あなたは今、幸せですか? 〜いなくなってしまった仲間達〜
そう聞かれたら、いったい何人が「はい、幸せです」と答えられるだろうか。
世界幸福度ランキングという国連が毎年発表している少し余計なお世話とも思える格付けがあるのだが、
2020年の日本は昨年から4位後退し62位とのこと。
先進国としてはどうなのだろう?
ある記事によると、日本人の主観満足度はかなり低いらしい。
遠慮がちで謙遜をする国民性を考えると日本人らしい結果とも言えるけど、もし本当に幸せを実感できていない生活をしているのなら勿体ないことなわけで。
ランキング上位の国の人達とはそもそもの価値観が違うのだろうか。
もちろん他人の幸福度は他人には測れない。
幸せそうに見える人が実は心の奥深くに大きな闇を抱えていたり、
お金が無くても友達がいなくても、充実した生活を送っている人だっているだろう。
しかし、人の目というのはやっぱりどうにも気になるもので。
自分はどう見られているのだろう?惨めだと思われていないか?哀れだと思われていないか?
自分の人生はこれで良かったのか・・・・?
周りと比べたり焦ったり、自分自身も答えが出せず、気持ちはフワフワしたまま過ごしている日々だ。
数年前、あるBARで飲んでいたところに、泥酔したスーツの男性(フットボールアワー後藤氏に似ているので以下後藤)が1人で入って来て、奥のソファにドカッと腰掛けた。
店員さんの顔見知りらしく、後藤は永遠と仕事が忙しいというような内容の話を店員さん相手に大声で語っていた。
そしてそのうち、いかに自分がお金を稼いでいるかという話になる。
後藤「おい、俺の家の家賃、いくらだと思う?」
店員「えー、後藤さんち高そうだなー!うーん、50万円とか?」
後藤「いや、120万」
店員「えーまじすか!?凄いっすねぇ!」
後から店員さんに聞いたのは、そのスーツの後藤は都内のタワーマンションに住み、奥さんと小さな子供が2人いる会社経営者。
傍から見れば家族を養う立派な社会人だ。
しかし平日の深夜に1人で泥酔し、行きつけの飲み屋の店員に適当にヨイショされていることに気付いてるのか気付かないのか自慢話を垂れ流し、唐突に聞かれてもいない家賃まで発表し経済力を誇示する後藤。
奥さんと小さな子供との時間を過ごすために早く家族の元に帰ろうとしないのは、何か居心地の悪さでもあるのだろうか?と勝手に想像してしまう。
しかしそれもあくまで想像に過ぎない。
後藤はとても理解のある家族の元、お金を稼ぐ能力が高い自分をただただ誇っているだけなのかもしれない。
「あなたは今、幸せですか?」
この質問を彼に投げかけたら、一体どんな答えが返ってくるのだろう。
また別の飲み屋の話。
カウンターで友人と飲んでいたところ、隣に居合わせたブランド物で身を包んだ恰幅のいい男とも会話になった。
仕事を聞かれ役者だと答えると、その男が語り出した。
「俺がよく行ってる六本木の飲み屋は店員がバイトの役者が多くて俺ソイツらとも仲良くてさ、いつも舞台前とかになるとチケット買ってくれって言ってくるわけ。だから俺もそれ買ってやってさ、観に行ってやるの。でもさ、いつも思うんだけど、コイツらこんなに頑張ってワーキャーやってるのに、全然金もらえてねぇんだなって思ってさ、いつも最後は悲しい気持ちになっちゃうんだよねー。」
その口調は特に馬鹿にする風でもなく、むしろ自分の価値観を世の中の正解のようにごく当たり前のように語っていた。
まず、役者がとにかくチケットを売りさばかなきゃいけない演劇界の実情と、苦労を労いたい気持ちになるのだが、
わざわざちゃんと観る気もない演劇のために劇場を訪れ、仲が良いと表現していた役者を見下し優越感に浸っているのかもしれないこの男には個人的に腹が立つ。
チケットだけ買って誰か演劇を楽しめる人に譲ればいいのだ。
さらに役者だと名乗った俺に対し「お前もその1人なんだろ?」と腹の中でバカにしながら語っているのだとしたら尚更腹が立つし、なんて嫌な奴。(自意識過剰?)
