第3話「どらきゅらぶ!!」~仁義なき、どらきゅらぶ!!~

ある日、塔子が学校から帰るところ。閑静な住宅街。

塔子が歩いていると、一台のリムジンが止まる。運転席から黒服の男が出てくる。顔に怪我。先日、塔子にやられた。

黒服の男「黒乃さん、ごきげんよう。博士からお話があります。どうぞリムジンの中へ」

最後部には光山博士がいる。優雅にくつろいでいる。65歳くらい。肥満体。背丈は小さい。白い髪と髭がある。

塔子は光山博士の隣に座る。ジュースが差し出される。

光山博士「助手から、お話を聞きました。あなたが例の力を返却するのを拒んでいる、と。おまけに彼を傷つけたようですな。それは感心できませんな」
塔子「悪かったわ。でも、私はこの吸血鬼ドラキュラの力が気に入った」
光山博士「《ドラキュライト》、気に入っていただけたなら、開発者としてはとても嬉しい。あれは人間の情欲を高め、その情欲に相応しい力を得ることができる。誰かを押し退けたり、吹っ飛ばしたりする能力ですな。しかし反面、その情欲の対象の血に飢えてしまうのです」
塔子「とても楽しい…!」
光山博士「そして、それはまだ実験中なのです。あなたには実験ということで、渡しておるのですよ。これから使い続ければ、どうなるかわかったものではない」
塔子「どうなるのですか?」
光山博士「元の姿に戻れなくなるかも知れません。黒乃塔子さん、あなたはあなた自身ではいられなくなる…」
塔子「私って、一体何なのかしら。私の気持ちは私以外にはわからない…!」
光山博士「まあ、でもお返しいただけないというなら、私たちには無理に奪い返すことはできません」
塔子「私はこれが気に入った」
光山博士「私は開発者として忠告しました。よろしいですか。あなたはきっと本来の自分をいつか見失うでしょう。禁断の力に頼りすぎて、あなたはその虜になってしまう。自己なんて、あったものじゃない。二度と本当の自分を人に見せられなくなる。…本当に私は忠告しましたからね…」



文化祭当日。

学園中が大盛り上がり。お店や催し物がたくさん。奏太たちのクラスは広い中庭で簡易的な舞台を作り、そこで演劇をすることになっている。

奏太と風花はやることがないので、食べ物を売っている屋台を回る。射的をしたり、焼きそばを買って食べたり。

奏太「そろそろ舞台に行かないと」
風花「うん、そうだね。私たちも準備しないと」

中庭へ。二人は舞台の方へ話しながら向かう。

奏太「ここに付いているよ」
風花「え、何が?」
奏太「ほら、ここだよ」
風花「あはは。鼻にアイスクリームが付いていたね。もっと早く教えてよお」
奏太「ゴメンゴメン」

舞台美術について指示を出していた塔子の視界に、歩いている奏太と風花の姿が入る。とても仲がよさそうで、カップルに見えなくない。

塔子は内心、嫉妬した。

塔子(もし私が《ドラキュライト》を使えば、たちまち奏太から風花を奪い去ることができるというのに)

光山博士や須藤助手のことが思い出される。彼らの警告の言葉が反響する。

男子は業者の人と一緒に舞台設営を行っているが、塔子に指示を求める。

男子の一人「背景を作るための柱はここでいいんですよね、黒乃さん」

この柱は舞台の両端に備えられる。二つの柱を物干し竿で渡し、そこに背景の絵が描かれた布がかけられるのだ。

塔子「ええ…そこでいい」

いよいよ劇が始まる。灰谷先生も観劇。塔子は袖にいる。

奏太らは決められた役割をしっかりとこなす。順調な流れ。背景がその度、交換される。

柱がぐらつく。観客と袖の中の同級生の注意が柱に向く。

観客&袖の中「っ!危ない!」


文化祭の舞台上で柱が倒れ、背景の幕が落ちようとする。そして、それは風花に襲いかかるような勢い。周囲の人々のどよめき、風花の悲鳴が入り交じる。

そのとき、黒い影がさっと舞台に飛び入る。ドラキュラが倒れた柱を背中で受け止め、マントの中に風花を守ったのだった。ドラキュラでも、さすがに痛い。

ドラキュラ「うぅ…」

同級生や灰谷先生が舞台に上がり、倒れた柱や幕をどかそうとするが、うまくいかない。

奏太「風花っ!」

奏太も呆気に取られたような驚いた表情で風花の無事を求める。


観客「何だ、これも舞台の演出なのか?何が一体どうしたって言うんだよ」
ドラキュラ「ぐっ、無事か?」
風花「あなたは…」
奏太「風花、どうしたんだ。無事なら、返事をしてくれ」
風花「私は大丈夫…。でも…あなたは…」

