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ぶらり春光台公園 2023.4.29 

 あさひかわジオパークの会は今年度から,旭川の街をぶらりぶらりと歩きながら,大地・自然の生い立ちと歴史の痕跡を探してみることにしました。第一回は春光台公園です。軍都だった旭川と,ミズバショウが自生する水の都旭川が実感できるところです。 

図1 春光台公園の位置図。埼玉大・谷謙二研究室の等高線メーカーを使用。

 春光台公園は春光台・近文台丘陵地(以下,春光台丘陵)の南東側端にあり,住宅地が接しています。上川盆地の中に孤立する春光台丘陵は北東-南西に8.6kmの長さ,標高最高点は167.6mです(図1)。
 長く続いた旭川の冬も終わり春の訪れを感じる一つが,春光台公園のミズバショウ群落でしょうか。都市の住宅地の中でミズバショウ群落が見られる驚きがあります。春光台丘陵になぜミズバショウ群落ができたのか? 春光台丘陵の地形の成り立ちはどうなっているのか? その謎を考えながら,連休初日にぶらりと散策してみました(図2)。 

図2 散策コース図。Web地理院地図を使用。

ぶらりポイント1 集合場所である駐車場の隣に春光台配水場があります。ここは現役の配水場であり,石狩川浄水場から供給された水道水を蓄えておいて春光台の住宅地に水道を配水しています。構内は立入禁止ですが,ここの施設(覆蓋(ふくがい)付き緩速ろ過池)は1985年に近代水道百選に,2013年に土木遺産に選定されています。旧陸軍第七師団(当時は春光台丘陵の南一帯に広大な敷地を持っていた)に水道を供給するために1913年(大正2年)に作られたろ過池で,池を覆う煉瓦造りの天井(レンガ700万個)があったために覆蓋付き緩速ろ過池と呼ばれます。日本最北の軍用水道施設でした。配水場の南の敷地には神居古潭変成岩を石碑に使った軍用水道碑があり,周囲には植林されたアカマツが立っています。

図3   1:春光台配水場正門,赤煉瓦の門には土木遺産のプレート(写真2),門の横には,覆蓋付き緩速ろ過池の説明板(旭川市開基100年プレート),3:構内にサイロのような赤煉瓦建物(水道バルブ設備),左後方に覆蓋付き緩速ろ過池だった配水池,4・5:軍用水道碑

ぶらりポイント2 ミズバショウ群落に関する簡易学習施設とその横にミズバショウを観察するデッキがつくられています(図4-1)。ここはミズバショウ群落が発達する沢の最上流に当たっています。沢の水量は豊富ですが,この水は春光台配水場から配水管を通して供給されていることがわかります(図4の2と3)。エゾノリュウキンカの黄色い花も見頃でした(図4−4)。地面に顔を出したオオウバユリの力強そうな葉も見られます(図4−5)。

図4   1:ミズバショウ観察デッキから見る沢筋にミズバショウ群落,2:ミズバショウ群落の沢の最上流地点(下流側,水量が豊富,配水管を通して水が供給される),3:同地点の上流側(表面水がほとんどない),4:エゾノリュウキンカ,5:オオウバユリ

ぶらりポイント3 小砂利で簡易舗装された平坦な散策道が南西方に続きます(図5-1)。ここに若山牧水の歌碑があります。 1926(大正15)年に若山牧水(1885〜1928)は旧陸軍第七師団に所属していた歌人の斉藤瀏(1879〜1953)を訪ねて旭川に滞在し,春光台で8つの和歌を詠んだということです。2007年に「野ぶどうのもみぢの色の深けれやから松はまだ染むとせなく」と,神居古潭変成帯の緑色片岩に刻まれた歌碑が建立されました(図5−2)。この歌碑には選ばれませんでしたが,旭川や春光台の自然に見合った句も紹介します。「柏の木ゆゆしく立てど見てをれば心やはらぐその柏の木」「遠山に初雪は見ゆ旭川まちのはづれのやちより見れば」「旭川の野に霧こめて朝早し遠山嶺呂に雪は輝き」

図5   1:散策道(簡易舗装されている),2:若山牧水歌碑

ぶらりポイント4 散策道から右手に外れて沢に下りたところが地点4で(図2),そこはミズバショウ群落を間近に観察できる場所です(図6)。ここは小沢の上流部であり,幅の狭い湿地状の浅い沢になっています。ミズバショウが沢面いっぱいに広がって自生する様子は,都市の中の公園であることを忘れさせる自然の心地よさを感じます。観察会当日(4/29)はミズバショウの白い仏炎苞の数は少なくなっていて葉がだいぶ伸びていました。2023年の見頃はその1週間前くらいだったようです。 

図6   1:地点4のミズバショウ群落(2023.4.19),2:地点4のミズバショウ群落(2023.4.21),3:ミズバショウ(黄色い小さな花をもつ花序を包む白い仏炎苞と葉の大きさが調和的できれい),4:地点4のミズバショウ群落(2023.4.29当日),5:地点4のミズバショウ群落(2023.5.12,仏炎苞は倒れて葉が大きく成長した)

