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たぎるBLレビュー その3 ハードに刺せ

どうもどうも、統合です。

この記事は除夜の鐘ニー(ニー?)企画「自慰のためのBL紹介」第三弾です。
この企画は「自慰に用いる」という観点から捉え直したときに、僕が良いと感じた作品を紹介していくものです。皆さんが新しいオカズに出会えれば、また新しい観点からBLを見直し語り合う機会になれば幸いです。
コメディ寄りシリアス寄りの作品をそれぞれ紹介してきましたが、最終回の今回はハードな描写を含む作品を紹介していこうと思います。

前の記事でも少し書きましたが、BLを読んでいくと、人に勧める上でちょっと躊躇するような描写が含まれる作品がけっこうあるんですね。
同意のない性行為や、未成年との関係など、それらが現実世界でも許容されるという価値観が形成されると困った事態につながるような描写です。
読者の側でそれらがファンタジーだと認識できていればいいのですが、誰が読むのかわからない企画で安易に紹介するのは気が進まなかったため、その辺りに注意を払いながらこれまで紹介させていただきました。

こうした要素って、俗に”地雷”と呼ばれることがあるのですが、しかしながら僕は安易な地雷という括り方に対しても慎重でありたいと思っています。
そういった要素を扱いながらも作品としてしっかりと筋を通して問題それ自体を描いているようなものも数多くあるので、その要素が含まれるだけで忌避するのはもったいないように思います。

そんなわけで、今回はより過激な描写を含みつつも楽しめるような作品をご紹介できればと思います。
ただ人によって向き不向きはあると思いますので、不安な方はもう少し他の情報も集めたうえでトライするか決めてください。
各作品を読むにあたって注意が必要な要素を簡単に書いておきました。どうぞ参考にしてください。


MADK/硯遼


モツ・悪魔・男子・高校生、BLの極北へ。

注意点:カニバリズム、人体切断、人外、レイプ

異常性癖ゆえに周囲から孤立していた男子高校生・マコトが悪魔を召喚して悪魔の身体を食べながらセックスするという衝撃の第一話で話題をさらった硯遼先生の「MADK」です。
異常性癖好きのみんな、おかえりなさい、いいお家です。
宮野真守さんの熱演も好評だった「カネキくんがッ喰べながら!カネキくんをッ喰べたい!そうしたい!!」でお馴染み東京喰種の月山さんもこれにはニッコリしてくれることでしょう。

この1話はもともとPixivに上がっていたのかな?単行本になる前に読んだ覚えがあります。
同人作品の中にはもっとキツいゴア描写もあるし解体新書みたいなセックスもあるんですけど、この作品では息の詰まる閉塞感とそこからの一時の解放が堕落した悦楽とともに丹念に描き出されていて、マコトくんの性と覇道の行く末を固唾を飲んで見守りたくなる魔力が込められているんです。ああ、また早口に……。

BLの真髄の1つって、秘めたる想いとその解放だと思うんですよ。もっと寛容でなかった時代には同性への恋慕それ自体が秘めるべきものであったし、時代がくだっても恋心自体は容易に打ち明けられないものであり続けますよね。
そこに友情や関係性の歴史が積み重なれば想いはどんどん内に向かっていき、それが解放された時のカタルシスを読者は期待してしまうのかな、と。
であれば、社会の中に公然の感情が増えるにつれて、これまでより一層秘められてきた感情を物語として暴きたくなるのも道理かと思うんです。
カニバリズム、主従の逆転、愛憎の入り混じり、この作品の中ではきわめて奔放な世界観の中で、容易に紐解けないそうした激情がそこかしこに渦巻いています。

そう、1話こそ男子高校生が悪魔をもぐもぐする話として耳目を集めたと思うんですが、その後に続くお話はそうしたフェティッシュな描写をベースに、マコトと彼の召喚した魔界の大公爵・Jとの愛と憎しみの相剋が繰り広げられます。BLのレビューかこれ?

