第1話「どらきゅらぶ!!」~学園の美少女を狙う者~

ドラキュラ、それは吸血鬼。古来より血を求め、闇夜に姿を表す。人の生き血を吸うことを望む耽美な怪人にして紳士。それが、もし現代に生きているならば…。そして身近にいるとしたら…。



ここは天蘭学園高校。放課後の夕暮れどき。二年生の教室の一つで、生徒たちが近い内に開催される文化祭の準備。

本谷奏太が橘風花を見る。風花は茶髪のボブ。性格は明るい。ときどき危なっかしい。学園一の美少女で、人気者。対して、奏太は真面目だが普通で冴えない。笑顔でみんなと交流している風花。

奏太(ああ、やっぱり可愛い…けど、おれたちは友だちのままがいいんだろなあ…)

風花が奏太を見る。何となく弱々しく、おどおどとして、はっきりとした意志に欠けているような様子に見えている。黒乃塔子が奏太に話しかける。塔子はクールで眼鏡をかけている黒髪ロングの女性。美人だが、目立たない。

塔子「ちょっと、確認したいのだけど…」

塔子が奏太と風花の様子を見て、二人の内心に感づいているような表情。

灰谷教員が教室に来る。男勝りな逞しい女性教員。生徒思い。

灰谷先生「そろそろ、みんな帰る時間だ。
        さっさと帰る準備をしろ~」

それにしたがう生徒たちは作業をやめて、ぞろぞろと下校へ。次いで奏太らも作業に一区切りをつけて、息をつく。

灰谷先生 「あ、そうだ。大事なことを伝えないと。 最近、この辺りで不審者が現れているらしいんだ。女性が襲われているという。気をつけろよ」
奏太「不審者?物騒だな」

奏太に友人の田村圭介が話しかける。圭介は無邪気なお調子者だ。

圭介「おれたちも気をつけないと。可愛い乙女だし」
奏太「ばか言うなよ」

恥ずかしそうに風花が近寄り、奏太に話しかける。

風花「ねえ」
奏太「わっ!何?」
風花「今日、一緒に帰らない?」
奏太「え、何だい、急に」
風花「別に、急に、ではないでしょ…」
奏太「いや、だって、おれはいつも男友だちと帰っているわけで」
風花「でも…いいでしょ?不審者がいるらしいから不安で」
奏太「そういうことか。うん、わかった。一緒に帰ろう」

塔子が間に入る。静かに言い放つ。

塔子「二人って、付き合っているんだ」

クラスがざわつく。圭介が奏太に絡む。

圭介「なんだよ、そうなのか?みんなの敵になりたいのかあ?」
奏太
「いや、そんなことはないって。何を言っているんだよ。風花に悪いじゃないか」
風花「うん…別に付き合っては…いないけど」
塔子「そうなんだ。よくわかっていないんだ、二人とも」
風花「じゃあ…帰ろう…」
奏太「う、うん…わかった。塔子もじゃあな。また明日」

学園を出た奏太と風花は一緒に歩いている。もうすぐ日が沈む。

風花「こうして、一緒に歩くのって…」
奏太「初めてかも…(何を話したらいいのかわからん!胸が高鳴る…疲れているのに、一日がこれから始まるみたいに)」
風花「はあ、はあ…胸が熱くなる」

風花がシャツの胸元をちらりと見せる。奏太は思わずそれを見て、落ち着かない気持ち。でも、すぐ目を逸らす。

奏太「うん。おれもかな…」
風花「ねえ、これから行かない?ちょっと休憩したいの。駅の方のホテルに」
奏太「!?…いやいやいや!」
風花「はあ…はあ…」
奏太「何言っているの!?駅の方なんて、ここから逆じゃないか。それに、おれは今日、家に帰ってからも文化祭の準備をしないと。あとは、だって、年齢的に若すぎるし…。何なら、初めてにも程があるというか…初めては初めてで、もっと経験を積んでからでないと、申し訳ないっていうか…初めては大事にしたいっていうか…。それだと初めてにならないんだけど」
風花「私、なに言ってんだろ…ごめん…」

