酸素化の指標について

今回は酸素化をモニタリングするときのいくつかの指標を解説していきます。

対象は広く、医療関係者から医師全般です。

SpO2とPaO2

初めにこの二つの違いを考えてみましょう。

よく使われるこの二つの酸素化の指標、どうやって使い分けるか案外はっきり知られていないものです。

大概この二つの違いを質問すると、

SpO2:動脈中のヘモグロビンにどれだけ酸素がくっついているか(%)PaO2:動脈中の酸素分圧(mmHg)

と定義が返ってきます。他にはヘモグロビンの酸素解離曲線を持ち出してきて、2つの相関関係を話し出す人もいますがそれは相違点ではありません。もちろん全く答えられない・興味が無い人もいます(ダメですよ 笑)。

定義だけでうまく使い分けられるようになれば嬉しいんですが、これだけではなんだかさっぱりわかりません。

PaO2がSpO2をうまく測れないときの代わりになると答える人もいますが、SaO2の方が代わりとしてはふさわしいです。

CaO2とは

話は飛びますが、ここでCaO2(動脈血酸素含有量、oxygen content of arterial blood)を見てみます。

動脈血液1dLの中にどれだけの酸素量(ml)が含まれているかを示す指標です。

CaO2 (mL/dL of blood)
= ヘモグロビンに結合している酸素の量 + 血液中に溶けている酸素の量
= 1.34 × Hgb (g/dl) × SpO2 (SaO2) + 0.003 × PaO2 (mmHg) *1

式から、SpO2はヘモグロビンに結合している酸素の量に、PaO2は血液中に溶けている酸素の量に関連しているのが分かります。

試しに健康な成人男性の値を代入してみましょう。Hgb = 15 g/dl、SpO2 = 100%、PaO2 = 90 mmHgとします。

ヘモグロビンに結合している酸素の量は、1.34×15×1.0=20.1 mL/dL
動脈血液中に溶けている酸素の量は、0.003×90=0.27 mL/dL
合計して、20.1+0.27=20.37 mL/dL

動脈血中の酸素の中でヘモグロビンに結合している酸素の割合は、20.1/20.37=0.987(98.7%)。残りの1.3%が動脈血液中に溶けている酸素の量になります。

パイチャートにする意義はあまりないかもしれませんが、貢献度を絵にして表すと以下の様な感じになります。

画像1

動脈血液中の酸素の大部分がヘモグロビンと結合していて、溶存酸素の寄与はほんの僅かであることがわかります。

それもそのはずで、人体は酸素が血液中に溶けにくいためヘモグロビンの化学的結合を利用して血液中に留めているのでした。

PaO2は動脈血中の溶存酸素量を代表していて、動脈血中の酸素量にはほぼ貢献していないことが分かりました。一方SpO2はヘモグロビン濃度同様に大部分の酸素量に貢献していることも分かりました。

ちなみにICUにいるようなヘモグロビンが低い患者ではどうでしょうか?
Hgb = 7.0 g/dl、SpO2 = 100%、PaO2 = 250 mmHgでFIO2高めの設定とします。

ヘモグロビンに結合している酸素の量は、1.34×7×1.0=9.38 mL/dL
動脈血液中に溶けている酸素の量は、0.003×250=0.75 mL/dL
合計して、9.38+0.75=10.13 mL/dL

この設定でもヘモグロビンに結合している酸素の割合は92.6%、溶存酸素の割合は7.4%となり、割合は増えますが依然として大部分はヘモグロビンに結合しています。

PaO2の意義

では、なぜ貢献度の少なそうなPaO2を計測するのでしょうか?

普通に考えたらSpO2(もしくはSaO2)で事足りるはずです。しかもSpO2は皮膚の上から経皮的に計測できるのに対して、PaO2を計測するには動脈血液を採取しなければなりません。針を刺すので、痛いですし、出血・感染のリスクもあります。

実はSpO2が「末梢(臓器)への酸素を運ぶ能力の指標」なのに対し、PaO2は「肺が血液を酸素化する能力の指標」なのです。

基本的にPaO2は「肺(と血流の関係)」のことしか考えていません。SpO2は酸素が末梢までよく行き届いているかを見ています。

脳や心臓に酸素が行き届いているか見たい場合はSpO2ですし、肺がなんらかの疾患を患っているときにどれだけ酸素を取り込めるか見たい場合はPaO2です。

PaO2で酸素の取り込み具合をみれば疾患の重症度が分かりますし、鑑別にも役立ったりします。呼吸不全の定義や、ARDSの重症度にはPaO2を使うのも納得できます。

あらためてまとめです。

SpO2:酸素運搬
PaO2:肺と血流の関係における病態把握

麻酔管理中で他の臓器保護目的の酸素化確認はPaO2ではなくてSpO2です。SpO2は米国麻酔科学会標準モニタに含まれています。

麻酔管理中でPaO2を測るのは、SpO2の低下があった時にその原因・病態を探るため、もしくは肺の酸素化能力の予備能を見たいからです。

今回はここまでです。最も親しみ深いと思われるSpO2とPaO2の二つについて触れました。次回はSpO2、SaO2、fractional saturationなどの違いについて解説する予定です。

*1 ヘモグロビンに結合している酸素量を導くためにかける定数は1.34~1.39と文献によって幅があります。

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