真菌が癌の唯一の原因であるという主張は、データを誤って解釈し、根拠のない推測をしているだけです。

【主張】

  • アフラトキシンが癌の発生を促進する。

  • 私の仮説によれば、真菌のDNAと我々の白血球のDNAとが融合し、新しいハイブリッドな腫瘍(嚢)を形成する際に癌が始まる。

  • このハイブリッドは、50%が人間であるため、我々の免疫防御を迂回し、「自己」として認識されるのに十分な、独自の生命体を形成する。

  • 真菌性肺感染症と肺癌とを見分けることは不可能である。

【評定詳細】

誤り:

  • 現在の科学的コンセンサスでは、癌は制御不能な細胞の成長と増殖をもたらす突然変異の結果であるとされています。

  • 癌の危険因子には、特定の感染因子、特定の化学物質への暴露、生活習慣の選択等様々なものがあります。

  • 全ての癌が菌類に起因するという主張は誤りです。

誤解を招く:

  • アフラトキシンとして知られるある種の真菌毒素は肝臓癌と関連していますが、それがあらゆる種類の癌のリスクを高めることを示す証拠は殆どありません。

【キーポイント】

  • 全ての癌が真菌によって引き起こされることを示す科学的証拠はありません。

  • 癌とは、制御不能な細胞の成長と増殖を特徴とする疾患群の名称です。

  • これは、細胞の成長と分裂に対する正常な細胞の「ブレーキ」を損なう突然変異によって起こります。

  • 危険因子は癌の種類によって異なります。

  • ウイルスのような感染因子に関連する癌もあれば、特定の化学物質への曝露に関連する癌もあります。

【レビュー】

2024年4月30日、Facebookの《Know The Cause》というページが、真菌による皮膚感染症が皮膚癌と混同されていることをほのめかす投稿を掲載し、1957年の "John's(sic) Hopkins medical school textbook on Dermatology "を引用して、皮膚癌は「時に真菌から始まる」と主張しました。
7万人以上のフォロワーを持つこのページは、Doug Kaufmannが司会を務める同名のテレビ番組を象徴しています。Kaufmann は、真菌は真菌毒素の作用によって、癌を含む多くの病気の原因であるという信念を長い間広めてきました。この信念に沿って、彼は以前、元医師のTullio Simonciniインタビューしたことがあり、彼は癌は真菌のCandida albicansによって引き起こされると主張し、重曹として一般的に知られている炭酸水素ナトリウムで癌を治療することを提唱しました。

重炭酸ナトリウムが癌治療の効果を向上させることを示唆する細胞培養やマウスの証拠いくつか存在する一方で[1,2]、重炭酸ナトリウム単独でヒトの癌が治癒することを示すものは存在しません。Simoncini は、重炭酸ナトリウムで治療した癌患者が死亡した後、2018年に過失致死罪で有罪判決を受け、5年以上の懲役を言い渡されています。

このレビューでは、真菌が癌を引き起こすというKaufmannの主張に焦点を当て、彼のウェブサイト《Know The Cause》に掲載された資料を基に、彼の主張の根幹を取り上げます。以下に説明するように、この主張は誤ったデータと根拠のない一般論に依拠しています。

真菌毒素が肝臓癌に特異的に関連する科学的証拠であり、全ての癌に関連するものではありません

Kaufmann は《Know The Cause》のウェブサイトで、食品に含まれる真菌毒素が癌の発生を促進すると主張し(「マイコトキシンは真菌によって作られますが、真菌が癌の一因であることを認める医療従事者は殆どいません」)、その犯人としてアフラトキシンを挙げています。

この主張には一理あります。アフラトキシンはある種の菌類が産生する毒素の一群で、肝臓癌のリスク上昇と関連しています。この影響は主に肝細胞に突然変異を引き起こす能力によるものです。国際癌研究機関は1993年にアフラトキシンを発癌物質と認定しました。

アフラトキシンを生成する原因菌は、トウモロコシ、大豆、ピーナッツといった食用作物で増殖するので、これらの作物から作られた製品を摂取することは、人々がアフラトキシンに曝露される一つの原因となっています。