風花は額に手をやって、可愛らしく動揺。奏太も風花も顔を真っ赤にする。

自宅が別方向なため、やがて二人は別れる。暗くなった夜道を風花は歩いていく。初めは周囲に住宅があり、そこから漏れる光に安心感があるが、次第に住宅は少なくなる。雑木林の茂みの側。街灯の光に虫が誘われている。風花は不気味な感じを覚える。雑木林のざわめきに動揺するも、歩き続ける。

後ろから足音がする。どんどんと近づいてくる。肩を触られる。不審者だ。風花はあまりの恐怖にパニックになる。暴れて、全速力でなんとか逃げ出す。



翌日。教室。放課後。

灰谷先生「えー、みんな、昨日、不審者に注意するように伝えたが、その後すぐに、うちの学園の生徒が不審者に襲われそうになったんだ」

生徒はガヤガヤ。うつむく風花。ぽかんとする奏太。クールな塔子。

灰谷先生「その生徒の名前は言えない。とても心が傷ついているからな。大きな被害がなく、よかったが、これからもっと悪いことが起きるかも知れない」

うつむく風花が周りの同級生に体調を心配される。それを見て、怪訝な表情の奏太。変わらずクールな塔子。

灰谷先生「警察の方が全力をあげて、捜査してくださっている。だから、不安に感じることもあるかも知れないが、できるだけ下校する際には、複数の人数で帰るように。それなら、まあ安心だ。わかったか。不審者に遭うといけないから、文化祭の準備は放課後にしないように。それでは、また明日」

みんなが帰る準備をしている。どんどん帰っていく。風花は他の同級生と会話しながら、離れたところにいる。塔子が奏太に静かな声で話しかける。

塔子「…ねえ、知っている?」
奏太「何を?」
塔子「昨日現れた不審者に襲われたのは、風花なんだよ」
奏太「まさか!」
塔子「本当よ」
奏太「…何で、それを塔子が知っているんだよ…!」
塔子「何でって…私も風花の友だちだもの。彼女も私のことを信頼してくれている。私も彼女のことを大事に思っている。風花に彼氏ができるとしたら、私が仲のよい親友として、その男が相応しいか判断したいぐらいに…」
奏太「風花が本当に心配だ」
塔子「今日も一緒に帰りなさいよ」
奏太「ああ、そうするよ…ところで、塔子は誰と帰るんだい」
塔子「私のことを気にする必要なんてない」
奏太「塔子が独りになってしまうじゃないか」
塔子「私は大丈夫」
奏太「大丈夫、って…。ついさっき先生が一人で帰らないように、って言ったばかりじゃないか!」
塔子「ほら、早く行きなさいよ、あなたは」
奏太「…うん…」
塔子「好き…なんでしょう?彼女のことが…」
奏太「…」
塔子「ほら、待っているじゃない」
奏太「…わかった。ありがとう」

奏太が風花に話しかけ、二人は出ていく。やがて、みんな出ていき、教室には塔子ひとり。

塔子「あなたに風花のことが守りきれるのかしら…?あの人気者で、可愛い風花のことが。奏太、あなたが彼女のことをどれだけ大事に思っているのかが私は知りたい…!」



帰り道。夕暮れ。

奏太「昨日は…大変だったらしいね」
風花「…私、とっても怖かった」
奏太「そうだよ…それはそうだよ」
風花「…私、どうなっちゃうんだろう、って…」
奏太「本当に、どんな言葉をかけたらよいのか。…おれが風花のために何をしてあげられるんだろう。風花の力におれはなりたい…!」
風花「ありがとう。その気持ちが嬉しい」
奏太「今日は風花の家まで送るよ」
風花「本当にありがとう、奏太!私、嬉しい…」


