東京佼成ウインドオーケストラ 第163回定期演奏会鑑賞記

ゲネプロ見学


プログラム表紙

2024年1月26日(金)
 珍しく平日に有休を取得し、東京佼成ウインドオーケストラ(以下TKWO)の定期演奏会へ。実に7年ぶり…。
 サポーターズクラブのゲネプロ見学に見事当選したので、15:00前には、会場のなかのZEROへ到着。当初は15:10からゲネプロ開始予定でしたが、プロフィール写真撮影のため15:30からに変更されるとの説明。
「見学も可能です。」ということだったので、ホールへ。
 写真撮影は、サクサクと進み、いよいよゲネプロ。
 第2部のゲネプロを聴くことは滅多にないので、厚かましくも持参したスコアをめくりながら拝聴。一緒に参加した方やスタッフの皆さんには、きっと「コイツ変な奴だなあ…。」と思われていたことでしょう。
 ゲネプロ後、開演までの時間を利用し、ホテルへチェックイン。翌日のことを考えて五反田のホテルを予約していたので、チェックイン後、すぐに中野へ逆戻り。開場10分前にはホールへ到着。いよいよ開演。

1.ウインド・プレイズ(福丸光詩)

 オープニングを飾ったのは、正指揮者大井剛史・TKWOの共同委嘱による世界初演の新作。
 福丸光詩さんは、東京音楽大学修士課程在籍中の作曲家。吹奏楽界では知らない人はいない、中橋愛生さんの門下生。この新作については、TKWOのYoutubeサイトで大井剛史さん、中橋愛生さん、福丸光詩さんのトークセッションが公開されていたので、動画を視聴した上で聴いたのですが、想像以上に素晴らしい作品で感動的な初演でした。TKWOのウインド・アンサンブル編成を核としながら、各楽器の音色を生かした音の重ね方、また、神学と音楽芸術との関わりを研究しておられる福丸さんのこだわりを感じる作品でした。
 休憩時に大井さん、福丸さんのサイン入りフル・スコアの販売があったのですが、2階席からダッシュして、限定30部のスコアをゲットしたのは言うまでもありません。


福丸光詩さん、大井剛史さんのサイン入り限定フルスコア!

2.アスパイア(ジェニファー・ヒグドン)

 2曲目は、アメリカの作曲家ジェニファー・ヒグドンさんの作品で日本初演。通常の吹奏楽大編成を基にしながら、木管楽器の響きを充実させた編成で、TKWO木管メンバーの豊かな響きを堪能することができました。指揮者の大井剛史さんは、ヒグドンさんの作品に惚れこんでいて、この作品をぜひ演奏したいと願っていたそうで、念願かなっての日本初演だったようです。
(リンクは、アメリカ海兵隊バンドによるセッション録音)

 このような作品を日本を代表するプロフェッショナルが演奏することは、現在の日本の吹奏楽の現状を鑑みると、とても重要であると感じます。いわゆるコンクール至上主義の「競技吹奏楽」(私の勝手な造語ですが)の世界では、残念ながら演奏されることはないでしょう。客席には、中高生の姿もたくさん見られましたが、どんな印象を持ったのでしょうか。

3.金管楽器と打楽器のための交響曲(アルフレッド・リード)

 前半最後は、アルフレッド・リードの第1交響曲。1952年、リード31歳の作品。この作品は、リード作品の中でも屈指の傑作であるといっても過言ではありませんが、なかなか演奏されることはないと思います。
 私自身は演奏したことはありませんが、TKWOとの自作自演CD、キーストン・ウインドアンサンブルによる初稿版の録音を持っています。また、私が初めて参加した「第12回音の輪コンサート」(2000.5.4)で、リード指揮、音の輪ウインドシンフォニカ2000のリハーサルや本番の演奏を舞台袖で聴きました。生演奏を聴いたのは実に24年ぶり…。
 2階席の最前列で聴いたのですが、金管楽器の充実した音色と打楽器の素晴らしいテクニックに圧倒されました。特に第2楽章は、冒頭のユーフォニアムソロが大変素晴らしく、感動的な演奏でした。

4.第五交響曲「さくら」(アルフレッド・リード)

