Alex Berensonの主張に反して、COVID-19ワクチンが子供達の免疫反応を弱めるという研究結果は出ていません。

【主張】以下の研究結果が報告されている:

  • Pfizer社のCOVID-19注射を受けた子供達の免疫反応が弱まった。

  • mRNAのCOVID-19注射は子供の他のウイルスに対する免疫反応を損傷する。

  • mRNA注射は子供達に永続的な免疫不全を引き起こしたようである。

【詳細な評定】

観察の意味を理解していない


  • Noé氏らによる研究では、COVID-19ワクチン接種後の子供達の血液を採取し、実験室でのテストにおいて、病原菌に反応して白血球が産生するサイトカインが少ないことを発見しました。

  • しかしながら、これだけでは子供達の免疫力が低下したことにはなりません。

  • 炎症分子の産生が低下することは、有益である可能性さえあります。

不十分な裏付け


  • この研究は少人数の子供達を対象に実施されたものです。

  • 結果は統計的な偶然の影響を受けやすかったのではないかと思われます。

  • より信頼性の高い結論を得るためには、より大きなサンプル数を用い、より長期間に渡って実施された研究が必要です。

【キーポイント】

  • COVID-19ワクチンは重症化に対して有効です。

  • 米国小児科学会は、生後6ヵ月以上の小児及び青年に対してCOVID-19ワクチンの接種を推奨しております。

  • COVID-19ワクチン接種によって、SARS-CoV-2ウイルス以外の病原体からの感染に対する免疫系の反応が一時的に変化する可能性を示唆する研究もいくつか存在します。

  • しかしながら、この研究ではワクチン接種を受けた子供の免疫力が弱くなることは示されていません。

【レビュー】

メルボルン大学の研究者による研究[1]が、Pfizer社のCOVID-19ワクチンが他の病気に対する子供達の免疫反応を損傷させたというソーシャルメディア上の主張の根拠となりました。

このような主張の一例は、フロリダ・スタンダード紙のこの記事に見られます。記事では、「Pfizer社のCOVID-19ワクチンを注射された子供達の免疫反応が弱まった」と主張しています。同サイトはまた、「世界中の子供達が日常的にmRNAのCOVID-19注射を受けているのだから、この注意は奇妙な後付けのように思えるかもしれない」とも付け加えています。この声明は、保健当局もワクチン製造業者も研究者も、子供達の安全に対するリスクを見落としていたことを暗示しているのです。

この主張のもう一つの例は、作家のAlex Berensonによるもので、彼は自身のSubstackのページで、「mRNA COVID-19ワクチン接種は、子供達の他のウイルスに対する免疫反応を損傷する」、「長期的な免疫不全を呼び起こす」と主張しました

しかしながら、これは研究結果を不正確に表現したものであり、以下に説明するように、この研究の著者はこれらの主張に反論しています。

この研究は何を研究し、何を発見したのか?

Noé氏らによる研究では、小児におけるCOVID-19ワクチンの標的外効果について調査さ れました。オフターゲット効果とは、あるワクチンが標的としている病気以外の病気に及ぼす影響のことです。例えば、天然痘や結核に対するワクチン接種は、天然痘や結核以外の感染症による死亡率の低下と関連しています[2,3]。

そのために著者らは、ワクチン接種前後の子供達の血液サンプルを調べ、ウイルスや細菌の異なる成分に曝された時の白血球によるサイトカインの産生を調べました。サイトカインとは、免疫系の細胞によって産生される分子で、感染に対する免疫反応の調節に中心的な役割を担っています。

研究者らは、COVID-19ワクチン接種後に病原体に曝された時の白血球のサイトカイン産生量が、ワクチン接種前よりも少ないことを発見しました。この効果は、COVID-19ワクチン接種28日後に細菌、真菌、ウイルス成分に対して認められました。ワクチン接種6ヵ月後、細菌及び真菌成分に対するサイトカイン産生は正常に戻ったものの、ウイルス成分に対するサイトカイン産生は低下したままでした。従いまして、著者らは、「SARS-CoV-2 mRNAワクチン接種は、異種細菌、真菌及びウイルス再刺激に対する炎症性サイトカイン応答を低下させる」と結論づけました。

