也シェフが創る料理は今も忘れられません。
特に「唐墨と胡瓜と黒胡麻の和え物」とブルゴーニュの白の合わせには瞠目しました。
氷室で熟成させたワイン卸の大御所である「シュバリエ」様のワインでしたので角の取れた味がしました。酔い方も気がついたら酩酊に持って行ってくれたという印象しかしありません。
暗闇坂下の角を入って少し歩くとぼんやりと灯りのついた店が現れます。いつもドキドキしながら店に入った事をおぼえています。
その斜め前に「多能久」という民家を改造したお店もあり、こちらのお店にも大変お世話になりました。
https://azabutano9.wixsite.com/hyper/about
今思いますと30歳そこそこの若僧がイイ気になって飲み散らかしていたのだと思います。その当時のお店の皆様にはお恥ずかしい限りです。
たくみ
ここのお店はたくみさんが経営されています。昨年、17年ぶりくらいに行きました。下記のリンクにあるようにある種のパワースポットのような場所だと私も思います。
https://tabelog.com/tokyo/A1307/A130702/13015184/dtlrvwlst/B415890797/深夜に行き着く場所は、いつも「たくみ」でした。真っ黄色の看板はあの時と全く同じで、昨年それを見た時に震えるくらい感動しました。
たくみさんに沢山励ましてもらい、何を自分が喋ったのかは覚えていませんがアニキのように接してもらったことを物凄く覚えています。
田舎者の私が麻布十番の飲食コミュニティに入れてもらったと感じたのは、たくみさんのお陰だと思っています。
※タイトル写真は以下リンクから引用
https://retty.me/area/PRE13/ARE14/SUB1405/100000007995/
命乃水
最後に最も通ったお店を記述します。
オーセンティックなバーです。ここのオーナーである小野さんがお作りになる「マッカランのソーダ割り」は世界で一番繊細なハイボールだと信じています。
https://retty.me/area/PRE13/ARE14/SUB1405/100000698919/
ヴェネツィア、ロンドン、パリ、香港、ニューヨーク、チューリヒ、フランクフルト、ベルリン等でバーに行き、お酒を飲んで来た者として改めて申し上げると「命乃水」の小野さんがお作りになる「マッカランのソーダ割り」は世界で最も繊細で美しいハイボールです。
私は小野さんからお酒を教わり、葉巻を教わり、バーでの「居方」を教わりました。麻布十番に行って「命乃水」に行かない日はありませんでした。
何も押し付けがましいところのない小野さんにアルコールを飲まなくなったとしても、いつも敬意を持っております。
「命乃水」は麻布十番において最も透き通った空間とお酒を堪能できる場所です。但し、通わないとその本質は分からないと思います。ここは強調させていただきたいと思います。
こう考えますと数多くのお店には行っていませんでした。何度も何度も通うことしかしておりませんでした。しかしお店や店主とのお付き合いは、まさに人と同じでご縁でしかないと感じます。
麻布十番をこよなく愛する志村けんさんが通われていたお店にわたくしは行っておりませんしご縁もありませんでした。
お店と客とは、同じ麻布十番という街場であっても、繋がり続ける人と繋がらない人がいます。また見えてくる像や体感はまるで違うものになっていると感じます。
本当にありがとうございました。