 個人的には、今回の演奏会で最も楽しみにしていた作品。1995年浜松で開催された第7回世界吹奏楽大会(WASBE)に参加した洗足音楽大学シンフォニックウインドオーケストラによって世界初演されました。実は、私、その世界初演を聴いています!(当時19歳・・・)1週間に渡って行われたWASBEに参加し、たくさんのコンサートを聴きました。もちろんお目当ては、リードさんの最新作の世界初演。あれからもう30年近く経つのかと思うと、時の経つのは本当に早いですね。また、2001年には、第13回A.リード音の輪コンサートでは、リードさんの指揮で演奏させていただきました。とにかく譜読みが大変だったことを覚えています。同じユーフォパートの皆さんにもたくさんご迷惑をおかけしました・・・。
 リードさんは、5つの交響曲を残しています。しかし、第五交響曲だけは、TKWOとの自作自演録音を行いませんでした。(いろいろな事情があったのでしょうが・・・。)私が知る限りでも、TKWOは演奏会でも演奏したことはないはず・・・。ですので、この作品をTKWOが演奏してくれることをずっと心待ちにしていました。(音源としては、世界初演の後に行われた、洗足学園大学シンフォニックウインドオーケストラとの自作自演セッション録音があります。日本のプロフェッショナルの演奏では、大阪市音楽団の自作自演ライブがありますが、ミスが多く、満足な演奏とは言いがたいです。)
 リードさん74歳、円熟期の渾身の作品なのですが、あまり演奏されることがありません。音源が少ないこともそうですが、何よりも出版譜に大きな問題があります。とにかくミスが多いのです。エラーをチェックし、修正するだけでも膨大な時間を要します。そのこともこの作品が再演されない理由ではないかと思います。
 前段が長くなりましたが、今回のTKWOの演奏は・・・間違いなく歴史に残る名演でした。
 第1楽章冒頭のハーモニー、躍動的な主部、華やかな金管の咆哮とまろやかな木管の響き、絶品でした。
 第2楽章は、「さくらさくら」の変奏曲。前述の音源を何度も何度も聴いてきていますが、リードの日本観と西洋音楽の伝統美が融合した音楽の魅力を改めて堪能することができる演奏でした。
 第3楽章は、疾風怒濤、全ての音符が見えるような祝祭的音楽。バルトークの「オケコン」のオマージュという見解もありますが、私は、今回初めてラフマニノフの匂いを感じました。終盤に向けて感情が高まり、「ああ、終わってしまう。終わらないで欲しい」という何ともいえない心持ちでした。
 TKWOの演奏、リードが聴いていたら、きっと喜んでいたことでしょう。

5.科戸の鵲巣ー吹奏楽の為の祝典序曲《Edition TKWO》(中橋愛生)

 コンサートの最後は、来シーズンよりTKWO学芸員に就任される中橋愛生さんの作品。同じく来シーズンより常任指揮者に就任される大井剛史さんが2014年に正指揮者に就任された際に、始めに演奏されたのがこの作品。
 2014年のライブ盤を持っているので、作品の素晴らしさは理解していたつもりでしたが、この日の演奏は、10年前の演奏をはるかに凌駕する、奇跡的な名演だと感じました。大井さんもTKWOも全身全霊を込めて、全ての音を大切に演奏していることが伝わってくるようでした。正に、この10年間の集大成にふさわしい最高の時間でした。
 そして・・・。

アンコール:マーチ「ゴールデン・イーグル」(アルフレッド・リード)

 アンコールは、リードさんのマーチ「ゴールデン・イーグル」。
 この作品は、1991年に開催された第46回国民体育大会「石川国体」のメイン行進曲として作曲されました。曲名の由来は、石川県の県鳥「イヌワシ」、そして、このマーチのトリオには、「石川県民の歌」の旋律が使われているのです。このアンコールは、この度の能登半島地震で被災された方々へ思いを寄せるという意味を込めて演奏されました。
 シンプルな構成のマーチゆえ、きっちりと演奏するのはとても難しいですが、そこは大井さんとTKWO。これぞマーチ演奏の模範といえる素晴らしい演奏でした。
 この作品の楽譜は、長く日本におけるリードさんのマネジメントを務めたAPIの呼びかけによって、現在版権を持っているオランダ・モレナール社の協力のもと、能登半島地震復興支援として演奏会等で演奏する場合、楽譜の無料貸し出しを行っています。(詳細はリンクから)
https://www.otonowa.net/20240101.html

 多くの団体がこのマーチを取り上げてくれることを期待するとともに、被災された方々に思いを寄せ、自分にできる支援を考えていきたいと思います。ちなみに、私は「ゴールデン・イーグル」のフルセットを所有しているので、いつかどこかで演奏できればなあと考えています。(小学生にはちょっと難しいのですが・・・。)

 7年ぶりのTKWO定期鑑賞。何物にも代えがたい貴重な体験でした。次は、いつ上京できるでしょうか・・・。
 以上、鑑賞記終わり!


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