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なにがなんでも阪神ファン   ~とーちゃんの虎日記~



2024・9・10 青柳さん…出番です


とーちゃんは阪神ファンである。
しかし阪神グッズは身に着けないし、ことさら阪神ファンであることを口外しない。
だからとーちゃんが阪神ファンであることは知られていないかというと…そうでもない。
とーちゃんは漫画家で、「なにがなんでも阪神ファン」という作品を描いてデビューした。
他に「ああ猛虎軍」という作品も描いていた。
だから身近な人というよりも、顔も知らない人に「熱狂的な虎キチ」と思われているようである…まぁその通りなのだが…。


今シーズンの開幕前、知らない人からキーホルダーを貰った。
とーちゃんの知人が「とーちゃんに渡してくれ」と預かったプレゼントらしい。

見ると、安っぽいキーホルダーが数本。
黄色いプラスチックの棒に阪神マーク、ローマ字で選手の名前が白い塗料で印刷されている。
「NAKANO 51」「AOYAGI 17」
「SAIKI 35」は3本もある。
ガチャガチャを回して被った余りだということはすぐにわかった。
失礼な話である。
ごみを捨てる罪悪感を他人に押し付けて自分だけ気持ち良くなる。
ごみ処理係にされるこっちはたまったものではない。
阪神ファンなら喜ぶだろうと思ったのだろうが、それなら大山と佐藤をよこせと言いたい。
本来憤慨すべきところなのだが、貰うことにした。
というのも、知人にそのキーホルダーを突っ返してもその人が困ることになる。
迷惑なのは知人の知人なのであって、知人ではない。
もうひとつは、とーちゃんのカギを付けているキーホルダーが壊れていたからである。

10年以上前に買ったキーホルダーには立派な革細工が付いていた。
しかし、毎日ポケットに入れているうちに、その革細工がちぎれてしまいキーリングだけになってしまっていた。
新しいものを買わなければと思っていたところだった。
この状態では寂しいのでこのキーホルダーを付けておこうと思った。
どうせこれもすぐにちぎれるだろうが、新しいものを買うまでの間のことだ。
数本あったキーホルダーのうち2本を適当に取り、鍵につなげた。
選んだわけではないのだが、中野と才木だった。


こうして2024年のペナントレースは始まった。
キーホルダーはちぎれなかったが、さすが安物である、名前を書いた塗料が剥げ始めた。
そして才木はついにその才能を開花させ、先発投手として勝ちを積み重ね、中野も順調に安打を積み重ねた。
キーホルダーの塗料は彼らの活躍と歩調を合わせるようにすり減っていった。
こうなってくると、とーちゃんの中ではキーホルダーがただのキーホルダーではないように思えてくる。
それが彼らの魂のように思える。
才木も中野も何かをすり減らして頑張っているんだと思うと心が熱くなる。
今日も中野が打って才木が勝った。
試合後、とーちゃんはポケットからキーホルダーを取り出して眺める。
もう文字が剥げて読めなくなっているが、とーちゃんにとってそれは間違いなく中野と才木だ。
「お前らよく頑張っとる。」
とーちゃんがそう呟く。


夏が来て、2人に疲れが出たのか、才木は勝てなくなり、中野は打率が下がった。
キーホルダーの文字はほとんど剥げて全く読めない。
それでもとーちゃんはキーホルダーに檄を飛ばす。
「頑張れ…中野、才木。ここが正念場だ。」


秋になり、ついに中野がちぎれた。
それでも現実の中野は調子を取り戻しつつあった。
「キーホルダーなんか関係ない!頑張れ中野!」
阪神は残り16試合、首位の巨人と2.5ゲーム差。
キーホルダーなどと言っている場合ではない。
今日から4位横浜、2位広島、ヤクルトとの7連戦。
今期のタイガースの運命はここで決まる。
7連戦の初戦の先発は……
そこでとーちゃんは気付く。
「青柳のキーホルダーがあるやんか!」


とーちゃんは鍵に青柳のキーホルダーをガッチリ付けた。
「すまんな青柳さん。今季、活躍できなかったのはキーホルダーを付けなかったわしのせいかもしれない。でも今日は頑張ってくれ!」
そうキーホルダーに念じながら、テレビの前に座るとーちゃんであった。


2024.09.10 甲子園
DeNA 000200000  2
阪神   01011220X  7

先発青柳は、初回から球がきれ、2併殺を取る彼らしい好投。
らしいと言えば4回にゲリラ豪雨を呼んで2点を取られるが、その裏自らの炎のセフティースクイズで同点。
その後、森下の逆転ソロホームランで、青柳は見事勝利投手となった。
「シーズンを戦ってきた投手は皆疲れている。青柳さん…そろそろ2年連続最多勝の疲れも癒えたやろ。ここからがあなたの出番です。」






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