レベルアップ・マジック~原根健太のサイドボーディング論~
こんにちは。Magic: the Gathering(以下マジック)のゴールドレベルプロ、原根健太です。今回、「サイドボーディング」をテーマにマジックの戦略記事を書きました。特定デッキにおけるデッキガイドではなく、サイドボーディング行為全般に関する記述です。本稿はサイドボーディングの意義やそれが持つ可能性について述べ、読者の皆様のプレイヤーとしてのレベルアップに役立てていただくことを目的としています。
可能な限り概念レベルの話をしていくつもりですが、例を挙げる際には、スタンダード環境のメタデッキをサンプルに扱っておりますので、他フォーマットをメインにプレイされている方には伝わりづらい部分もあるかもしれません。ご了承ください。
本稿は有料記事となっており、全文を閲覧するためには課金が必要です。満足いただけるよう誠心誠意執筆させていただきました。普段ブログにて記事を公開しておりますので、どの程度のものを書いているのかは無料公開範囲および下記リンクを参照いただければと思います。過去スポンサードプレイヤーとして活動していた際に寄稿した記事の中で、評判の良かったものも合わせて紹介しておきます。
▼ブログ
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2019年の年明けより不定期で記事を投稿しています。直近ではミシックチャンピオンシップのイベントレポートや、スタンダード環境における《運命のきずな》デッキの新たな可能性について述べています。
▼その他記事
3年計画の終わり -GPラスベガス2017レポート-
僕はマジックをプレイし始めるに際し、「3年でレベルプロに到達すること」を目標にしました。達成までのエピソードと、そこに至るまでの苦難、挑戦を通して学んだことを綴っています。
原根健太のWMC2017☆優勝☆レポート
2017年に開催されたワールド・マジック・カップの優勝レポートです。僕がサイドボーディング・テクニックによって掴んだ成功の内の一つで、記事内にはその記載もあります。
敗北に不思議の敗北なし
十分な練習を積み重ね臨んだイベントでの大敗という実体験をもとに、現状分析と問題解決に向けたアプローチを展開しています。
それでは以下、本文です。
前書き
先日のグランプリ・京都2019にて、グランプリ・メンフィス2019に続き、2大会連続のトップ8に入賞することができた。
昨年、「グランプリの初日を安定して8勝1敗できるプレイヤーになる」という目標を掲げた。初日8勝1敗の数値には「同大会においてトップ8を狙える現実的なライン」の意味合いがある。昨今のグランプリトップ8は大方13勝2敗のスコアが必要なため、初日を6勝3敗で終えた場合は目なし、7勝2敗は首の皮1枚で繋がるが、2日目は初日を通過した猛者達相手に6連勝を求められる。厳しい戦いになるし、事故もあるゲームでこれを現実のものとするのは非常に困難、トップ8を目指すのであればやはり初日は8勝1敗以上の成績を狙いたい。
直近3グランプリの初日スコアは8-1・9-0・8-1と、そこに手が届きつつある。もちろん、ブレ幅のあるゲームなのでいつまでもこうした状態が続くとは限らない。次の大会では初日落ちしていても全く不思議ではないし、それは受け入れられる。「そうし得るだけのポテンシャルを身に付けつつある」という現状を確認できればそれで良い。
僕はこれまでの大会では必ず「何かを得る事」をテーマに戦ってきた。グランプリ・静岡2018でインタビューを受けた際、その思いを語っている。
単純な勝利を欲した場面もあったが、大抵の場合は"今よりも先"を見据えた選択を行ってきたつもりだ。現在の状態はその集大成とも言える。刹那的な勝利よりも長期的に生きてくる技術の習得、プレイヤーとしての成長にこそ意義があると考えていて、力を身に付けることができれば結果は後から付いてくるし、それが無ければチャンスを得てもその道はすぐに潰えてしまう。
マジックは達人の域に達しても勝率70%のゲームと言われており、そして達人同士がぶつかり合うフィールドにおいてはその数値はさらに低下していく。1大会に期待を寄せても、そこが自分にとっての勝機となるかはわからない。プレイヤーに打てる最善は「そうなり得るだけの状態を維持し、機会に対し挑戦を繰り返していく」のみ。今僕は"そうなり得るだけの状態"を目指して耽々と力を付けている段階という訳だ。
本題に向けた話をしよう。
