第2話「どらきゅらぶ!!」~想いの強さ~

雑木林の側。

風花を胸に抱くドラキュラと奏太が相対している。サイレンの音が近づいてくる。

傷つきながらも奏太が不敵な笑みを浮かべる。

ドラキュラ「何だ、この音は…」
奏太「…おまえの負けだよ…!」

警察官が数人、登場。

警官「警察だ。手を上げなさい。凶器を持っているのなら、捨てなさい」
ドラキュラ「そうか、ふん。他に助けを求めていたか…」
奏太「さあ、離れろ。風花をおいて離れろ!」
ドラキュラ「まあ、よい。私は人々を混乱に陥れる悪者ではないからな。この場は去るとしよう。私は愛する風花がひとりぼっちの時を狙っている紳士なのだよ。風花の孤独を埋められるのは私だけだ」

ドラキュラは風花をそっと横たわらせる。

風花「ありがとう…私に寄り添ってくれて…」
ドラキュラ「また迎えに来るよ、風花」

ドラキュラは無数のコウモリに分裂して、去る。

奏太「風花…」

奏太はへたれ込む。



普段通りの学校生活。奏太と風花は何だか気まずそう。

奏太「うぅ、いてぇ…。昨日のあいつは何だったんだ? 人間とは思えないほどの力…」
風花「奏太…おはよう…。怪我は大丈夫?」
奏太「風香こそ。大丈夫かよ」
風花「私は無事。本当にどこも傷つけられていない…」
奏太「昨日のこと、覚えている? おれが言ったこととか…」
風花「ごめんなさい。ほとんど何も覚えていないの。警察の方と奏太が協力して、私を家に送ってくれたと、お母さんから聞いた。本当にありがとう、奏太」
奏太「そうか…うん、よかったよ。でも、風花を傷つけなかったということは、あいつは何者なんだ」
風花「あっ! 塔子、おはよう」
塔子「うん…おはよう…」
奏太「塔子、昨日は大変だったよ。ほら、風花を襲う不審者にぶっとばされて、ほら、ここが傷になったんだよ」
塔子「それは心配ね…」

奏太が塔子をじっと見つめる。

塔子「何…?」
奏太「いや、何か嫌なことがあったのかなあと思って」

塔子がじっと二人を見つめる。

塔子「私、一限目の化学の授業で実験道具を準備する係だから、もう行くね」
奏太「お、おう…」

風花との距離感に悶々とする塔子。昨日のドラキュラのようにはいかない。あくまで友だち。

風花「塔子、いつもと違うね」
奏太「うん、何かあったのかな」



女子トイレ。休み時間。個室の中で塔子が荒ぶる。壁に腕をついて息切れしたり、天を仰いだりする。風花と奏太が結ばれる想像をして、乙女のような表情で胸が苦しくなる。

塔子はアメジストが埋め込まれた棒をかざす。瞬く間にドラキュラに変身する。

塔子(ああ、私の正体とは一体、何者なのか! わけがわからない。この能力! この思い!ある日、突然、この力が与えられた )

再びかざす。元の姿に戻る。

塔子は便座に座り、「考える人」の体勢で考える。

塔子(これから私はどうしていこう…。今までも悩んでいた…。これからずっと私は本当の自分を隠して生きていかなければならないの?  私は風花が好き。愛している。けれど、彼女はどう? 風花は奏太が好き。私は何とか彼女を振り向かせたい。でも、この恋は許されざる想いであり、呪い! )

扉がノックされる。我に返る塔子。

「ごめんなさい。入っていますか?」
塔子「あっ、すぐ出ます」

扉を開ける塔子。

風花「塔子!?」
塔子「風花!?」
風花「ごめんね、急かせて」
塔子「こっちこそ、ごめん。個室の中で考えごとしていた」
風花「そうなの…。よかったら、私にいつでも相談してね。私たち親友なんだから」
塔子「う、うん…。ありがとう…」