2020年現在既刊2巻で連載中の作品ですが、2巻はJを破滅させるためにマコちゃんが魔界を旅するお話なのでこれほんとにBLでジャンルあってますか?
そもそも複数のペニスぶら下げてるキャラがいたり性別不明のキャラが複数いたりなので何をもってBLと判断しているのかよくわからないんですけどこれはBLだと思います。
出てくる悪魔も異形だらけなので出版社の人もどこを黒塗り修正すればいいのか迷ったんじゃないかな。だいたい触手っぽいのには修正入ってますね。
個人的に2巻最大の山場は堕天娼というえっちしいたけがドロドロになっているシーンでしたがプレイ内容はノーマルな輪姦です。やっぱり1話の喉姦(下から)が凄かったからね。

速度が……速度が抑えられない……!

人外異形が跋扈する魔界で生者には不可能な体位が繰り広げられるMADK、ここまでのレビューに最後までついてきている皆さんはぜひお試しください。


夜はともだち/井戸ぎほう


よろこんでほしい/よろこばないでほしい。

注意点:SMプレイ、流血、セーフワード無視

続いては井戸ぎほう先生の「夜はともだち」です。
表紙からしてフェティッシュな感じがしますね。

人当たりの良い真澄が最近よく一緒にいるのは無口で無表情な飛田くん。
あるきっかけから飛田くんがゲイで緊縛や調教といったプレイに傾倒していることを知った真澄は飛田くんに攻め方を教わりながらS役をこなすようになります。
たっぷりいじめて、飛田くんから名前を呼ばれたらおしまい。
しかし真澄はそれ以上を求めるようになってしまい……。

一番初めにMADKを紹介してしまったものだから、読み直してみても「あれ?これは普通に大丈夫なやつか?」と思ってしまいましたが、流血描写とか、セーフワードを越えての無理強いとかもあるのでやっぱり紹介に当たっては注意が必要な作品かな、と思いました。

真澄も初めは手探りで緊縛、言葉責めをしながら、セーフワードのことや飛田くんがどうされると気持ちよくなるのかを学習していきます。サービスのSです。手探りで緊縛、言葉責め、してみたいですよね。
ちなみに、僕も専門ではないのですが念のため簡単に解説しておくと、SMプレイでは加減を間違えて事故につながらないよう、事前にこの言葉を言ったらプレイを終了する、というセーフワードを設定しておくことが多いようです。プレイの一環で口をついて出る「無理」や「痛い」などと、本当に無理な時を判別するためですね。
それから、SMプレイはただ乱暴にすればいいだけじゃなくて、S側はMの要求を察知して応える必要があります。これがサービスのS。
一方でMの側でも、自分の反応をコントロールすることで相手の嗜虐心を満たしたり、行動を引き出したりもできるわけです。
この辺りの主従関係の多層性は、物語を楽しむためのポイントになることも多いです。

本作では、飛田くんに求められるがままにS役をこなしていた真澄が、次第に自分は役割以上のことは期待されていないのかと葛藤を覚えるようになっていきます。
そうした役割を求められることへの真澄のもどかしさや切なさ、苛立ちが井戸先生によって丁寧に描写されています。

特に#5からの展開がとても良いんです。明らかに異常な事態が起こっているのに、その当事者がまったくそのことを気にかけずに今までと変わらない受け答えをする、という異様さが私大好きでして……。
犯罪は善人の顔をしてするべきですね。

飛田くんの表情もとっても素敵で、普段の冷めた目線が苦悶にゆがみつつも快楽に染まっていくの、本当にドキドキしてしまう。大丈夫か?僕の今後のキャラクター。
ところが物語の後半では彼の表情の変化が日常場面とプレイ時とで反転するようになります。宇宙のように昏い瞳が、何を伝えたかったのか。

とにかくこういう痛々しい繋がりと主従のゆらぎが僕は好きです。
一口にSMといっても作品によって明るいもの暗いものなど脚色はかなり異なるので皆さんもお好みの作品を探してみてください。


にいちゃん/はらだ


正しさもまやかしも背にして。

注意点:未成年者への性加害、暴行、親子関係

冒頭、成人男性が小学生男子に対して性的加害に及ぼうとするシーンから始まる本作です。
明らかに12歳以下(日本における性的同意年齢)との性行為はもとより、高校生同士の性描写も正直どうなのかな、と思っている統合です。
やまなしおちなし意味なしみたいな超短編の作品ならフィクションとして割り切りやすいんですけど、単行本レベルの物語として受け取る場合にはロマンスに覆われて加害を許容することになってしまわないかと危惧しているのですが……。