例の雑木林の側。

奏太「…ここか」
風花「奏太、ついていてね」
奏太「うん」

足音がする。だが、奏太もいるので、どうすることもできない不審者。顔を見られる。

奏太「おまえか…!」

奏太が追いかけるも、捕らえることはできない。やがて風花の元に戻る奏太。

奏太「逃げられた。捕まえてやりたかったのに」
風花「あれが昨日、私のことを襲おうとした人物…!」


風花の家の前。窓に明かり。

奏太「今日は怖かったね…でも、これで不審者の顔を知ることができた」
風花「奏太がいてくれて、本当によかった。本当にありがとう。頼りになるカッコいい奏太」
奏太「いやいや、友だちのためなら、これぐらいはあたりまえさ」
風花「そうだ!今日はせっかくだし、一緒に晩ごはんを食べましょうよ」
奏太「…え、それって、風花の家で?」
風花「そう。…私の家族にも紹介したいな、奏太のことを…」
奏太「お気遣いありがとう。でも、お邪魔してしまったら、帰るのが遅くなってしまうし、今日のところは遠慮しておくよ」
風花「…そっか…。でも、それもそうよね。じゃあ、また明日。今日は本当にありがとう」
奏太「こちらこそ、ありがとう。じゃあ、また明日」




学園の廊下。昼休み。

灰谷教員に後ろから駆け寄る奏太。

奏太「先生!本当ですか?」
灰谷先生「ん?ああ。本当だよ」
奏太「それじゃあ安心していいんですね!」


職員室の中の応接室。

机のところに奏太と風花と灰谷。三人とも椅子に腰かけている。刑事もいる。初老の刑事が一枚の写真を胸ポケットから取り出し、奏太と風花の前に差し出す。

刑事「…この人物が、二人を襲った者の顔で間違いないかな?」

二人はそれを見る。そして、互いに顔を見合わせて、間違いないよね?と言うように頷く。そして刑事に顔を向ける。

奏太&風花「間違いありません」
先生「なら問題解決だ」
刑事「この人物はすでに警察が逮捕しました。この辺りで多くの女性に手を出していました。余罪もあり、これからさらに追及していきます」
奏太「先生!ぼくも安心です。風花の受けた心の傷がこれで癒えるわけではないけれど、心配することが一つ減ったんだ」
風花「…刑事さん、先生、ありがとうございます。奏太も、ありがとう…」
刑事「これで、生徒さんがまた安心して一人で下校することができますね」



職員室の前の廊下。

職員室を出てきた奏太と風花の前に、職員室に用事がある塔子が現れる。

奏太「…塔子」
塔子「どうしたの?二人とも」
奏太「捕まったよ、犯人が」
塔子「そう、私も安心した。もう二人は一緒に帰らないのかしら?」
奏太「…そうだね」
塔子「…そう…」

塔子が立ち止まって、考える素振り。



ある日の休日。塔子の家の部屋。

部屋の中で塔子が立っている。手に持っている懐中電灯のような物を見る。だが、それは懐中電灯ではない。先端には紫色の大きな宝石が埋め込まれている。アメジスト。

塔子の母が扉をノックする。

塔子の母「塔子。長い間、部屋に閉じこもっているけど大丈夫?もうすぐ昼食だから、部屋から出てきてね」
塔子「…うん、わかった」

塔子は懐中電灯のような物をかざす。すると、光が生まれ、塔子の手の爪が伸びる。鋭利な八重歯ができ、ハイヒール。全身が黒のタイトな姿に変わる。女性的でありながら、引き締まった身体であることがわかる。銀色ロングの巻き髪。背中のマントがはためく。