しかしながら、現在のところ、肝臓癌とアフラトキシンとの関連を示す科学的証拠は明らかになっているものの、アフラトキシンが他の癌のリスクを高めることを示す証拠は殆ど見つかっていません[3]。癌は単一の画一的な疾患ではなく、関与する危険因子の種類から癌の現れ方に至るまで、互いに大きく異なる疾患群であることを心に留めておくことが重要です。

要するに、アフラトキシンが癌全般の原因であるというKaufmannの推測には欠陥があります。その根底にある仮定は、アフラトキシンが肝臓癌のリスクと関連していることが知られているということは、その毒素が他の癌とも関連しているに違いないということです。しかしながら、Kaufmannはこの仮定を支持する証拠を何も示していないし、現在の科学的証拠もこれを裏付けてはいません。

癌細胞はヒトと真菌との「ハイブリッド」ではありません

Facebookの投稿にある、1957年の皮膚科学の教科書に皮膚真菌症が皮膚癌と混同される可能性が報告されているという主張は、彼のウェブサイトにあるこのページが示すように、Kaufmannによって2015年の時点でなされていたものです。このウェブページの主張は、真菌による皮膚感染と皮膚癌との混同の可能性があるということは、両者が同じものであるということを意味している、と暗に示しています。

このウェブサイトでは、「後に肺『癌』ではなく『真菌性』肺『感染症』と診断された27人の肺『癌』 患者」を示すとKaufmannが主張する「論文」でこの主張を補強し、真菌性肺感染症が広く肺癌と誤診されていることを暗に示しています。

しかしながら、問題の 「論文」は、実際には研究ではなく編集者へのレターであり、そのような含意を裏付けるものではありません。

このレターは、肺感染症が肺癌を(いかに誤診されるような)模倣をするかを調べた1997年の研究を引用しています[4]。2014年の論文で、外科腫瘍医で癌研究者のDavid Gorski氏は、この研究自体が肺癌診断の僅か1.3%しか感染症ではなかったと指摘しています。これらの感染症の46%は真菌によるものであり、真菌が肺癌の全初発診断の僅か0.6%にしか関与していないことを意味します。真菌による肺感染症が広く肺癌と間違われていることを示すどころか、この発見はKaufmann氏の主張を根底から覆すものなのです。

同じようにKaufmann氏は、肺癌と真菌性肺感染症は互いに見分けがつかないとも主張しています("It is impossible to tell lung fungus from lung cancer")。

しかしながら、これは誤りです。真菌細胞ヒトの肺細胞は形態学的に異なっています。また、実験室で培養される真菌細胞は、ヒトの細胞とは異なる増殖条件や栄養素を必要とします。例えば、真菌細胞は通常摂氏30度で培養されますが、ヒト細胞は通常摂氏37度で培養され、5%の二酸化炭素を含むインキュベーターの空気を必要とします。そのため、生検真菌培養のような真菌の微生物学的検査によって、臨床医は両者を区別することが可能となります。

最後に、癌はヒトの細胞と真菌の細胞のDNAが融合し、ハイブリッドが形成されることから始まるとKaufmannは推測しました。彼はこの主張には何の根拠も示していません。

Gorksi氏は、もしKaufmann氏が提唱したメカニズムが存在するのであれば、1990年代には既に研究者が癌細胞内の真菌DNAを特定することが可能になっていたであろう遺伝子配列決定技術を指摘し、このシナリオはあり得ないと説明されました。

結論

  • 真菌とヒト細胞のハイブリッドが癌の原因であるというKaufmannの主張には何の証拠もありません。

  • 癌とは、制御不能な細胞の成長と増殖を特徴とする疾患群の名称です。これは、細胞の成長と分裂に対する正常な細胞の「ブレーキ」を損なう突然変異によって引き起こされるものです。

  • アフラトキシンは特定の菌類が産生する物質で、肝臓癌のリスク上昇に関連しているものの、他の癌のリスクを上昇させるという証拠は殆ど存在しません。

  • 真菌だけが癌の原因というわけではなく、様々な種類の癌に関連する危険因子があり、それは感染因子から化学物質、生活習慣の選択まで多岐に渡っています。

引用文献


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