ぶらりポイント5 カシワやシラカバの樹木の中を歩いていると視界が開けて旭川の市街地と遠方の山並み(南東から南東方の景観)が目の前に広がります(図7−1)。この展望台では同時に春光台丘陵がどんな大地から構成されているのかも知ることができます。
大雪山からトムラウシ山,十勝岳連峰の火山列が最遠方に座しています。大雪山の手前に見える低い山は甘水山(山頂が尖って三角形状に見えるので見つけやすい)とその右隣の旭山です。これらは鮮新世の単成火山です。さらに十勝岳連峰の右(南)の方に目をやると,旭川市街地から南の方(美瑛方面)に景観が開けているのがよくわかります。展望台から市街地の街並みも一望できます。手前に広がっているのは春光町地区(図2)です。ここはかつて旧陸軍第七師団の敷地が拡がっていたところです。詳しくは『論 旭川』by momongaという旭川の歴史や見所を深く紹介した優れたホームページを参照してください。 
この展望台では地肌が露出しています。そのため春光台丘陵がどんな地質でできているのかがわかります。最表層は黒褐色の土壌ですが,その下位は火砕流堆積物になっています(図7-2)。火山灰には石英や斜長石・黒雲母が含まれます。上部は浸食によって凸凹していて風化が進んで褐色になっています(図7-1)。この火砕流堆積物は,最遠方に見える火山列ができる前にそこから巨大噴火で上川盆地に流れ下った火砕流によるものです。砂礫層をはさんでもう一枚の古い火砕流堆積物(雨月沢火砕流 -池田・向山1983- の可能性あり)が丘陵の下部にあります(あさひかわジオパークの会・中谷良弘さんの調査)。
春光台丘陵は南側が標高が高くなって急崖になっています(図1)。丘陵の南端は北東から南西に直線状に切り立っています。石狩川が比布町から旭川市に流れ下る方向と並行します。上川盆地は沈降帯ですが,この春光台丘陵は局所的に隆起したところなのかもしれません。

図7   1:展望台からの景観,2:火砕流堆積物表層,3:当日4/29のぶらりツアーで堆積物を観察

ぶらりポイント6 徳富蘆花(1868〜1927)が1909年に発表した小説「寄生木」は旧陸軍第七師団の見習士官だった小笠原善平(宮古市)の半生を元にしたもので蘆花は1910(明治43)年に旭川を訪れました。1910年は 大逆事件が起こった年です。この春光台で「春光台腸(はらわた)断ちし若人を偲びて立てば秋の風吹く」と詠んで恋愛がかなわずに自死した善平に思い至ります。1958(昭和33)年にこの碑が建立されました(図8−1)。
この碑からクマザサの中の小道を200mほど進むと,高射砲台座跡があります(図8-2)。春光台丘陵は第七師団の演習地でした。

図8   1:徳冨蘆花寄生木ゆかりの地の碑,2:高射砲台座跡

ぶらりポイント7 舗装された散策道の終点,蘆花「寄生木」ゆかりの地から坂を下っていきます。右手の谷地形はミズバショウ群落が自生する沢ですが,ここでは上流部に比べて深く幅のある谷になっているのがわかります。砂利道を下まで降りると,旭川幌加内線(道道72号)に達するので,この道路の地下道(図8−1)を通って反対側の春光台公園に行きます。ここは風の子広場と呼ばれ,子供たちには格好の遊び場になっています。とくに「風の子館」(図8-2)は日本で初めて構想された木製屋根付き遊具で1994(平成6)年に竣工されました。現在コロナ禍の影響で風の子館内部は封鎖されています。

図8    1:旭川幌加内線の道路を横切るアンダーパス,2:風の子館

ぶらりポイント8 風の子館から戻ったところの下道の沢筋に地層が露出しています(図9)。火砕流堆積物を削った谷に堆積した地層です。盛り土の下には粘土層や腐植,砂礫層が成層しています(図9-2・3)。

図9    1:沢筋に露出する地層,2・3:上位から盛り土,粘土層・砂層,腐植層,砂礫層。

ぶらりポイント9 下道の谷に沿って流れる小川や湿地帯に連続してミズバショウ群落が発達しています。およそ900mに渡って沢の最上流までミズバショウ群落が続きます。ミズバショウの自生に必要な豊富な水量は自然の沢水だけでは足りず,春光台配水場から供給される水道水が安定した水量を補給していると考えることができます。この水道水の水は大雪山に源を発する石狩川がもたらすもので,水質が良好です。沢が深く削られずに湿地帯ができるほどの緩やかな谷地形であることや市街地に比べて標高が高いのでより冷涼な気候であることもこの地がミズバショウには適したものであるのでしょう。何より旭川市公園緑地協会・春光台公園管理事務所の皆さんが管理・保全していることもミズバショウ群落の保護に重要です。

図10A  1:沢の下流部沿いに整備された散策道(ミズバショウ群落が沢沿い,湿地に自生),2:下道を上がって上の散策道に至る道(コケ類や樹木の根が道を覆う),3:シラカバ,4:カシワ(シラカバよりも遅れて大きな葉をつける),5:ザゼンソウ(下道のミズバショウ群落の中に見られる),6:1m近く大きく成長したミズバショウの葉(2023.5.12)
図10B   1:六の沢の湿地に自生するミズバショウ(2023.4.21),2:参加者集合写真,六の沢湿地(観察会当日,2023.4.29),3:六の沢湿地(2023.4.29),4:六の沢湿地(2023.5.12,湿地は葉が成長してミズバショウは密集状態になってきた,カモのつがいが間をかき分けていた)

                   あさひかわジオパークの会・和田恵治
                               2023.5.25





 

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