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【女性の権利と尊厳の保護を求める緊急声明】


〇女性には、生まれつきの、全身体・生物学的 [生得的]性別(SEX)に基づく権利と尊厳の保護が必要である

 2023年10月25日、最高裁判所は 「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下、特例法)」の性別記載変更に関わる要件の「生殖能力喪失要件」を違憲とする判決を下しました。「外観要件」は高裁に差し戻しとなりましたが、現在、国会において、法改正に向けた議論が始まっています。

  •  本判決を受け、特例法上の性別取扱い変更の審判を受ける者のいっそうの増加が予想されます。その他にも、最高裁の2023年7月11日経産省トイレ判決も注目されており、性自認の利益がクローズアップされる一方で、これまでは水面下の事象であった、生物学的[生得的]女性の安全や尊厳と、生物学的には男性である者の性自認の利益とが衝突する場面がいよいよ表面化しつつあります。

 私たちは、国会及び政府、社会全体に対し、女性保護の観点からの全身体・生物学的 [生得的]性別の関わる全ての場面、全身体・生物学的 [生得的]性別による劣位、出生性別に基づく差別の存する全ての場面においての女性の保護の必要性を訴え、女性保護法の制定等、具体的な規律の策定を通じて女性の権利と尊厳の保護に努めることを強く求めます。

1 性別の定義は、今も昔も、第一義的には生まれつきの、全身体・生物学的[生得的]性別(SEX)である。定義破壊は許されない。

 本邦法律において、「性別、男性、女性」についての定義規定を持つものはない。それは、性別とは第一義的に生物学的(生得的)性別であり、それは定義・説明を要しない自明のものとされていたためである。

  1.  性同一障害者に関する特例法は、性同一性障害の者に対し、一定の要件のもとに「民法その他の法令の適用において、他の性別に変わったものとみなす」旨を定め(第四条)、性同一性障害者についての我が国における戸籍上性別変更の根拠規定となっているが、その特例法自体、「性別」の定義規定をおいていない。これは性別とは身体性別であることを自明の基礎としている。審判の効果も「法令適用において、他の性別に変わったものと『みなす』」に留まる。(注1)

 注1 ”本法律が妥当する範囲及びその効力は、性別にかかわる法令を適用する関係で、性同一性障害者の法令上の性別の取扱いを変更することにとどまるものであり、それ以外のところでのその性別の取扱いについてまで必ずしも定めるものではなく、ましてやその生物学的な性別まで変更するものではない。”
『解説 性同一性障害者性別取扱特例法』2004/南野 知惠子 (監修)P81 性同一性障害者性別取扱特例法逐条解說

 このように、特例法においても、性同一性障害という疾患者が、診断のほか一定の要件を満たした場合に限って、あくまで特例として、法令上の取扱について「他の性別に変わったものとみなす」旨を定めているだけであり、法令上も社会通念上も性別とは第一義的に生物学的な男・女であるという認識を変更したものではない。
現実として男女の身体に生物学的(生得的)な差異がある以上、「性別」とは第一義的には生物学的区分を意味するとの原則は堅持せねばならない。

 「性別」の定義の根本を揺るがすことが許されないのは、これが直ちに、特に生物学的女性が自己を端的に呼称できず、その身体特有の困難を語ることができなくなる効果をもたらし、ひいては女性が自らの安全と尊厳を確保するための基盤を失わせるからである。
 性別は本人の性自認によるとの理解、あるいは性自認の尊重との名のもとに、既に女性を「生理のある人、子宮のある人」等と呼び替える場面も出ている。これらの呼び替えは女性という定義・概念を壊す・分断するためではなく、あくまで性自認の尊重のためであると説明されながらも、一方で男性には同様の身体機能での呼び替えは起きていないことから、女性が女性の身体特有の困難を語ること自体も男性と対等ではなく、簡単に破壊される非対称性が現れている。身体女性(注2)という呼称すら、性器を手術した男性を含むとの主張がなされる場合があり、生物学的・生得的女性が簡潔に自己の集団を表す言葉は奪われかけているといえる。
 (※注2 身体女性とは、本来その名の通り出生時に既に存在する全身体的な身体性別に基づく女性であり、決して性器の手術やホルモン投与等を行った男性を指すのではない。この点、性同一性障害の治療として施されるSRS(性別適合手術)により「身体が異性に適合した」との誤解が存するが、あくまで性同一性障害者の治療としての手術名称であって、その実質は全身体的性転換手術ではない。全身体的完全性転換手術は現在の技術では不可能である。)
 