僕は上記の通り「プレイヤーとしての成長」にこそ意義があると思っている。「力を付ける」はこれと同じことを言っている。そして成長の内容にも色々あるが、僕は中でも「普遍的な技術を身に付けること」に注力しており、その一つが今回取り上げる「サイドボーディング」だ。サイドボーディングはマジックをプレイする上でいついかなる時も付きまとう。全フォーマット、全試合で発生する。(MTG ArenaのBO1のような例外もあるが。)
思うに、マジックにおけるサイドボーディングの重要性は過小評価されている。デッキ構築やプレイングは誰しもがこだわり議論も盛んに行われているのに対し、サイドボーディングは甘く見られがちだ。他人のサイドプランをコピーして済ませたり、その場その場で適当に済ませている人間も少なくない。
「ねぇこのマッチアップ何入れる?」
「これとこれ」
「オッケー」
友人らとの調整時などによくあるやり取りだが、僕はこれも不思議で仕方がない。聞いたという事はわからなかった訳で、答えを求めたまでは良いが、そこから「なぜそうなるのか」を知りたくはないのか。数学の問題を解いていてわからない問題に出くわした時、答えだけを見ているのと同じ状態だ。異なる値の式に出くわした時、君はきっとまたわからない。
直近では、グランプリ・京都2019のカバレージ内で伊藤敦氏インタビューの元、八十岡翔太氏がサイドボーディングに関する言及を行った。今回の記事はこれに触発されたものでもある。
確かに、マジックの文献がこの20余年の歴史の中で山ほど蓄積されてきたのに対し、サイドボーディングに関する記述はあまり見受けられない。自称記事マニアで、あらゆるマジック文献に目を通してきた僕も、そういった類のものを目にできた記憶は無い。いい機会なので、僕自身がサイドボーディングに関する見解を言語化し、記事にしようと思い立った。
ただし、上記インタビュー記事にあるようなセオリーの網羅(コントロール相手に《ラノワールのエルフ》抜けとか《ショック》抜けとか)はここでは行わない。仮に教科書のようなものを作ろうとすれば膨大な知識と労力を求められるだろう。今はそれを遂行できるだけの自信がない。だが、その内のいくつかにはこの後で触れていくので、こうした蓄積が最終的な網羅に繋がれば良いと考えている。形として残していくことに意味がある。
普遍的な知は長くゲームに取り組んでいく上で非常に価値の高い情報だ。たかだか4年競技マジックに勤しんだ身で僭越な行いであるかもしれないが、少なからず、僕は積み上げてきた理論に基づくことで少しばかりの成果を残すことができた。伝えられることもあると思う。あなたのマジックを一つ先に進める、その一助となれば幸いだ。
サイドボーディングの意義
今回のグランプリの上位卓にて、僕はスゥルタイ・ミッドレンジがシミック・ネクサス相手にサイドボード後《殺戮の暴君》をプレイしているのを目撃した。赤単相手に《ラノワールのエルフ》を並べて《ゴブリンの鎖回し》で一掃されるシーンにも出くわした。「当たり前」「大前提」だと思っているようなことも、共有の知ではないかもしれないことを知った。
情報化の進んだ現在において、マジックもその恩恵を多大に受けており、大きなイベントが開かれれば当日中、遅くともその翌日には最新のデッキリストを入手できる時代だ。強力なデッキをプレイすることは誰しもが可能になった。だが簡単なのはそこまでで、強力なデッキを「強力にプレイできるか」はまた別の話。プレイングと、そしてサイドボーディングの技術が求められる。特にミッドレンジデッキなどはメインボードにそれほど優位性が無いことが多く、その多くは対戦相手のデッキに合わせてチューニングを施したサイドボード後の戦いで真価が発揮される。サイドボーディングを正しくこなせないという事は、もはやそのデッキを正しくプレイできていないと言っても過言ではない。
「メインボードの戦いは1本しかないが、サイドボード後の戦いは最大2本ある。そのためサイドボード後の戦いの方が重要。」はよく使われる言葉だが、的を得ている。ここで、僕が好成績を収めた直近2大会の対戦結果を掲載しよう。
【グランプリ・メンフィス2019】
R1 bye
R2 bye
R3 bye
R4 マルドゥ・アグロ ○○
R5 スゥルタイ・ミッドレンジ ○○
R6 シミック・ネクサス ○○
R7 イゼット・ドレイク ○○
R8 エスパー・コントロール ×○○
R9 青単テンポ ○○
R10 スゥルタイ・ミッドレンジ ○×○
R11 赤単ミッドレンジ(タッチ黒) ○○
R12 エスパー・ミッドレンジ ○○
R13 白単アグロ ○○
R14 ID
R15 ID
SE1 スゥルタイ・ミッドレンジ ○××
【グランプリ・京都2019】
R1 bye
R2 bye
R3 bye
R4 赤単 ×○○
R5 ティムール《荒野の再生》 ○○
R6 赤単 ○○
R7 グルール ○○
