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うららかに

中学の頃、好きだったのは読書だ。

SNSをこの世から無くしたら、人口の半分は読書好きとなるだろう。とても靱やかで自由。

休み時間に読書。給食後に読書。授業中もこっそり読書。トイレでも読書。家帰っても読書。寝る前に読書。読書。読書。読書。

とりわけ中学の頃好きだった作家さんは有川浩さんで、図書館戦争なんかはページがバリバリになるまで読んだ。

名作とされる本は概ね抑えて、好きな作家さんも見つけ、ネットで人気の本なんかを調べるようにもなった。

そんな中出てきたのが「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」
超泣ける、と話題沸騰する直前くらいに見つけた。最近映画化されましたね。

ワクワク。

買った。

ページをめくる。

文体は正直あまり好みでは無かった。しかし、物語の進め方がシンプルで読みやすい。確かに泣けるかも。でもうーん、思ってたほど?

読んだ方なら分かると思うが、この話が本当に泣けるのは最後の最後だ。


その1番いいシーンは中学の校舎で読んだ。

その時の事を強烈に覚えている。
四限の移動教室の英語、始まる前の休み時間に窓際の2番目の列、前から3列目辺り。大きく、広く晴れていた。
あまり使われていない教室で机も綺麗では無いし、棚なんて埃を被っている。
そんな事なんて気にならないくらい、良いシーン。
周りの声もあまり耳に入らない。テストが自分だけ早く終わって、伏せた時に微かに耳に入る鉛筆の音くらいのそれ。


あの例の手紙を読んでいるシーン、鼻の奥がグッときた所で、




「ねぇね、ダンゴムシって色付けたら毛虫と同じくらいキモない?」



…?


……??


本当に。


お前はよりによって今……!!!!!

その時1番仲の良かった友達が話しかけてきた。
信じられないよ、お前。
よりによってダンゴムシ。
毛虫?
確かにキモイかもだけど。

私が集中して本を読んでる事も露知らず続けるそいつは、


「小さい子なんかはダンゴムシ余裕で触るけどさ、毛虫は触んねぇでしょ?ほぼ一緒だよあれ、触れて分かるのはありんこまでだね、思わない?でも色味って大切なのかも。だってギラギラのあたしとか櫻井先生とかいたら触んないよね」


とても、心底、強烈に、すごく、どうでもいい。

触らない。もん。


今いい所読んでたんだけどって、ギラギラじゃなくても触らないよって、伝えようと顔を上げたら満面の笑みで見返してきた。


「どお?どう思う?」



なんか、どうでもよくなっちゃった。


いつもの口角をニンマリ上げて、猫っ毛を風に任せて靡いている。目元のほくろだっていつも通り。手は少し乾燥気味で、スカートは気持ち程度短く見せている。
いつもの、いつものあいつ。



生きてる!



本とか、やっぱりいいし、すごく堪らない。
だけどさ、本って心の水とか太陽みたいなもんだからさ、目先の馬鹿みたいな、クソどうでもいい話するこいつが、笑ってられればいいなって、


あの花が咲く丘で〜、は残念な事に泣けなかったけど、忘れられない一冊だ。




私が中学の頃好きだったのは、読書とその女の子である。

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