 現行の性同一性障害特例法において性同一性障害者に法令上の性別取扱いの変更を認めているといっても、性自認尊重の名のもとに、生物学的差異ある男女2性別の集団自体を簡潔に呼称する言葉を奪うこと、性別の生物学的特徴を細切れにし、恣意的に選び出して性別名称と結びつけるようなことは、性別名称と全身体的特徴とを細切れに分断することであって、許されない。
 性別とは、今も昔も、第一義的には生まれつきの全身体・生物学的性別(SEX)である。男性よりも平均的に小さく力の弱い身体、生殖において月経や妊孕性に関する身体上生活上の負担を女性だけが負うこと、男性による性加害や支配の対象とされやすいことは、性自認(ジェンダーアイデンティティ)や人体の一部器官・一部特徴に起因するものではなく、全身体の生物学的性別(SEX)により女性に生じる劣位と負担である。ジェンダーバイアス(性偏見)・ジェンダーロール(性役割)の押し付けや性差別も、第一義的には生物学的性別に基づいて判断された出生性別に基づき、出生時から間断なく生涯にわたって女性に課され、その人生を困難ならしめているものである。性別の定義を破壊することは、女性集団が自己を定義し、呼称する名称を奪うことであり、女性が自らの安全と尊厳を確保し、差別や困難と闘うための基盤を奪うことである。決して許してはならない。

2 女性専用施設・区画(女子トイレ、女湯、女子更衣室等)や女性区分(スポーツ等)などの必要性は、男女に身体の物理的強弱があること、身体性別や出生時性別のために被害・困難が発生することから生ずる。

 特例法に基づく性別取扱変更者、また身体性別と異なる性自認を持つ者との関係で、特に女湯、女子トイレ等いわゆる「女性スペース(女性専用施設・区画)」の利用や、自認が女性である生物学的男性の女性スポーツへの参加が問題として指摘されることがある。

 これについて考えるときには、現状既に存在する男性スペース/女性スペースの利用者の適宜の仕分けという観点はでなく、「その施設は、なぜ、そもそも男女混在・共用ではいけなかったのか」「なぜ、男性から隔離された女性だけのスペースや性別区分が必要だったのか」ということに立ち戻って考える必要がある。
 女性専用施設・区画や女性区分を設けて女性保護を行うことが必要な理由、すなわち性別混在による女性の劣位・被害発生の理由は、端的にいえば、全身の身体性である。女性が女性という性自認をもつことでも、性器等の身体器官の形のみによるものでもない。
 女性と男性は、個体差こそあれ、集団として比較すれば、男性よりも女性の体格は小さく、筋力や骨の強度は低く、一部の臓器が異なり、かかりやすい病気や血液検査における各種指標の正常範囲も異なる。生殖における役割の違いから、月経や妊孕性に関する身体上生活上の負担は主として女性が負い、それらと相まって、女性は男性による性加害や支配の対象とされやすい。これらの差異は、人間が文明を持つ以前から存在する差異であり、このことを正しく直視することなしには、生物学的[生得的]女性に対して酷な結論となる。