一方で、繰り返しになりますが、そうした問題を誤魔化さずに正面から扱おうとしている作品もあるわけで、そうした作品については読者に誤解を生じさせる恐れが少ないかな、とも思っています。
(具体的に言うと、突然のキスがロマンチックだとか、愛があれば未成年との情事も他の条件を必要とせず許されるとか、そういう誤解です。)

ついつい前置きが長くなってしまいますね。
そんなわけでこの企画内ではらだ先生2冊目のレビューとなりますが「にいちゃん」についてご紹介させていただきます。
はらだ先生で始まってはらだ先生で終わってみたかったの。

小学生のころ近所に住む”にいちゃん”の家に放課後入り浸っていたゆい。”にいちゃん”は自分の持っていないゲームをやらせてくれるし、家に帰っても誰もいない放課後の話し相手になってくれます。
”にいちゃん”からのスキンシップは次第に増していき、ついに一線を越えようとしたとき、急に怖くなったゆいはその場から逃げ出してしまいます。
ちょうどそこで最近の息子の様子を不審に思った母に見つかったことで、”にいちゃん”は唯の前から姿を消してしまいました。

しかし本当は”にいちゃん”のことが好きだったゆい。彼は高校生になってからも、あてもなく”にいちゃん”を探し続けます。
そしてようやくの再会、しかし一度逃げ出したゆいのことを信用しない”にいちゃん”は二度と逃げ出さない”証明”をゆいに求めます。

優しさが消え荒んでしまった”にいちゃん”の過剰な要求、もはや愛されていないと知りながら必死ですがるゆいの関係性は、物語の中盤、ゆいの同級生の舞子という女の子が関わってくることで急転回を迎えます。
ここからの”にいちゃん”とゆい、2人の関係性の変化は人によってはいわゆる地雷(好みでないという意味での)かもしれません。
ただ、この関係性の激震が本作一番の見どころでもあるので詳しくはここに書きませんが……。

そして個人的な興奮ポイントもこの終盤の展開なんです。ゆいくんの本領発揮というか、はらだ先生の描く、手段を選ばず相手を求める執着ここに極まれりという感じです。

正直な話、取り繕わずに本来の自分をさらけ出し合うのが一番セックスだし……綺麗な淡い恋の物語よりもこういう我欲むき出しバトルの方が興奮するのはもう仕方がないことじゃないですか?これは質問ではないです。

はらだ先生の絵の魅力については第一弾の「やたもも」シリーズで書きましたが、それに加えて追い詰められた人間、おびえる人間の描写が微に入り細を穿つようでこんなのもう壊れちゃうよ。

とはいえやはり今回紹介した中ではこの作品が一番精神的にキツい描写も含まれますので、その点にだけ注意していただいて、それでも表面だけで敬遠せずに触れてみていただけたら、ということで今回レビューを書かせていただきました。
ぜひはらだワールドの扉を皆さんにも叩いていただけたらと思います。


終わりに

以上です。各作品それなりにレビューを書いたつもりですが、良かったポイントがちゃんと伝わるような文章になっているかやや不安です。

BLは抜くものじゃないと僕も思っていましたし、一般にも言われていることではないかと思うのですが、色々な関わり方があることって大事だと思います。
実際に自慰に使ってこられた人もいると思いますし、物語を物語として楽しみ共有するにあたって、こうした観点も他の楽しみ方と同様に開かれていくと良いように思えます。

人気の作品ばかりでBL好きの方には物足りないレビューになったかもしれませんが、そういった方はぜひお勧めのBLを教えていただければと思います。
このレビューから初めてBLを読んでみた方(そんな人もいるのかな!)、新しい作品に巡り合えた方も、いらっしゃれば感想をお待ちしています。

それではひとまず今回の企画はこの辺でお開きにしたいと思います。
よいお年を、心の欲するままに。(矩を踰えずに!)

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