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水割り

コロナが第五類に引き下げられ、
賑わいを取り戻した夜の街。
待ってましたといわんばかりに
浮かれ気分で闊歩する私。

向かうのは近所の方が営むバー。
小さい頃からの顔見知りだ。

いつものように店に入る。
だが、そこにあるのはいつもとは違う
景色。
若い女性アルバイトが入っているのだ。

彼女にも挨拶を交わし、席に着く。
マスターと軽く近況を話しながら、
アルバイトの女の子にも話を振ろうとするが
窓際から外をずっと眺め、話しかけるなオーラを
出している。
窓の外には何があるのだろうか?
宇宙人でも来ているのだろうか?
私も思わず窓の外を見るが、ネオンが輝いているのみだった。

隣に座っている友人に下品な下ネタを
投げかけていると、
カラカラカラ、2人組の女性客が入ってきた。

「キャー!嬉しい!
全然知り合い来ないからー、寂しくてぇ〜」
アルバイトの女の子がこう言う。
知り合いじゃなくてすまなかったな、、、

続けてマスターにこう話す。
「私あと3時間で21歳になるんですぅ〜
だから、お祝いに友達が来てくれました^ ^」
くっ、、、21歳、、、眩しい、、、

こうしていると更に2人組の男性客がやってくる。
私たち女2人組は相手にしてくれなかったのに
笑顔で男性客にお酒を作るアルバイト。
そしてまた始まる誕生日アピール。

徐々にバー全体がハッピーバースデー、
拍手パチパチの雰囲気に変わってくる。
宅配で届いたケーキ。
マスターが注文していたようだ。
更に高まるおめでとうと言わざるを得ない雰囲気。

私も大人だ。空拍手だってできるさ。
ただ、内心はめちゃくちゃどうでもいいと思っていた。

やっとおめでとうの雰囲気が落ち着いたが
アルバイトの子は知り合いと男性客ばかり
相手にして、空のグラスに気づかない。
読んでも話に夢中で気づかない。
マスターもボックスの客を相手にしていて
気づかない。

私のいらつきは最高潮。
飲み放題の意味とは何だろうか。

いらつきも勿論だが、正直に告白しよう。
羨ましかったのだ。
彼女が。
相手にしなくていいと判断した人には
愛想を振らず。
彼女のセンサーに引っかかった人のみ相手にする。
そして可愛がられる。
21歳でこんな力量は私にはなかった。

マスターが私にこう投げかける
「21歳。羨ましいでしょう?」
「23歳。女盛りです、これからなんで別に。」
ヘラヘラしながら沢尻エリカのような返答をするのが精一杯だった。

いてもたっていられず、店を出て
3件目のバーに向かった。

先程とは変わって、ニコニコ話してくれる
男性の店員2人。
尚更心に染みる接客。
ビールサーバーからカウンターにビールを飛ばす男性店員。
すみませんという言葉に笑顔で「全然大丈夫です」と返す私。

ああ、同性に厳しいとはこのことか、、、
お局になってしまいそうな自分に嫌気を感じながら飲む水割りは、余計に私を酔わせたのだった。

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