  下記のような場面では、自認ではなく、全身体・生物学的 [生得的]性別区分による保護が必要である。

(1)女性身体と男性身体の全身体的生物学的差異自体に基づく区分取り扱いが特に必要なもの
   医療/スポーツ/月経・妊娠・出産に関する処置及び制度

(2)女性の身体の安全と尊厳の保護、性的侵犯及び性的身体的プライバシー侵害の予防を目的とするもの
   ・女性専用施設・区画:入浴施設/トイレ・更衣室/DV・性犯罪等被害女性保護施設 
           医療施設・介護施設・刑事収容施設・宿泊施設の宿泊室の女性部屋
   ・同性介護・看護:介護・看護のみならず、警察官等による身体検査の同性対応、性暴力やDVの相談窓口においての同性対応、保育やシッター等の同性対応も希望する女性には確保されるべきである。
   ・災害時における女性の保護:災害時はその身体性ゆえに女性の権利尊厳は特に毀損されやすく、また不衛生による疾患が男性より起こりやすい観点からも、避難所での性別分けの確保は必須である。また女児、障害女性、高齢女性、単身女性のプライバシー及び身体的心理的安全を確保しなければならない。避難所責任者が男性に偏りやすいことも、女性の身体性由来の困難についての配慮に欠ける一因となっている。避難所の責任者に必ず生物学的女性を含む等の指針の策定が必要である。私設避難所においても同様の措置が取られるよう、市区町村は避難所責任者に要請するものとする。各避難所の責任者は男女一名ずつ設置しなければならない。 

(3)出生時に判別された性別により受ける性差別・ジェンダーバイアス(性偏見)・ジェンダーロール(性役割)の押し付け等による女性の困難の是正を目的とするもの

 以上のように、生物学的[生得的]性別に基づいた性別区分や専用施設・区画の確保は、女性が女性の身体を有することそのものに由来する困難の是正のために欠かすことのできないものである。「女性スペースを利用し、女子スポーツに参加することで、男性でなく女性であるという性自認が確認できる。これが性自認の尊重である」という考えは全くの本末転倒である。
  その他、統計、教育、生物学的性別による差別の是正措置等においても、未だわが国ではジェンダーバイアスが強固に存在し(ジェンダーギャップ指数)、特に政治家や研究者・経営者の人数比において女性が少数にとどまる現状からも、生物学的性別への着目を困難にすることは、すなわち女性に必要な是正措置等を困難にすることである。

3 生物学的 [生得的]女性だけの保護規定が必要である。この規定を定めることは違憲ではない。

 上記1,2で示したとおり、女性には、全身的な身体の性別(SEX)に基づき保障されるべき人権がある。これは憲法12条、13条により基礎づけられる重要な人権であるといえる。
 この人権、即ち女性の安全・尊厳の保護のために、私たちは女性保護法の制定が必要と考える。
 この制定にあたり、生物学的[生得的]性別でのみ女性を区分することは、性別取扱いの変更を定めた性同一性障害特例法や、最高裁で示された規範に反して違憲無効であるとする主張がある。しかし、その主張は失当である。以下に理由を述べる。

 まず、特例法による性別取扱いの変更自体が、「民法その他の法令の規定の適用について」、「その性別につき他の性別に変わったものとみなす」ものであり(法第4条1項)、あらゆる場において当然に男性を女性と(またその逆と)扱うことを予定したものではない。(注1・再)
 (注1 ”本法律が妥当する範囲及びその効力は、性別にかかわる法令を適用する関係で、性同一性障害者の法令上の性別の取扱いを変更することにとどまるものであり、それ以外のところでのその性別の取扱いについてまで必ずしも定めるものではなく、ましてやその生物学的な性別まで変更するものではない。”
『解説 性同一性障害者性別取扱特例法』2004/南野 知惠子 (監修)P81 性同一性障害者性別取扱特例法逐条解說)

 つまり、性別変更審判を受けた者だからといって、従来から男女の区分がなされている場面全てで当然に男性を女性と(またその逆と)扱わなければならないものではない。従来男女区分につき社会規範で運用されていた場(例えば浴場)においては、引き続き社会規範による運用がなされていると見るべきなのである。これは特例法の性別変更の要件の一部を違憲とした令和5年10月25日最高裁決定においても、三浦裁判官により反対意見のなかで言及されているものである。(注2)
 (※注2 「浴室の区分は、風紀を維持し、利用者が羞恥を感じることなく安心し て利用できる環境を確保するものと解されるが、これは、各事業者の措置によって 具体的に規律されるものであり、それ自体は、法令の規定の適用による性別の取扱 い(特例法4条1項参照)ではない。……上記男女の区分は、法律に基づく事業者の措置という形で社会生活上の規範を構成しているとみることができる。」(最高裁判所令和5年10月25日大法廷決定17頁・三浦守裁判官反対意見)

