酸素化の指標 2

前回はSpO2とPaO2の違いについてお話ししました。

今回はfunctional saturation (SaO2)fractional saturation、さらにそれを知った上でのSpO2のエラーがテーマです。対象は医療従事者となっております。今回は難しめの内容ですので、興味のある方のみご参照ください。

SpO2、SaO2、%O2Hb

SpO2は経皮的にパルスオキシメーターを指などにつけて計測するヘモグロビンの酸素飽和度です。患者に侵襲もなく気軽に使える優秀な指標の一つです。種々のヘモグロビンの吸光度の違いを利用して値を計算しています。

一方SaO2は動脈血液ガス検査から計測するヘモグロビンの酸素飽和度です。動脈血を採取しなければいけません(COオキシメータは例外です)

SpO2とSaO2の二つ、それほど臨床で違いが問題になることはありません。SaO2が必要になるときはどうしてもSpO2が測れないときにSaO2を参照するくらいでしょうか。他には皮膚の色が濃い時に差が大きくなったりします。*1

両者とも、酸化ヘモグロビン /(酸化ヘモグロビン+還元ヘモグロビン)の割合を示しています。そのため両者の弱点は他のヘモグロビンの計測ができない点です。例えば計測できないものの代表はメトヘモグロビン(MetHb)カルボキシヘモグロビン(COHb)です。

そこでfractional saturation(%O2Hb)の登場です。これはさらにMetHbやCOHbを含めたヘモグロビンの中での酸化ヘモグロビン(HbO2)の割合を求めます。「真の」HbO2の割合とも言えます。普段は少量であるMetHbやCOHbの影響が大きいと思われる時に測ります。

ここまでで実用的には説明終了です。

一酸化炭素中毒(COHbの存在)やメトヘモグロビン血症(MetHbの存在)を疑ったら、SpO2やSaO2では感知できない・しづらいので動脈血液ガスを採取して%O2Hbないし、直接COHbやMetHbの値を見ましょう!

もう少し詳しく

もうちょっとだけ詳しく知りたい方のためにいくつか加えていきます。まずそれぞれの定義を見ていきましょう。*2

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Functional saturation (SaO2)やfractional saturationはともかくSpO2は見ただけでは意味が分かりませんね。笑

ACは動脈血、DCは静脈血。
660nmは還元ヘモグロビン(reduced Hb)の吸光が強くなる波長。
940nmは酸化ヘモグロビン(HbO2)の吸光が強くなる波長です。
これを言ってもまだよくわからないと思いますが、kとbの定数を用いてodds ratioを上手くHbO2割合に変換しています。

上記の式を見せた理由は、この式をイチから理解してもらうためではなく、660nmと940nmの吸光波長を何となく意識してもらうためです。この二つの波長をパルスオキシメーターは見ています。

次のグラフをご覧ください。各ヘモグロビンの波長による吸光度合です。*3

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この吸収波長を踏まえてCOHbとMetHbのSpO2への影響を見ていきましょう。

COHbのSpO2への影響

まずCOHbからです。

「COHb(カルボキシヘモグロビン)はHbO2(酸化ヘモグロビン)と似た特徴をもつからパルスオキシメーターが誤解釈をする」と言うのは有名な勘違いです。*4 確かに660nmではCOHbはHbO2と同じ吸光度です。しかし940nmでは吸光せずHbO2と異なります。単に940nmに対して660nmの吸光比率が高いものをSpO2高いとしているだけです。

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まぁしかし、上のグラフ *3 を見てわかる通り、パルスオキシメーターがCOHbをHbO2として認識していると考えても、特に何かに差し支えるわけでもありません。

COHbの割合のSpO2への影響は正確にはわかっていません。大体のコンセンサスとして、COHbでSpO2が高く見積もられるけれど、COHb割合が高くなったとしてもそれほど影響は変わらない、と考えられています。

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%O2HbとSpO2の差、COHbの多寡の関係を示したものですが、COHbが著しく増えてもそれほどギャップは増えません。*3

MetHbのSpO2への影響

MetHbは660nmと940nmの波長の光を同じ程度(1:1)吸収します。パルスオキシメーターは1:1の同じ程度吸収する比率をSpO2 85%と解釈します。*5

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よってMetHbの存在下では大体SpO2は100-85%の間の値になります。MetHbレベルが上昇するにつれてSpO2 85%の値へと近づきます。*6

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美しいグラフですね。

まとめ

さて今回はsaturation by pulse oximetry (SpO2)、functional saturation (SaO2)、fractional saturation (%O2Hb)とCOHb・MetHbとの関連についてお話ししました。

・SpO2、SaO2はCOHbやMetHbの要素を含まない
・一酸化炭素中毒やメトヘモグロビン血症を疑った場合は動脈血液ガス検査
・一酸化炭素中毒ではSpO2は低下しない
・メトヘモグロビン血症ではSpO2は低下していくけれど、85%あたりで下げ止まる

注・参照

*1 Bickler PE, Feiner JR, Severinghaus JW. Effects of skin pigmentation on pulse oximeter accuracy at low saturation. Anesthesiology 2005;102:715-719.
*2 Hurford WE, Kratz A. Case records of the Massachusetts General Hospital. Weekly clinicopathological exercises. Case 23-2004. A 50-year-old woman with low oxygen saturation. N Engl J Med 2004; 351:380-387.
*3 Hampton NB. Pulse Oximetry in Severe Carbon Monoxide Poisoning. Chest 1998; 114:1036–1041. Figureを一部改変
*4 Ralston AC, Webb RK, Runciman WB. Potential errors in pulse oximetry: I. Pulse oximeter evaluation. Anaesthesia 1991; 46:202–206.
*5 Alexander CM, Teller LE, Gross JB. Principles of Pulse Oximetry: Theoretical and Practical Considerations. Anesth Analg 1989; 68:368-76.
*6 Barker SJ, Tremper KK, Hyatt J. Effects of Methemoglobinemia on Pulse Oximetry and Mixed Venous Oximetry. Anesthesiology 1989; 70:112-117.

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