そもそも、この研究は、イベルメクチンがCOVID-19による死亡を92%まで予防し、感染や入院を減少させることを証明するものではありません。

COVID-19の予防のためにイベルメクチンを常用すると、この病気の死亡率が最大92%低下し、感染症や入院も減るのでしょうか?いいえ、そんなことはありません:イベルメクチンに関するこの主張は、ネブラスカ大学医療センターのある専門家が「よく構成された研究ではない」と呼ぶものの一部でした。この研究は、独立した専門家によって十分に吟味される前に、科学者が研究結果を共有することが出来る「オープンアクセス」サイトで公開されました。

この主張は、2022年8月31日にThe Cureus Journal of Medical Science (Cureus) で発表された「88,012人を対象とした厳格に管理された前向き観察研究の結果、COVID-19の予防薬としてイベルメクチンを定期的に使用すると、用量反応的にCOVID-19の死亡率が最大92%減少した。」 というタイトルの研究(アーカイブはこちら)で登場したものです。冒頭は以下の通り:

我々は以前、ブラジル南部(ブラジル・イタジャイー)の厳密に管理された市全体のプログラムにおいて、定期性に関係なくコロナウイルス症2019(COVID-19)の予防薬としてイベルメクチンを使用したところ、COVID-19感染、入院、死亡率の減少に繋がったことを明らかにしました。本研究では、イベルメクチンの定期的な使用がCOVID-19からの防御レベルおよび関連する結果に影響を与えるかどうかを判断し、用量反応効果の実証を通じてイベルメクチンの有効性を補強することを目的としています。

 https://www.cureus.com/articles/111851-regular-use-of-ivermectin-as-prophylaxis-for-covid-19-led-up-to-a-92-reduction-in-covid-19-mortality-rate-in-a-dose-response-manner-results-of-a-prospective-observational-study-of-a-strictly-controlled-population-of-88012-subjects?email_share=true&expedited_modal=true 

執筆時のThe Cureus Journal of Medical Scienceのサイトでは、次のような研究内容となっています:

(出典:Cureusのスクリーンショット 取得日:2022/09/08 木曜日20:31:59 UTC)

2022年9月4日、Twitterのスレッドで、ウーロンゴン大学の疫学者Gideon Meyerowitz- Katz氏が、この研究のタイトルから結論まで、全てに言及したのです:

まず、タイトルから見てみましょう。著者らは、この研究を「厳密に管理された88,012人の被験者」を対象とした「前向き観察研究」と表現しています。これは間違っています。

方法書に明記されているように、研究デザインと倫理的承認は、公衆衛生プログラムが発生した後になされたものです。これは、日常的に記録された医療記録を対象とした後ろ向き観察研究と呼ぶ方が正しいでしょう。

https://twitter.com/GidMK/status/1566574956628287488 

国立医学図書館(NLM)の論文によりますと、後ろ向き観察(コホート)研究には限界があるとのことです:

後ろ向きコホート研究は、歴史的コホート研究とも呼ばれ、現在の時点で実施され、医療事象や転帰を調べるために過去を振り返るものです。言い換えれば、曝露状態に基づいて選択された被験者のコホートが現時点で選ばれ、過去に測定された結果データ(即ち、疾病状態、事象状態)が分析のために再構築されるのです。この研究デザインの第一の欠点は、データ収集に対する研究者のコントロールが限定的なことです。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2998589/ 

本研究のデータは、2020年7月7日から2020年12月2日の間にブラジルのサンタカタリーナ州イタジャイで行われた市全体の公衆衛生プログラムから得られたものです。プログラムへの参加と報告は任意でした。

無作為化比較試験

NLMの別の論文によりますと、無作為化比較試験は有効性研究のゴールドスタンダードと考えられており、この場合はCOVIDに対する予防薬としてのイベルメクチンについてです:

無作為化比較試験(RCT)は、新しい介入や治療の有効性を測定する前向き研究です。いかなる研究もそれ自体では因果関係を証明することは出来ませんが、無作為化はバイアスを減らし、介入と結果の間の因果関係を調べる厳密な手段を提供します。これは、無作為化という行為により、参加者の特性(観察されたもの、観察されていないものの両方)が群間で均衡するためで、結果のいかなる差異も研究介入に起因するものとすることが可能になります。これは他の研究デザインでは不可能なことです。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6235704/ 

2022年9月9日、Lead Storiesへの電子メールで、ジョンズ・ホプキンス大学医学部教授のStuart Ray博士は、この研究はCOVIDの治療法としてイベルメクチンを使用することに新しい光を与えていない、と述べています:

この研究は方法論的に弱く、疑わしい結果から結論を導き出すのは難しいと言えます;しかしながら、我々は既に、イベルメクチンが重度のCOVID-19の予防に有益ではないことを示すランダム化比較臨床試験のデータを持っています。それらのより厳密な研究と、この研究の欠点を考慮すると、この報告は...イベルメクチンがCOVID-19(SARS-CoV-2感染関連疾患)の予防や治療に有効でないという我々の理解を変えることはありません。

https://leadstories.com/hoax-alert/2022/09/fact-check-study-does-not-prove-ivermectin-prevents-up-to-92-percent-of-covid-deaths.html 

テキサス大学オースティン校デル医学部内科感染症科主任のKristin Mondy博士は、2022年9月8日の電子メールで、後ろ向き観察研究で見つかると思われる問題点があると指摘しています:

一通り読んでみて、統計解析に大きな懸念があります。驚くことではありませんが、イベルメクチンを服用した人のタイプに大きな違いがありました(つまり、非服用者に比べて50歳以上の人が2倍もイベルメクチンを服用していたのです)。傾向スコアマッチングでこのようなバイアスを克服するのは無理だと思いますし、そうすべきでもないと思います。

また、服薬アドヒアランスのチェックを一切行なわない自己申告に基づく研究も、バイアスがかかりやすいと思います。

正直なところ、この雑誌についてはあまり詳しくないので、査読プロセスがどの程度厳格なのか(あるいは統計学者が含まれているのか)、よく分かりません。

https://leadstories.com/hoax-alert/2022/09/fact-check-study-does-not-prove-ivermectin-prevents-up-to-92-percent-of-covid-deaths.html 

Cureusは、この研究を査読済みであると認定しています。2022年9月8日、Lead Storesへの電子メールで、Cureus編集長のJohn R. Adler Jr.博士は、同誌の査読プロセスについて説明してくれました:

Cureusでは、独立した査読者によるレビューが最低2件完了することが必要です。この論文には、3つの完了レビューと1つの部分レビューがあり、後者はコメントの一部を提供しています。このレビューの集録資料は、掲載の最終決定をしなければならないCureusの承認編集者が入手することが可能と なっています。

Cureusは査読者の身元や査読コメントを明らかにしないので、Mondy氏が推奨するように統計学者がデータをレビューしたかどうかは不明です。2022年9月8日、Lead Storesへの別の電子メールで、Cureus編集運営ディレクターのGraham Parker- Finger氏が、更に詳細な説明をしてくれました:

Cureusは、著者名を査読者に伝え、査読者自身は匿名のまま、単盲検査読を実施します。Cureusでは、投稿する全ての著者に最低5名の査読者候補を提案するよう求めており、査読開始前に編集者がその候補を吟味しています。

この5名の査読者に加えて、Cureusは、論文が査読に入る際に関連分野の専門知識を持つ6名の査読者を招き、論文が査読に合格するまで2日おきに3名の追加査読者を招きます。これらのレビュアーは、社内のレビュアーボランティアから選ばれ、専門分野とキーワードに基づいて論文とマッチングされます。査読を満足させるためには、ジャーナルが招待した査読者から少なくとも2件の完了した査読を受けなければなりません。つまり、著者が推薦した査読者から提出された査読は、2件の査読完了の要件には含まれないのです。

https://leadstories.com/hoax-alert/2022/09/fact-check-study-does-not-prove-ivermectin-prevents-up-to-92-percent-of-covid-deaths.html 

Cureus社はLead Storiesに対し、国際医学雑誌編集者委員会の「医学雑誌における学術的研究の実施、報告、編集、出版に関する勧告」に従っていると述べています。ICMJEのウェブサイトでも、その勧告に従うとする雑誌の中にCureusが掲載されています。ICMJEは次のようにコメントしています:ICMJEは、「掲載誌の中には、この文書にある多くの推奨事項や方針の全てに従っていないものがあるかもしれません」と指摘しています。

ネブラスカ大学医療センター感染症科のJames Lawler博士は、2022年9月6日にLead Storiesに送ったメールの中で、この研究がピアレビューの要件を満たしているかどうかについて、いくつかの懸念があると述べています:

第一に警告すべきは、この論文が従来の査読付き科学雑誌ではないオンラインポータルで発表されていることだと思います。

イベルメクチンについては、コクラン・データベースのような世界的に認められた科学グループによるいくつかのRCT(無作為化比較試験)と正当なメタ解析が実施されており、その結果は非常に明確になっていますーCOVID-19では何の利益も得られません。

https://leadstories.com/hoax-alert/2022/09/fact-check-study-does-not-prove-ivermectin-prevents-up-to-92-percent-of-covid-deaths.html 

Ray氏は、この研究の査読プロセスがいかに骨の折れるものであったかについて、懸念を抱いていると述べました:

この研究は、イベルメクチンを服用した人としない人の転帰を比較する、後向き観察研究です。イベルメクチン使用の推測の精度は低いようです;
このことは、ブラジルの地方保健当局から、処方されていない多くの人がイベルメクチンを服用し、イベルメクチンを処方された多くの人が服用していないという報告があったことからも分かります。加えて、COVID-19を発症した人は服用を中止するよう指導されており、イベルメクチンの使用量減少とCOVID-19との関連性を人為的に強めている可能性もあります。これらは一例であり、記事を読むと、どんな査読でも厳密なものではなく、恐らく急いで行なわれたのだろうという印象を受けました。

https://leadstories.com/hoax-alert/2022/09/fact-check-study-does-not-prove-ivermectin-prevents-up-to-92-percent-of-covid-deaths.html 

著者と利益相反

Lead Storiesは、この研究の著者の一人について以前にも記事を書いています。Pierre Koryは、Frontiers in Pharmacologyの学術論文でウイルスに関する根拠のない主張を広めたとして引用された反ワクチン団体Front Line COVID-19 Critical Care Alliance(FLCCC)に所属する医師です。KoryはFLCCCの創設メンバーです。この研究のもう一人の著者であるFlávio A. Cadegianiもまた、この同盟の創設メンバーです。

この研究の「倫理声明と利益相反開示」の項で、著者らはFLCCC、イベルメクチン製造業者、イベルメクチン推進団体と金銭的、その他のつながりがあることを明かしています。

製薬会社との繋がりは珍しいことではありません。多くの査読付き論文は、製薬会社の支援を受けています。Lead Storiesへのメールで、Johns HopkinsのRay氏は次のように述べています:

論文の開示事項によりますと、主執筆者を含む複数の著者が、イベルメクチンを製造する企業や、その使用を長年推進してきた団体と金銭的またはコンサルティングの関係にあることが判明しました。このような利害の衝突は研究を無効にするものではありませんが、潜在的な利益相反を意味し、この研究の弱い科学的方法はこれらの懸念を軽減するものではありません。

https://leadstories.com/hoax-alert/2022/09/fact-check-study-does-not-prove-ivermectin-prevents-up-to-92-percent-of-covid-deaths.html 

この点について、Cadegianiは、Cureusのウェブサイトの研究コメント欄に、次のような「発表後のメッセージ」を寄せています:

私は他の人のことを代弁することは出来ません。

しかしながら、私は過去にイベルメクチン製造業者から1,600米ドルを受け取りましたが、そのことを明らかにすることは公正であると考えています。

1. この金額は、コンサルティング業務に費やした時間を遥かに下回るものであった。
2. コンサルティングの結果は、分子にとってプラスになるものではなく、私が提供したレポートとは無関係のものであった。
3. 受け取った金額の100%は、COVID-19の研究および臨床管理のために寄付された。
4.私はCOVID-19のために200,000.00米ドル以上に相当する金額を寄付した。
5.私は、COVID-19の研究プロジェクトに取り組むために、予定されていた患者の予定をすべてキャンセルし無償で行なった。

https://leadstories.com/hoax-alert/2022/09/fact-check-study-does-not-prove-ivermectin-prevents-up-to-92-percent-of-covid-deaths.html

FDA未承認

この研究の主張に対する回答を求められたFDAの広報担当者Chanapa Tantibanchachai氏は、2022年9月6日付の電子メールで、FDAは第三者の研究に対してコメントしないとLead Storiesに述べています:

現在、FDAはイベルメクチンをヒトのCOVID-19の予防や治療に使用することを許可・承認していません。現在までのところ、公表されている臨床試験では、様々な結果が示されています。COVID-19の予防や治療のためにイベルメクチン錠剤を評価する追加の臨床試験が進行中です。COVID-19におけるイベルメクチンの臨床試験に関する情報は、https://www.clinicaltrials.gov/ で参照することが可能です。

FDA承認製品は、医師がCOVID-19中を含む患者の治療に適切と判断した場合、未承認の用途で処方されることがありますが、COVID-19の予防や治療に対するイベルメクチンの安全性と有効性は確立されていません。イベルメクチンの服用は、患者が服用している他の薬と相互作用し、吐き気、嘔吐、下痢、低血圧(血圧低下)、アレルギー反応(かゆみやじんましん)、めまい、運動失調(平衡感覚の問題)などの副作用を引き起こす可能性があります。

https://leadstories.com/hoax-alert/2022/09/fact-check-study-does-not-prove-ivermectin-prevents-up-to-92-percent-of-covid-deaths.html 

FDAは、COVID-19に対するイベルメクチンの使用を控えるよう、ファクトシートを提供しています:COVID-19の治療や予防にイベルメクチンを使用してはならない理由



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