塔子の部屋の壁には、たくさんの写真がコルクボードにある。それは風花の姿を写したもの。風花と塔子のツーショットもある。

ドラキュラ「…うん…すぐ行くよ…」



別の日の下校時。

風花はいつものように歩く。不審者が現れる以前の気持ちになれて、より喜ばしい気持ちが強まっていた。

だが、足音がする。

風花「…え…何?…」

雑木林のざわめき。

風花「…嘘…?」

風花は咄嗟に奏太に電話をかける。

風花「お願い、早く出て」

電話が繋がる。

奏太「風花、どうしたの。何か用?」
風花「奏太?聞こえる?お願い!早く!助けて!」
奏太「ん、何だよ。よく聞こえない」
風花「今どこにいるの?」
奏太「今?今はゲーセンだよ、駅近くの。友だちと遊んでいるよ。…ごめん、お店の音が大きくて、風花の声がよく聞こえないんだけど」

圭介ら友だちとアーケードゲームに興じる奏太。

風花「お願い、私、襲われちゃうの。不審者がすぐそこにいるの」
奏太「ごめん、本当によく聞こえないんだ。お店の外に出てみるね」

友だちに断って、奏太は店の外へ。

風花「でも、いるのよ」
奏太「何言っているんだよ。不審者なら前に捕まったじゃないか。風花が一瞬見た顔と一致していた。それで終わったんだ」
風花「私を一人にしないで。奏太、助けて!きゃあ!」

突然、電話が切れる。立ち尽くす奏太。

奏太 「…他にいるのか…まさか。風花をさらにつけ狙うやつが…!」

圭介が奏太の元に。

圭介「奏太!どうした?」
奏太
「わりい。ちょっと用事ができた。急いで行くわ」

急いで、駆けていく奏太。


例の雑木林の側。

人影。風花の首筋に妖しく指が伸びる。

ドラキュラ 「ああ、風花。君はひとりぼっちなんだね」
風花「はあ、はあ」
ドラキュラ「ひとりぼっちで、誰も助けに来てくれない」
風花「奏太…早く…」
ドラキュラ「君が恋している人は来ないんだ。でも、私が傍にいる。君がひとりでも私がいるじゃないか…」

人の気配。息を切らした奏太。奏太とドラキュラが対面する。奏太にはドラキュラが塔子などとはわからない。ドラキュラには、塔子が着けている眼鏡がない。

奏太「風花から離れろ!」
ドラキュラ「…おや」
奏太「おまえ、何だ? 」
ドラキュラ「私は吸血鬼。風花のことを最も大事に思っている者さ。おまえがいない時に現れる。その隙にね」

仁王立ちの奏太。

ドラキュラ「ああ、可愛そうな乙女。好きな彼は全然役に立たないんだ。肝心な時に見捨ててしまう」
奏太「何だと!」
ドラキュラ「本当は風花のことを何とも思っていない。彼女の気持ちに気づけない。そうなんだろう。本当に大したことのない男だ。真面目なだけで、役立たずで惨めな己を呪うがよいのだ。気づかない内に他にさらわれていくのだから」
奏太「そんなことない。おれは…おれは…」

奏太が二人の方へ走る。

ドラキュラ「邪魔だ、脇役」

ドラキュラが手を振ると、波動が生まれ、奏太は吹っ飛ばされる。

奏太「うわっ! 何だ、この力は…。人間なのか、そうでないなら何だ…?」
風花「私、すごく寂しい。怖い。大事にしてくれる人が好きなの、心細いときに傍にいてくれる人が」
奏太「風花…うっ…風花は騙されているんだ。くっ、立ち上がるんだ。風花を守るんだ。そうだ、おれの思いは…! 風花へのおれの思いは…!」
ドラキュラ「ああ、待ちくたびれたよ。ずっと狙っていた、この時を! 風花、はっきり言おう。私はおまえを愛している。さあ、その綺麗な首筋に少しだけ私の噛み跡をつけさせておくれ」

奏太はなお立ち上がり、二人に近づく。


ドラキュラ「何だ? 力のない憐れな男よ」
奏太「おまえに風花を好き勝手にはさせない。おれは風花を誰よりも愛している!おまえには負けない…!」

二人は向き合う。睨み付ける奏太と見下げるドラキュラが相対する。

<第2話に続く>


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