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爺さんの一日、一景、一笑 #13 土産

 いまでこそ、海外旅行なんていつでも、どこでも行けるが、私が学生の頃はかなり違っていた。そもそも飛行機なんぞに乗ったことは、幼少の頃、デパートの屋上でくるくる回る、一回十円の一人乗りの飛行機ぐらいだった。
 当時、日本からイギリスに行くには、北回りが早く、途中必ずアンカレッジを経由した。しかし、今は北回りとか南回りとかの言葉も死語となっている。
 先日、フランスに行った若い女の子に、
「やっぱり、今も北回りで行ったの?」
と問うと怪訝そうな顔で、
「何ですか、北回りって?」
と聞かれた!
いいおっさんが、話を合わせようとした瞬間、大昔のこととばれた。
 いま世界中をとんでもない世の中に陥れているコロナ禍も、いつかは「何?それ」って誰も気にもとめない時がくるのであろう。
 話は戻り、ある日、ケンブリッジからスコットランドまで友人と二人で旅した。ケンブリッジには約一か月滞在している。
 スコットランドは、ケンブリッジとは違い独特の風景があった。同じ英国とはいえ、まさに異国であった。(両方異国だが、、、)
同じ英国でこんなにも違うものか。
 ロンドンに行っても霧の都でもなければ、山高帽を被った紳士がいつも雨傘を持って歩いていることもなく、頭にある乏しい知識やイメージとは全く異なった場所だった。
 百聞は一見にしかず、とは実にうまく言ったものだ。
 英語があまり得意とはいえない日本人同士の友達と、昼食をとるためにレストランに入った。
 見るから高そうなフォークとスプーンが、鮮やかな刺繍を施してあるテーブルクロスの上に置かれていた。
 食事後、顔を見合わせ、
「はるばる日本からスコットランドまで来たんだし、記念に一本ぐらい貰ってもいいだろう。」
と、お互い使ったスプーンを目くばせし黙って持って帰った。
 その後、友人はネッシーを見にいくとかでネス湖まで一人で行った。私は下宿している老婆の機嫌が悪くなるので、その日の内に帰宅した。
 夜、日本への土産の一つとなったスプーンを磨いてバックにしまおうとした。
なにげなく、スプーンの裏側をひょいと見た。
「made in Japan」
確かに、英語は強くないわ! 

 そうそう、土産といえば、この下宿先に来た時、わざわざ日本から行くのだから、日本にしかない物、外国ではめずらしい和紙や人形の類がいいと、どのガイドブックにも書いてあった。
 そこで、けっこう値のはるこけし人形を土産として渡した。
しかし、家宅の老婆と老爺は、期待したほど喜ぶこともなく受け取り、形ばかりの礼を言ってくれた。
 ある夜、日本を発つ前の免税店で買ったダルマ、所謂オールドウイスキーを飲もうと、台所で水を汲んでいた。
それを見ていた爺さんが、何を飲むんだと聞く。
オールドウイスキーをみせると、
「おお!サントリーか?」
と嬉しそうな顔をする。
 一緒に飲んだ。
話をしている英語は、何を言ってるのかさっぱりわからなかったが、オールドは旨かったらしい。上機嫌だった。
 やはり、土産は「こけし」より「ダルマ」の方がよかった!
もちろんサントリーだが・・・

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