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ひきこもりの部屋から見える空は雨曇りなのか?

京本は不幸だったのか?

京本は「人が怖くなって」いわゆるひきこもり状態になった。ひきこもりと言えば一般的には不幸なイメージを持たれる。では京本も不幸だったのだろうか?おそらく本人の中ではそれなりに幸せな日々を過ごせていたことだろう。なぜならば彼女には「絵を描く」「漫画を読む」という唯一無二の楽しみ・生きがいがあったからである。彼女の部屋の前には大量の画材が積まれていたが、彼女は学校に行っていない間ずっと絵を描いていた。そして藤野が描く4コマ漫画も楽しみにしていたと言う。本作ルックバックは、「不幸なひきこもり少女を漫画の力で外に連れ出す」なんていうお話では決してない。藤野にはそんなつもりはなかったし、仮にそういう意図があったとしてもそれは傲慢に他ならないのである。漫画やアニメや映画その他のエンターテインメント作品たちは人に活力を与え感動を与え原動力を与える。それらはポジティブなパワーとして語られるが、必ずしも幸福な結果だけを生むとは限らないだろう。クリエイティブを追及しすぎるが故に周囲の人々との衝突を起こすかもしれない。好きだったはずのモノ・コトが嫌いになってしまうかもしれない。アシスタントの件で苛立つ藤野はいかにも「プロ」であったが楽しそうでは決してない。

実は、藤野があの4コマ漫画の力で京本を外に連れ出したように、京本はその抜群の画力によって藤野の競争心を駆り立てていた。お互いがお互いを刺激しあい、そしてお互いがお互いを不幸に導いたのである。京本が描いた4コマ漫画「背中をみろ」京本を助けたつもりの藤野の背中には斧が突き刺さっている。彼女も傷を負ったのである。

--続く--

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