 そのうえで、特例法はさらに、「法律に別段の定め」を設けることにより、性別の「変更みなし」を除外する場面を設けることができることを定めている(「法律に別段の定めがある場合を除き、その性別につき他の性別と変わったものとみなす。」法4条1項)。法律に別段の定めを設けることにより、特例法による性別みなしの及ばない場面を明文で設定することは、特例法自体が許容し、予定したことなのである。この「法律の別段の定め」において特例法の要件を考慮することは必ずしも必要なことではない。むしろ「特例法の定めにもかかわらず、あくまで生物学的[生得的]性別によるべき場合」を想定したものと読み解くのが法文の素直な解釈であると言える。(注3)
 (※注3 ”性別の取扱いの変更の審判を受けた者は、第4条第1項の規定により他の性別に変わったものとみなされることとなるが、その場合でも性別が変わったとみなすことが困難な場合がないとは言えないことから、審判の効果は「法律に別段の定めがある場合」には及ばないこととしている。”
『解説 性同一性障害者性別取扱特例法』2004/南野 知惠子 (監修)P102 性同一性障害者性別取扱特例法逐条解說)

 なお、最高裁令和5年10月25日大法廷決定は、特例法に基づく性別変更審判の可否につき、特例法の要件の違憲如何も含めて判断したものであって、あくまで特例法の要件に関するものである。女性保護法は特例法自身の予定した例外規範を明文で定めるものであって、本決定とは矛盾しない。
 また、最高裁令和5年7月11日判決(いわゆる経産省トイレ判決)についても、あくまで同事件原告と経産省との間で、特定の具体的な事実関係においてのトイレ指定に関する経産省の裁量権が争われた事例であって、決してトランスジェンダーのトイレ利用に関する一般原則を示したものではない。
 いずれの判決・決定についても、異性としての生活を望む者の生活上の必要について著しい困難ないし不可能が生じないような一定の考慮は必要であるとしても、生物学的[生得的]性別に基づいた女性の安全・尊厳の保護一般を違憲とするようなものではないのである。
  

4 戸籍変更者やその予定者等、性同一性障害の者の生活上の必要については、いわゆる第三のスペース、個室、仕切りスペース、時間分け措置、いずれも不可能な場合の男子スペースの性別非限定化等による配慮を行うべきこと

 生物学的[生得的]性別に基づく女性の保護の必要性は上記1~3のとおりであり、その安全・尊厳は守られる必要があるが、これと戸籍変更者・その予定者等、性同一性障害者の生活上の必要を満たすことは、決して相容れないものではなく、社会的に両者の生活上の必要性をよく認識したうえで対応することで十分両立可能なものである。
 例を挙げれば、トイレに関するいわゆる第三のスペース(多目的個室、性別非限定トイレ等)の追加設置、浴場においての家族風呂の設置や時間分け利用措置、更衣室における仕切りスペースの確保等である。

 新設施設に関しては男性専用・女性専用区画に加えて第三のスペースの追加設置を行うほか、既存施設に関しても時間分けや仕切りスペースの確保を積極的に行うことにより、生物学的[生得的]女性だけが利用する女性専用施設・区画を確保しつつ、生活において性別意識に違和を持つ者の不便の解消を図ることが可能である。トイレに関しては、第三のスペースの追加設置が困難な場合、男子トイレを性別非限定化することによることも選択肢となろう(そもそも生物学的男性と生物学的女性とのトイレの必要数の差は1:3であるとする研究もあり[スフィア基準]、必要数との相対でみる男子トイレ数・面積は現状で十分に確保されているため、このような措置を行っても男性のトイレが女性のそれに比して不足する事態には陥らないと考えられる。ただしこのときには、男性用小便器と通路の間に視線を遮蔽する衝立を設ける等の尊厳に対する配慮は必要である)。

 このような社会においての性別スペースの対応を行うことにより、戸籍変更者や狭義の性同一性障害者だけでなく、広く異性としての生活を望む者や生活において性別意識に違和を持つ者についても、生物学的[生得的]女性の権利との衝突なく、その安全と尊厳とを損なうおそれなく、困難のない施設利用が可能になるものである。
 


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