チンペイさんと浦安と。

今までROM専だったくせに突然書き始めた最初の記事がコレになるとは何事か。

昨日、今月8日に谷村新司さんが亡くなっていたことが判明したからだ。74歳だった。

筆者はミドサーなので、全く世代の歌手ではないけれど、幼い頃見たモノマネの影響で楽曲は知っていたし、懐メロ縛りのカラオケでは昴も歌うしアリスも歌うし、最後ははサライで感動のフィナーレ風に終わらせるなどいう、ひと通りの谷村新司の嗜み方(?)などもしたりしたのだ。

あんなに綺麗な曲や歌詞を書く人だったけれど、不謹慎ながら彼の死をニュースで知った時、私が真っ先に思い浮かべたのは、あろうことか「浦安鉄筋家族」だったのである。

何故「浦安鉄筋家族」が?と疑問に思う方に解説すると、9巻に出てくる130話目のエピソードに「チンペーさん」なる完璧なオマージュキャラが登場するからだ。

とても強烈な話だったので小学生時代に読んだ話なのによく覚えている。
(そもそも表紙のすこぶる汚らしい不○家のペ○ちゃんらしきキャラがセンセーショナルすぎるのだ)

この話の主人公は仁ママである。
仁ママは街中のポスターを見て、大好きなチンペーさんが自分の住む浦安にコンサートに来ることを知る。
そこからの仁ママは、妖怪の様な見てくれと反して乙女全開なのだが、告知ポスターが欲しくて爪でブロック塀を破壊してGETしたり、チケットも購入していないのに可愛らしい一張羅(人生初のハイヒールまで!)を購入し、全財産を使い果たしてしまったりする。

小学生である息子・仁の同級生達に「チケットもないのにどうするのか」と問われると、「会場付近の空き地から穴を掘り、会場トイレに出るようにして侵入する」と言いのけたのだ。

穴掘り開始から2日後、スタート地点の空き地はコンクリで埋められ駐車場になってしまい(いや、工事期間どない?)、仁ママはそのまま収束不明に。

その10日後、担任の先生が持ってきた新聞記事に「北海道鉱山跡地にヒゲ女が出現」なる見出しを見つけ、仁ママが会場を余裕で通り越し、はるばる北海道に到達したことを知る。笑

結局コンサート当日になってもチケットも入手できず、会場に入ることができなかったのだが、万が一の遭遇を願って全財産をはたいた一張羅を纏う仁ママ。
奇跡的な強運により、道すがら橋の上でチンペーさんとすれ違うも、推しを目前に緊張で思いを伝えられず、身体は震えるばかり。
やがて緊張は全関節に響き渡り、ハイヒールをつたい、地響きを起こし、自身のみならずチンペーさんまで橋下のドブに引き摺り落としてしまったという話だ。(解説長ぇよ)

当時は何も感じなかったが、筆者にとっては推しがいる今ならば、仁ママの気持ちはすごく共感するものであった。
チケットの当選結果を待たずにオシャレや美容に投資してしまったり、きっとみんなもそんな経験をしたことがあるはずだ。
推しは生きる起爆剤であるし、エネルギーの根源である。

『推し』や『ヲタク』などという言葉はまだ存在しなかった(はず)の平成7年のあの時代に、そういう小さなキラキラした感情を上手に表現したあの話はとても印象的だった。
散々息子の同級生に「お前の母ちゃん気持ち悪ぃ」と言われるのだが、筆者にとってはむしろ逆で、真っ直ぐでカッコよくすら感じられた。

ココで話が戻るのだが、私が1番好きな谷村新司作品はサライの歌詞だ。
真っ直ぐでとにかく純粋だと思う。
だから仁ママにも刺さったのではないだろうか。(知らん)

どこかの若者が、夢を追うため田舎を捨て。
都会で様々なことに揉まれながらも、強く生きようと決意する。
文字にするとたったこれだけではあるのだが、“この一連の流れを自分自身にどこか重ねてしまうようなリアル感を持たせ、情景が手に取るように浮かぶところ”がこの曲のミソだと思っている。
だから多くの人の琴線に触れるのだ。

3次会のカラオケが終わり、お酒ももうこれ以上飲みたくないし、外は陽が昇り始め、疲れて眠気もピーク。
そんな気怠いカラオケ閉店10分前を告げるアナウンス電話を切ったあと、部屋に流れるピアノのメロディ。
みんなで立ち上がり、肩を組んだり手を左右に振ったり。

遠い夢〜捨てきれずに〜🎵

このしょうもないシチュエーションで歌うサライが最高に好きで、歳を重ねるとこういうのにグッと来てしまう。

チンペイさん、どうかサライ(心の故郷)の空で安らかに。


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