見出し画像

翼をください


おすすめの記事がマッチングアプリ体験談で埋まって憂鬱である。
自身の記事を省みることなく、不快だ。

いや待てよ、アタシはたから見たらこんな感じなの?嘘だろ、嘘だと言ってくれ。
少し記事を読んでみても、アタシの体験て結構普通なのか?普通で済ませたくないぞ!あまりにも!

氾濫する記事の中で埋もれてしまうことは承知で更新してくからみんなついてきてよね!



突然だけど、翼がほしい。
いつの日か小学校で歌ったあの歌のように翼がほしい。
でもその前に、性行為という概念を消してくれ。
それから、翼を与えてくれ。
頼む。

性行為ってマジでいらない。
本当にいらない。
必要性がどこにもない。
子孫繁栄とかどうでもいいだろ、この腐りきった国で。

子孫繁栄とは別として、お年頃になると盛るというのは誰もが通ってもおかしくない道だ。
アタシも実際その1人なのだから。

にしても、不要だな。
性的な行為ってマジで、いらねえ。

自慰で済ませてしまえ、全部。
事足りるだろ。

穴に棒入れて動かして、それって、なんの意味があるんだよ。
どんな愛を確かめ合えるって言うの。
教えてくれ、マジで。


支離滅裂な発言に聞こえるかもしれないが、そういう欲に溺れた側の人間だからこそ、そう確信しているのだ。

つい先日、Twitterの相互に会った。
アタシの中でTwitterとは生活の一部なので、相互だって生活の一部。
その相互は長年の付き合いで、他の媒体でも繋がりがある。

頻繁にLINEもするし、会うのも初めてではない。
相手は1度、Twitterで垣間見えるアタシのだらしがなさすぎる生活に呆れて1度切れていた。
しかし、時間が経ち、また元の関係に戻った。

彼氏はその相手を良く思っていない。
それはごく自然なことで、仕方ないことだ。
Twitter上での異性との関係なんて信用ならないことは承知だし、でもそれでも、アタシにとってはかけがえのない存在である。(相互をかけがえのない存在とか言っちゃうあたり、彼氏は嫌悪しか向けない)

彼氏の監視の隙を盗んで、会いに行った。
ごめん。ここで謝っておこう。

前に会ってから、1年が経つものの普通の温度感で話せる。これを心地いいというんだろうか。

県外から来てくれた相互と街を歩いた。行くあてもなく、ずっと。
アタシの地元には観光できる場所なんてなく、でも、それを承知で相互は会いに来てくれたのだ。
暑いね、腹立たしいほどの気候だよ、なんて文句を垂れ流しながら、ビルの間を縫ってほっつき歩いた。

でも、それさえ楽しいのだ。
Twitterで知り合った相手に会うなんて、結構なリスクを背負っていると分かっているが、アタシの中では結構普通なことで、非現実的な感覚を与えてくれて、とても楽しい。

話すと訛りが出たり、それを指摘し合ったり、新鮮だった。

有名な中華料理屋に入って、カップルの相席した。
あきらかに"陽"な感じのカップル。
顔を上げる度に、目が合って気まずかった。

喫煙所があるのかないのか、と相互と話していると、
「あそこにありますよ」と、話に割って入ってきた。
ひゅ、と背筋が凍る。
恐るべし、"陽"。
こここここ、こ、怖すぎる。

「カップルですか?」とか聞かれちゃって。
ちげぇよ、全く。
笑いながら否定すると、「やっぱそうなんですね」と言われた。やっぱ、と使うのはアタシがペアリングをしていたからだと思う。
アタシは彼氏と作ったペアリングを薬指に付けていた。対して、相互の指には何もない。そこから分かったんだろうと予想した。

カップルの女性の方が煙草を吸いに行ったタイミングで、相互も吸いに行った。
逃げるように、何も言わずに。
おい、ふざけるな。と思いながら、辛口のジンジャーエールに口をつけた。