この研究結果は、COVID-19ワクチン接種が小児の免疫反応を弱めることを意味するものではありません。

この研究では、COVID-19ワクチン接種後にサイトカイン産生プロファイルが変化することが示されました。しかしながら、これはBerensonらが主張するように、ワクチン接種を受けた子供達が他の病気に感染しやすくなるということを意味するものではありません。Science Feedbackは Berenson氏に連絡を取り、この主張を裏付ける証拠は何かと尋ねました; 追加情報が入手可能になれば、レビューを更新する予定です。

Science Feedbackでは、この研究の著者にコメントを求めてみました。これに対し、研究の著者は、そのような主張に反論する声明を発表し、電子メールで我々に伝えてくれました:

我々の研究は、COVID-19ワクチンが小児や成人の免疫系に有害であることを示唆するいかなる証拠も示していません。特に、我々の研究結果がCOVID-19ワクチンが「免疫系を抑制する」ことを示しているというのは誤りです。

A statement regarding a recent COVID-19 vaccination publication - Murdoch Children's Research Institute (mcri.edu.au)

彼らは次のように付け加えました:

これらのサイトカイン応答は、体内の複合的な免疫応答の一面に過ぎず、いつまで持続するかはわかりません。我々は、これらの変化が臨床的にどのような結果をもたらすかについては調査しておりません。

A statement regarding a recent COVID-19 vaccination publication - Murdoch Children's Research Institute (mcri.edu.au)

つまり、免疫システムは非常に複雑であり、刺激に対するサイトカイン反応の変化が、必ずしも感染に対する防御力の低下に直結するわけではないということです。他の感染症に対する免疫系の反応を改善する可能性さえあるの です」。例えば、研究者らは、成人と比較して小児ではいくつかのサイトカインの分泌が少ないことが、重症COVID-19のリスクが低いことの説明になると仮定しました[4,5]。

シンガポールにあるA*STAR感染症研究所の上級研究員であるAngeline Rouers氏は、Science FeedbackへのEメールで「サイトカインは免疫反応の一部でしかなく、 T細胞やB細胞等の細胞成分や抗体産生による体液性反応の寄与も考慮に入れなければなりません 」という考え方を支持し、更に、

「適度なサイトカイン応答は感染と闘う上で有益です。これとは対照的に、『サイトカインストーム』と呼ばれる現象は、感染症においてより重篤な転帰や病態と関連することが知られています」と彼女は指摘してくれました[6]。

研究デザインによる結論の重要性への言及には制約があります。

興味深い情報を提供してくれてはいますが、Noéらの研究にはいくつかの制限があります。

第一に、この研究はサンプルが非常に少ないことが挙げられます。研究に参加した子供は29人で、ワクチン接種後6ヶ月の長期追跡調査を継続したのは8人だけでした。この研究の著者は、サンプル数が少なかったのは、研究に参加し続けることに同意した親が少なかったからだと説明しています。

サンプル数が少ないと、統計的偶然の影響を受けやすいものです。更に、サイトカインレベルは平均値付近で自然に変動することが予想されます。サンプル数が少ないと、ワクチン接種が原因ではなく、偶然に検査当日のサイトカイン産生量が予想より少なかった小児が数人居た場合、結果が影響を受ける可能性があります。サンプルサイズが大きければ、偶然が結果に及ぼす影響を減らすことが可能となります。サンプル数が限られているため、Noéらの結果は慎重に解釈しなければなりません。

第二に、これは純粋に試験管内での研究でしかないということです。つまり、研究者たちは管理された実験室環境の試験管内で実験を行なったということです。試験管内実験は科学研究の重要な一部分ではありますが、人体の複雑さを完全に表現するものではありません。

そのため、人体で起こることについて信頼性の高い結論を出すには、人を含めた臨床研究が必要なの です。Berenson氏は、Noé氏らにおけるこのような臨床データの欠如を認めてはいますが、それでも小児における「損傷した免疫反応」や「免疫不全」についての主張を差し止めることはしませんでした。

この研究の実験デザインについて、Rouers氏は、「これは研究室では非常に一般的な手順ですが、実際の生活や、実際の感染症の場合に我々の身体がどのように反応するかを反映していないので、結果は慎重に解釈しなければなりません」と説明しました。COVID-19 mRNAワクチンを接種された子供達が、他の感染症に感染しやすくなったり、症状が重くなったりすることを証明する臨床研究は、ここでは実施されておりません。