自分の価値観を疑わないその自信だけは正直羨ましいところでもあるのだが、こんなに無神経にはなりたくない。
この男のことはそれ以上は知らない。
しかしこの男がおそらく不幸せだと感じていた役者達は、果たして本当に不幸せなのか?
自ら飛び込んだ芝居の世界。板の上に立ち人に観られる充実感と、それが終わりバイト生活の現実がのしかかる日々・・・。
「あなたは今、幸せですか?」
この質問に彼らはどう返すだろう。
友人で、以前外資の保険のセールスマンをしていた男がいる。
ほぼ歩合制で、年収1億を目指しバリバリ働いていた彼だが、あることがキッカケで会社を辞め、住み慣れない土地に移住することになる。
彼と知り合ったのはそれからなので、以前の写真を見せてもらうとその変わり映えに驚く。
写真の彼は真っ青なスーツを身に纏い、髪の毛を整髪料でビシッと固めたビジネスマン。
今目の前にいる彼は、ボサボサの長髪、伸ばしっぱなしのヒゲ、年中Tシャツとハーフパンツの野生児のよう。
ある日彼はいつものように保険の営業をしようとした女性に質問される。
「何のために働いてるの?」
仕事とはいえあまりに堅苦しい話ばかりする彼に彼女は聞いたそうだ。
彼はうまく答えられなかった。
ただ働いてお金を稼ぐ、その生活を疑うことが無かったのだと思う。
その女性は彼が今まで出会ったことのない自由な価値観を持つ魅力的な女性で、
その出会いがキッカケでスパッと会社を辞め、住む土地を変え、今はその女性と一緒に暮らし、地域に密着した仕事をして地元の人達にも溶け込んでいる。
元々優しい性格の彼のことが俺は好きだ。
この書き方をしたら以前の彼は不幸せだったに違いない!と思われるかもしれないが、それこそ決め付けであり先入観になってしまう。
以前の彼のことは知らないし、何を考えていたのかも知らないのだ。
「あなたは今、幸せですか?」
今の彼と、以前の彼にこの質問をしたら、どんな答えが返ってくるのだろう。
ちなみに、これまでの例えエピソードはお金が絡む話ばかりになってしまったが、言いたいのはそこではない。
ただ、幸せを語るうえでお金は切っても切れない関係であることは間違いない。
「幸せの価値観は人それぞれ」
そう言ってしまうと話は早いのだが、その自分の価値観の中の幸せに辿り着くことは容易じゃない。
今あるものに不満があるのかもしれない。今無いものをねだっているだけなのかもしれない。自分次第でしかないことは知っている。
しかし理想と現実の差は容赦なく己に襲いかかってくる。誰もが理想に近付けるわけではない。
その中でどう上手くシフトチェンジしたり、自分の中で折り合いをつけたり、はたまた突然起こる予期せぬ事態にどう価値観が変わっていくのか・・・・。
昨年の秋から、立て続けに仲間が3人亡くなった。
本当に驚いたし、みんな久しく会っていなかったので、その会わない間のことを自分が知っているその人が過ごしていた日々を、勝手に想像したりした。
有名人の訃報も続く中、一体何が起きてるんだろうと恐くもなった。
何が起きたのかは詳しくは分からない。
コロナのせいじゃないかもしれない。
ただの偶然の重なりなのかもしれない。
でも確かに俺の目の前に存在していた仲間達は、もうこの世にはいないのだ。
「あなたは今、幸せですか?」
数々の出来事に、そんな質問が頭の中に浮かんだ。
自分が自分に問いかけた気がした。
「あなたは今、幸せですか?」
今の俺は、
「みんなのために頑張って生きるよ!」
なんて軽々しく言えない。
でも、
自分なりの幸せを見つけるために生き続けているのは確かだよ。
みんなだって、そうでしょう?
俺たちはまだ生き続けるんだ。
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