奏太は自分に言われているものと勘違い。

奏太「おれも大丈夫だ。今、そっちに行く!」
風花「あなたのことを私は覚えている…」

背景幕がどかされ、やがてドラキュラの姿があらわになる。

奏太「風花! …おまえ…!…あの時の…」
ドラキュラ「…彼女を頼む…」
灰谷先生「何なんだ…おい、二人とも怪我はないか?これも劇の一部じゃないだろうな?」
奏太「先生、おれたちは大丈夫です」

ドラキュラは奏太に風花を託して、その場を急いで飛び去っていく。

観客「よかった、よかった。怪我さえなければ」

拍手。劇はそのまま終了。

灰谷先生「ふう、何とか一段落だな」
女子の一人
「灰谷先生、黒乃さんが見当たりません」
灰谷先生「何だって!?」


体育館裏。

体育館の裏で奏太と風花が二人きりで話す。その話し声を建物の陰から塔子は先ほどの痛みに耐えかねながら聞いている。

奏太「風花、大丈夫だったかい?」
風花「うん…」
奏太「よかった。話を聞かせてほしいんだ。さっきのやつって…」

風花の目が虚ろ。

風花「私の気持ちって、何だっけ。奏太に伝えたい思いがあったはず」
奏太「なあ、大丈夫か。そうだ、おれの気持ちも風花に伝えたい」

塔子は身体と心で葛藤し、苦しい表情。


風花「でも、何だか心に引っかかるの…何か大事なことを忘れているような気がするの。何だろう、この気持ちは」
奏太「それはおれが向き合うべき気持ちなのかも知れない…!」
風花「他に大切な人がいた気がするの…あの下校中に茂みのそばで、私に囁いた声の人…! さっき私を助けてくれたような人とその人は同じ人なように感じたの…!」

奏太は風花に、異性としての好意を伝えようとする。


実験室。モニター。

モニターには学園体育館裏の様子が映っている。包帯を腕に巻き、顔に絆創膏の須藤助手と光山博士がそれを見ている。

須藤助手「本当によろしかったのですか。《ドラキュライト》を奪い返さずに」
光山博士「構いません」
須藤助手「なぜでしょう」
光山博士「これも実験の一つです。想定外でしたが、これこそ実験というものです。人の恋心というものは本当に人を狂わせる。彼女がそれほどまでに、一人の人を愛しているということなのです。私たちはこれをもう少し見ていましょう」


体育館裏。

塔子は自分の深い思いに気づかされたような表情をしながら、次第に心が燃え上がっていく。

風花が自らの思いを告白しようとする。

奏太「風花、待ってくれ。おれの気持ちを聞いてくれ…!」
風花「…その人は…!」

建物の陰から塔子の姿が消える。突如としてドラキュラが風花の背後に立ち現れ、彼女の肩にそっと手をのせる。


ドラキュラ「ああ、愛しい風花…。待ちくたびれたよ、君のその気持ちをどれだけ求めていたかわかるかい?」
奏太「…おまえ…!」
ドラキュラ「私なら風花を守ることができる。私なら、私の姿ならば、風花を愛することができる」
風花「ああ、私をさっき助けてくれた人…!  あの日、私に愛していると言った人…!」
奏太「…くっ!」
ドラキュラ「さあ、少年…愛しい恋人をめぐって、私と競いたいのか?なら、どらきゅらぶ! !の始まりだ!」

優越感に浸ったドラキュラと悔しくも対立的な目を向ける奏太。二人の間で目を閉じ、安らかな乙女の表情を浮かべる風花。多様な性と複雑な人間関係が入り交じりながら、学園の恋愛喜劇が幕を開けようとするのだった。


<第3話完>

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