放課後の教室。

みんなで文化祭の準備中。演劇の練習中。
ワイワイ、ガヤガヤと仲むつまじい雰囲気。

塔子「みんな、お腹空いているよね。私が委員長として、お菓子を買ってくるね」

教室の雰囲気が盛り上がる。

男子「黒乃さん、わかってるぅー」

塔子は教室を出ていく。


学園近くの道。人がいない。

お菓子を買いに出かける塔子。早歩き。

ワゴン車が目の前に止まる。そこから黒服の男と白衣を着た男が現れる。白衣を着た方は度重なる心労によって、若年ながら額が広がっている。

黒服の男「ごきげんよう。黒乃塔子さん」
須藤助手「こんにちは。私たちがわかりますか?光山博士を覚えておられますか。私の名前は須藤。リビドーシステム研究所で博士の助手を務めています」
塔子「…」
須藤助手「あなたは、《ドラキュライト》をお持ちですよね。かざせば、持ち主が吸血鬼になることができる物です。アメジストが埋め込まれています」
塔子「…」
須藤助手「私たちは、二ヶ月ほど前にあなたに《ドラキュライト》を渡しました。私たちの実験研究の被験者となりうる人物を探していたところ、あなたが研究所に来てくれました」
塔子「私はスカウトされただけ」
須藤助手「はい、そうです。私たちはずっと資質十分な人を探していました。そして、黒乃塔子さん、あなたを見つけました。それに相応しい人間を。今お持ちですよね、ドラキュライトを」
塔子「…」
須藤助手「しかし、もうそれを返してほしいのです。もう実験のデータは十分に取れました」
塔子「…データとは?」
須藤助手「それはあなたには関係がありません。あなたは想いを寄せる女性に近づくために、その力を使いました。これでもう十分知ることができました、《ドラキュライト》の力を。それは人の情欲の強さにしたがって、その人の身体能力を高める物です」
塔子「…返したくない。もう私はこの力なしでは正気を保てない」
須藤助手「いけません。それはまだ完成品ではありません」
塔子「この力は渡さない…!」

《ドラキュライト》をかざす。塔子は変身し、ドラキュラになる。

ドラキュラ「失せろ!」

突風を起こすドラキュラ。

須藤助手「ぐっ…!」
黒服の男「大丈夫ですか!」
須藤助手「…取り返しがつかなくなるぞ!」
ドラキュラ「うるさい!」

さらに追撃。須藤助手は何回転もする。

須藤助手&黒服の男「ぐわあっ!」

ドラキュラは無数のコウモリに分裂して、逃げる。

須藤助手「…くっ…!」



教室。

みんながワイワイと演劇の練習をしている。塔子が買ってきたお菓子の袋や演目の道具が散乱。

塔子は監督。風花が囚われの姫。圭介が王子様。奏太が魔王。

塔子「はい、じゃあ、そこの台詞をもう一度繰り返してみて。囚われのお姫様を助けに来る王子様の場面だから」
男子「はあ~、何で、風花ちゃんの恋人役がよりによって圭介なんだ?」
圭介「うらやましいのかよ?」
塔子「ほら、そこ、ちゃんとやりなさい」
風花「ああ、早く王子様、助けにきて」
奏太「私はあなたをこの牢獄に閉じ込めて、何も知らないままでいてほしい」
圭介「ああ、姫様、助けに来ました」
奏太「助けにきた?  何のつもりだ?  他に彼女のことを大事にしている者がいるというのに」
塔子「はい! ストップ!  もっと悪役になりなさい、奏太」


走る車の中。

須藤助手、負傷しながらも、電話をかける。やがて電話が繋がる。

須藤助手「…光山博士、申し訳ございません…。《ドラキュライト》を奪還できませんでした…」
光山博士「苦労をかけましたね。あなたはゆっくり休んでください。では、私が直接に彼女に伺います」


<第3話に続く>



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