テーブルには、赤の他人の男とアタシだけ。
何だこの状況。意味がわからない。
逃げ出したかった。スマホに目線を集中させ、相互に『帰ってこい!』とLINEを入れる。
そして、Twitterに『陽キャに絡まれた(笑)』と状況を説明するツイートをしたところで、
お酒で顔が真っ赤になった彼氏の方に、「本当に友達なんすか?」と再度尋ねられた。
友達…というか相互なんだけどな。Twitterの相互です!なんて口が裂けても言えず、『そうです!』と言った。

「えーえっちしてないんすか、ホントに?」
それ、セクハラだろおい。と思いながら首を横に振り続けた。
まあ確かに、あきらかに変な二人組だ。アタシたち。
相互は県外人で話し方に訛りがある。
相席ほど近い距離ならすぐに分かったはずだ。

そんな相手と、地元のアタシ。
友達、と言うにはなんだか違和がある。

『そんな風に見えます?』と、言うと。
「うん、見えるよー」と言われ、たまったもんじゃない。いや、仕方ないのか。これ、どっち側が悪いんだ。

お互いの相手が戻ってきて話は終わった。

カップルは帰り際、「またどっかで会いましょ〜」なんて言って帰って行った。
最初から最後まで、"陽"だった。
妙な気疲れをしてしまった。

アタシたちも、中華料理屋を出て、相互がとったビジネスホテルまで歩いた。
ぱんぱんになったお腹を擦りながら、熱帯夜を歩く。

相互と会った場所は、地元が近い。
全然、日帰りで帰れる距離だった。
しかし、夜行バスに乗って会いに来てくれた相互とのかけがえのない時間。日帰りで済ますには勿体なかった。

お互い、同じ気持ちだったと思うし、
前回も同じような流れだった。

その夜は、長く短かった。
くだらないバラエティや、オリンピックを見ながらゴロゴロして、ホテルの最寄りのドンキに酒やお菓子、アイスを買い足し、部屋に戻った。

その日は月曜だったので、月曜から夜ふかしを見ながら、笑っていた。


そんなつもりはなかった。
と言えば、嘘になる。

そりゃ、最低限のものしか揃っていないビジホは狭く、ベッドも大きくはなかった。

くっついてしまう身体はどうしようもなく、酒で火照ってた。(うそ、シラフ)

前から自分は異性との距離が変だと指摘されていたが、そういうところなんだろうな、とつくづく思う。

相互は今のアタシの状況を知っている。
Tinderでのだらしない生活から、同じ学校出の恋人ができてそこから抜け出そうとしている。
それを理解しているからこそ、最低限しか触れてこなかった。

けど、アタシは違った。
その恋人(つまり彼氏)との関係に少し惰性が生じ、Twitterには日々彼氏の愚痴を綴っていた。


からかいたくなってしまったのだ。
ああ、アタシって本当にどうしようもないよ。

相互は言った。
「今、お前は頑張ってる時期だし、それを俺が壊すのは違うって、分かってる………」とかなんとか。
そこで、抱いた感情は嬉しいだった。
"頑張ってる"という言葉。

そうなんだよ、アタシ今頑張ってるの。
落ちきった生活を元の当たり前に戻すのはとてもとても難しい。
落ちきった生活の過程を見ていない今の彼氏は、
当たり前の生活を当たり前に送ることを前提に話してくる。(恋人がいるんだから異性と連絡取らない、とか、位置情報の共有、とか、今何してるかの写真報告とか)でも、アタシにとってはそれをすることは、努力とも言えた。
当たり前に戻るために、頑張らなければいけない。
ヤンキーが真面目になると褒められる、
みたいな、あの感じ。
落ちたものを元のラインに戻すのはとてつもなく難しい。だから、ヤンキーだって少し頑張れば賞賛されるのだ。

彼氏への義務感は、当たり前の生活を取り戻すための義務だった。でも、彼氏はそれを義務とは捉えない。
彼氏はマッチングアプリをやっていたアタシ(=落ちきった生活)を明確に嫌悪している。
だからこそ、アタシの理解して欲しい部分まではそれが届かない。
それが、アタシにはどうしようもなく悲しかった。
自分を天に届く高さまで棚に上げてるのは分かってる。でも、それでも、「受け入れる」ことをして欲しい。