結論

Noé 氏らの研究は、COVID-19ワクチン接種後、小児の免疫系成分の一部がSARS-CoV-2以外の病原体に対して異なる反応を示すことを示しました。これは少数の小児のサンプルを用いた試験管内研究であり、結論の重要性には限界があります。ワクチン接種を受けた小児が他の病原体に対してより良い結果を示すのか、或いは悪い結果を示すのか、またその期間はどの程度なのかは不明です。COVID-19ワクチンの臨床研究では、子供やティーンエイジャーに安全であることが確認されています。生後6ヵ月以上の子供とティーンエイジャーにCOVID-19ワクチンの接種を米国小児科学会は勧めています

【SCIENTIST'S FEEDBACK】

A*STAR感染症研究所上級主任研究員Angéline Rouers氏

Frontiers in Immunology誌に掲載されたNoé氏らの研究は、小児におけるBNT162b2 COVID-19ワクチンの異種効果を強調しています。彼らの結果は科学界にとって興味深いもので、小児におけるCOVID-19 mRNAワクチン接種後に他の病原体に対するサイトカイン産生に変化があることを示しています。残念なことに、この研究結果は誤って解釈され、COVID-19に対するmRNAワクチンは小児の免疫系を損傷し、他の感染症のリスクに曝すとする誤った主張がいくつかの論文に発展してしまいました。

著者らは既にこの件についてコメントし、彼らの研究はCOVID-19ワクチン接種後の小児の免疫系に対するいかなる損傷も目的としておらず、実証していないことを明らかにしています。著者らによる「変質させる」という言葉の使用は、恐らく一般の人々に混乱をもたらすものだと思われますが、彼らの研究は、他の病原体に対する持続的な免疫不全の証拠を裏付けるものではありません。

Alex Berensonの論文は、Noé氏らの研究を用いて、COVID-19ワクチンが小児の免疫反応を損傷すると主張しています。彼は「インターフェロンのようなサイトカインは免疫システムにおいて重要な役割を果たしており、ウイルスやその他の外敵を攻撃するのに役立っている」という事実を強調しているが、これは正しいものの、完全とは言えません。サイトカインは免疫反応の一部に過ぎず、T細胞やB細胞などの細胞成分や、抗体産生による体液性反応も考慮に入れる必要があります。その上、適度なサイトカイン応答は感染と闘う上で有益である可能性もあります。対照的に、「サイトカインストーム」として知られる現象は、感染症において、より重篤な転帰や病態と関連することが広く知られています[6]。

Noé氏らの研究はよく実施されており、データに矛盾は見られないですが、これはin vitroの研究であることに注意する必要があります:[6]: ワクチン接種を受けた子供達の血液から細胞を分離し、刺激物と共にプラスチックの培養槽で培養し、その反応を観察したものだからです。これは研究室ではごく一般的な方法ですが、結果は実際の生活や、実際の感染症に罹患した場合に我々の身体がどのように反応するかを反映したものではありませんので、慎重に解釈する必要があります。ここでは、COVID-19 mRNAワクチンを接種した子供が他の感染症に感染しやすくなったり、症状が重くなったりすることを示す臨床研究は実施されていません。

Berensonの論文はまた、「mRNA注射が小児に持続的な免疫不全を引き起こしたようだ」と主張していますが、これは行き過ぎた解釈であり、この研究は大部分のコホートについて2回目のワクチン接種から28日後しか調べておらず、ワクチン接種から6ヵ月後に分析されたサンプルは8つしかありません。従いまして、この研究では免疫反応の「持続的な」変化(欠乏ではなく)を示す証拠はありません。

最後に、COVID-19に対するワクチン接種が小児にとって有益であることはよく知られています[7]。ワクチン接種によってウイルスの増殖を抑えることが可能となりました。小児におけるSARS-CoV-2感染時の重篤な合併症の頻度は成人と比較して低いにも関わらず[8]、小児は小児多系統炎症症候群(MIS-C)[9]のような症候群を経験する可能性があり、ワクチン接種によって有意に減少させることが可能となると考えられています[10]。

参考文献

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