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忙しい広告代理店営業が突然、源氏と平家にハマった理由②

恋愛シミュレーションゲーム「トキメキ幻想  恋する源平」の最初の設定は現代、主人公は京都で歴史を学ぶ大学生である。と、ひょんなはずみで何故か源平時代にタイムスリップしてしまうところからこの壮大な物語は始まる。
時は源平末期、平清盛亡き後、平家に翳りが見え始め、源平の争いが激しくなってきた頃が舞台である。主人公は歴史を学んでいたので時局がどうなるかも分かっており、かつ見たこともない未来の知識や技術も身につけていることから畏敬の対象となり、「先見の巫女」として源平双方の陣営から味方に引き入れようと狙われることになる。



まずこの時点でこのゲームにのめり込んだポイントその①。
「主人公がバカじゃない」!

およそ数多の恋愛シミュレーションゲームは、様々なクラスタの女性が違和感を感じないように、主人公をものすごくニュートラルな設定にしていることが常である。結果、特徴という特徴もなく、好きな人の言動にドギマギしてただ相槌をうち、ちょっと天然でものを知らず、相手にはそこがかわいいと言われる…

おるか!こんなウザい女!
カマトトぶるな!
という思いが込み上げ、のめり込むまでには至らない。
(それでもプレイはするのであるが)

他方、「恋する源平」は歴史の知識もあり、どのように振る舞って生き延びるのが得策か思案しながら主体的に生きる「私」が賢く、共感できる新しさである。 主人公を「私」の視点と重ね合わせることへの違和感がなくなった。


次ののめり込みポイントその②。
「登場人物の個性描写が秀逸」!

誰と生きていくかの選択によって源平どちらに与するか、その後どうなるかが大幅に変化するが、パートナーとなる男性の人となりの生き生きした描き方が秀逸すぎる。小説と言ってもよいほど個性が確固としており、人としての魅力に満ち溢れているのである。発言内容も深く、シリアスなストーリー展開にどんどんのめり込んでゆく。その魅力的な人物たちと少しずつ仲を深めていくことにも夢中になる。
恋愛シミュレーションゲームならではの、ただの好きだ嫌いだ惚れた腫れたの浅い会話ではない。
とにかく設定がしっかりしており、「濃い」んである。


のめり込みポイントその③。
「天晴れなエンディング」!

平家4名、源氏5名、その他1名(鬼一法眼)の総勢10名のオリジナルストーリーが楽しめるのだが、それぞれに至福, 現代, BADの3種類のエンディングが存在する。プレイ中に自分が選ぶ受け答えによって分岐していくのだが、この3種類それぞれが練りに練られた匠のエンディングなのである。



BADエンド。これは大体史実通りの結末を迎えるのであるが、平家は海の藻屑と消え、源氏も頼朝以外は殺されるのである。主人公も行動を同じくして平安時代に散るか、主人公だけが現代に戻って史実を調べ、パートナーの死に様を知ることになる。

現代エンドはなんとパートナーと一緒に現代に戻る結末。パートナーはそこで自分にぴったりな現代の職業を選んで共に逞しく生きていくんである!企画者の妄想があからさまに爆発したエンディングだが、なにしろ登場人物の個性を見事に描き切っているのであるから、文句のつけようのない妄想で楽しませてくれるのである。(確か源頼朝はディベロッパーの会社社長とか、平維盛は保父さんとか…)

現代エンドは楽しい結末だが、BADエンドは相手の人となりに2週間もかけてのめり込んでいただけにショックが強すぎて、まるで本当の肉親が亡くなったかのように目の前が真っ暗になり、現実世界での生産性が終日地に落ちるほどであった…。

それを救ってくれるのが、至福エンドである。
これは現代に逃避することなく、死も免れて鎌倉時代を共に生きていくエンディングなのだが、源氏であれば頼朝との敵対を回避してうまくやっていく結末であるし、平家であれば壇ノ浦の海に沈んだと見せかけて落ち延び、田舎でひそやかだが安寧に暮らしていく平和な結末なのだった。めでたしめでたし。


この素晴らしいゲームを夢中になってプレイし、セリフのひとつひとつを覚えるほどにまで心酔したことで、私はもうこの歴史上の人物たちを他人とは思えなくなってしまった。
そこでふと、本当の史実はどうだったのか?彼らはいかに生きたのか?と歴史に疎い私は思ったんである。

情熱のエネルギーに火がつくと、私は我ながら恐ろしいほどの行動力を発揮する。片っ端から書籍を購入して調べまくり、比較調査したところ…
ある一つの事実に行き当たった。

このゲームは史実というよりは、「平家物語」に完全に忠実に創られている…!!

人物を見事に描き切っていたのは、人物設定豊かな平家物語に倣ったからだったのだ。元が文学作品だったから(口伝とはいえ)、歴史の流れではなく人間関係の機微とドラマが物語を紡いでいたから、歴史オンチな私までをもあれほどまでに魅了したのだ。
それにしても調べるほどに、見事なほどに忠実にシナリオが書かれていたことに感嘆した。平家物語をきちんと把握した今なら、なぜあの登場人物があの時あのセリフを言ったのか、あそこのあの戦いは何であったのか、分かる。全て理解できる!

残念ながらこのアプリはもう、今のOSでは遊べなくなってしまっているが、いつか企画者の方を探し出し、熱烈に語り合いたいものである。

プレイ後、源平の皆様への思慕の情が消えず喪失感を味わっていた私は、幾度も幾度もエンディングを思い返しては咀嚼していた。
いわゆる「斜陽」が好きな私としては(太宰治作品でも一番好きなのは「斜陽」である)、7:3くらいで平家贔屓であり、中でも最愛の平維盛様の最期については痛々しく思っていたのだが…

気付いたのだ。
平家には日本各地に「落人伝説」があるということを。
私と同じように平家贔屓の後世の人たちが妄想を語り継いだのかもしれないが、中には本当に落ち延びた公達たちもいたに違いない。
平家は本当は壇ノ浦で一族郎党絶滅したのではないのだ。
平家の落人伝説を追いかければ、平家のハッピーエンドを実際に確かめることができる!!


かくして歴史オンチな広告営業は「源平アドベンチャー」なる史跡巡りを開始することにした。割合は7:3を心がける。
なぜ「アドベンチャー」なのかは、おいおい記事によって理解していただけるだろう。

平家は落ち延びて、今も子孫が平和に暮らしている。そう固く信じて。

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