その相互の"頑張ってる"を聞いた時、こいつは、受け入れてくれてるんだろうな、と思ってしまった。

その受け入れは、相互という距離感だからこそだと思うし、彼氏と相互を同じ天秤にかけるなんて邪道だ。でも、その、非現実的な感覚は、アタシに多大なる幸福感を与えた。

傍から見たら、落ちきった生活に逆戻りに見えるだろうが、相互は特別だった。
そう本当に、特別なの。


全てを許してしまった。
近くなった距離を遠ざけることはできなかった。

きっと相互は優しいから、からかいに乗ってくれたんだと思う。

筋肉で分厚い相互の身体を抱きしめていたら、
みるみるうちに時間は過ぎ、5時間以上経っていた。

ホテルの窓はすぐに壁で、明るくなった外なんて伝えてくれることもなく、ただ、その時間が永遠に続けばいいと本気で思った。


また、元の生活に逆戻りだ。
と、自分のどうしようもなさに絶望しながらもそのでは離さなかった。
だって、もう、疲れてしまったの。
どうすればよかったかなんて、分かってた。


いわゆる本番はしなかった。

状況も状況で、しないのが正解だった。
(いやもうすでに不正解を叩き出しているが)

でも、その時間がどうしようもなく幸せだったのは事実だ。



アタシの中で性行為は、嫌悪の塊でしかない。
不特定多数とそんな勤しみをしたアタシにとって、性行為をすることは、特別でもなんでもなくなってしまったのだ。
今との彼氏だって"流れで"なんて感じでそういった行為に及んだ。

そこで導かれる思考は、性行為をしない相手への特別視だ。
もはや、その相互とことを終えてしまえばよかったと、少し思う。(それはまた話すね)

彼氏さえ、アタシの中で不特定多数にしてしまったアタシは、性行為をしない相手への敬意に近いものを持ってしまう。

ことを済ませなかったせいで、ああ、
本当に、相互が特別になってしまう。
それがとてつもなく怖かった。


1泊2日の相互との時間はあっという間に過ぎた。
2日目は距離感がバグを起こし、ペアリングをつけた手で手を繋いでいた。

ああ、アタシは地獄に落ちるだろう。
いっそここで天罰が下ってしまえばいいのに。
と、人が多すぎる駅でそんなことを考えていた。

アタシは相互にとって、相互に過ぎない。
しかも、アタシは股の緩い彼氏持ち。
相互にとっても、彼氏にとっても、究極な程に残酷なことをしている自覚はあった。

謝っても済まされない、大罪だ。



別れ際、泣いてしまった。
なんの涙かは、分からなかった。
分からないと言えば嘘になる、それは、彼氏への罪悪感からなのか、相互と別れる寂しさからなのか、どちらかなのかが分からなかった。


相互が特別になってしまうのは、危険だった。
今後の関係も踏まえて、全てが。

別れた後、帰りの電車で嗚咽が出るほど泣いた。
目が腫れる感覚もあった。
それはなんの涙なのか。

相互が特別になってしまったことへの恐怖が、確実にあった。



こんなどうしようもないアタシを受け入れてくれる人間なんぞ、存在しない。


ああ、性行為などという概念が存在しなければ!
アタシが相互を特別であると思うことも、彼氏との"流れで"のことも消し去ってしまえるのにと、
夢のようなことを本気で思う。




アタシは許されない。
許されることを望んでいないのかもしれない。


終わりのない生活は絶望しか招かない。
もう、終わりにしたかった。
線路の中にでも突っ込んで、なかったことにしたい。

でも、したくない。

特別になってしまった相互との時間も、
彼氏との生活も切り離したくなかった。


そんな最低なことを考えながら、アタシは帰路につき、自ら命を落とすこともなく家へと帰った。



ただいま、アタシのごく普通な生活。







この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?