R8 バント・ネクサス ×○○
R9 赤単 ×○×
R10 青単 ○○
R11 白単 ×○○
R12 エスパー・コントロール ○○
R13 スゥルタイ・ミッドレンジ ○○
R14 ティムール《荒野の再生》 ○○
R15 ID
SE1 スゥルタイ・ミッドレンジ ○××
一見して、サイドボード後の勝率の高さがわかると思う。あらゆる観点での成長を目指した僕も、サイドボーディング技術の向上には特にこだわった。なぜならそれは直接的に勝率に結び付きやすいからだ。サイドボーディングを高い精度でこなすことができれば、もちろんサイドボード後の勝率は上がるし、サイドボード後の戦いは最大2本あるので、その分有利に進められるゲームは多い。サイドボーディングの技術に長けるという事、それは揺るぎようのない絶対的なアドバンテージなのだ。
かつ、前述の通り軽視されがちな部分だと感じていたので、差別化を図りやすいポイントだとも思った。あなたはこれまでのマジック人生の中で「サイドボーディングを磨こう」と考えたことはあるだろうか。その重要性を認識こそすれど、意識的にその成長に励んだプレイヤーはそう多くないと感じている。
サイドボーディングガイドの存在
ここ最近流行しているサイドボーディングガイドの存在にも触れておこう。
昨今、サイドボーディングガイドなるものが出回るようになり、重宝されている。その様相は世のプレイヤーがいかにサイドボーディングに迷い、知識を求めているかを表しているように見えた。サイドボーディングは人によって千差万別なので、その人のスタイルや意志が垣間見えて面白い。僕は当該の記事を見るのが好きだ。しかしその上で、このガイドに依存することには問題が含まれていることを伝えておきたい。
まずサイドボーディングガイドはほとんどの場合、何かしらの成功を収めたプレイヤーが公開するのでワンテンポ遅い。例えば今大会の結果を受けて僕が「スゥルタイ・ミッドレンジ サイドボーディングガイド」を書いても大して役に立たないだろう。グランプリ前なら知りたかったかもしれないが、そういったタイミングでは基本的にガイドは出てこない。
次に、ガイドは万人に向けて公開されていて、誰もが知り得る情報である。つまり、それに対応することもまた可能という事だ。例を挙げよう。
スゥルタイ・ミッドレンジのサイドボーディングガイドでは、シミック・ネクサス相手に《クロールの銛撃ち》をサイドインしているケースが多い。2マナのパワー3は「コンボを決められる前に勝つ」という指針にも合致しており、良いプランだと思う。デッキの本質が近いティムール《荒野の再生》にも同じプランを取る傾向にあるようだ。
だが、ティムール《荒野の再生》側がこの事情を知れば《焦熱の連続砲撃》をクリティカルなカードとして採用することができる。サイドボーディングガイドから知り得た知識と言うものは、他の誰もが知り得るものだ。あなただけにとってのものではない。
またティムール《荒野の再生》は同デッキの第一人者であり、ミシックチャンピオンシップでも好成績を収めたPascal Maynardがデッキガイドを記している。
この中にはサイドボーディングガイドもあるが、スゥルタイ・ミッドレンジとの対戦では《焦熱の連続砲撃》をサイドアウトするようだ。記事はやや古いもので、上記のように《クロールの銛撃ち》をサイドインする流れが現在の主流となっていた場合、ガイドに沿う事が罠となる恐れもある。
著名なプレイヤー達による道標は非常に有難く頼りになる存在だが、「適切なタイミングで存在しない」「対応され得る」「落とし穴になり得る」などリスクもある。気持ちは理解できる。実績が保証されたものを、なるべくそのままの状態で適用したいのは自然な考えだろう。だが、それが枷であってはならない。
参考にしてはならない訳ではない。有用な情報であることに変わりはないのだ。先ほど数学の問題に例えた通り、答えを見るだけで済ませてしまうことに問題がある。掲載された情報からその意図を読み取り、知識として取り入れよう。記事であれば、大抵の場合解説が添えてある。必ず目を通すべきだ。入れ替えるカードの画像だけを追ったりしていないだろうか。単純な入れ替えだけの記述であっても、理由を求め、思考を巡らせることが大切だ。考えた時間、経験があなたを成長させる。
デッキを構築するという意識
また決められたサイドボーディングに従事することは、サイドボーディングに関する"ある考え方"が致命的に損なわれてしまう危険性がある。僕はこの考え方こそがサイドボーディングにおける最重要ポイントだと考えているので、まずはその話をしよう。
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