アドレノクロムはハイネケンの樽に貯蔵されていたわけでも、シェル石油会社によって輸送されていたわけでもありません。

アドレノクロムはオランダのビールメーカー、ハイネケンの樽に保管され、オランダの石油会社シェルによって世界中に運ばれていたのでしょうか?
いいえ、それは事実ではありません: ソーシャルメディアに出回っている画像は、側面に「アドレノクロム」という文字が刻印されたビール樽を写したものですが、実は2018年に開催されたアート展示の一部なのです。このプロジェクトは、この化学化合物に関するQAnonの陰謀説を風刺したものと思われます。なお、シェル石油はLead Storiesに対し、この主張は虚偽であると述べています。

この主張は、2023年5月9日に公開されたFacebook上の投稿(アーカイブはこちら⇦リンクがおかしいみたいなので修正待ち)に、"Ole Insane Billy Boi "というタイトルで登場しました。投稿の画像には次のように書かれています:

アドレノクロムは、オランダのハイネケン社の樽で世界中に輸送された。

その樽はオランダのシェル社によって輸送された。

https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=pfbid02aMhTgN9dHVFPpxpFwCkMaAJ5stGxX8Xi5dzysc1VsdTuBXVpSVtxefKXWyZfyKjul&id=745514051 

この投稿は、執筆時点のFacebookでは以下のように表示されていました:

(出典:2023/05/15 月曜日 15:08:49 UTCに取得されたFacebookのスクリーンショット)

上の切り取られた画像は、Natalie Lambert氏によるアートディスプレイの写真からです。Facebookに投稿された写真と同一ではありませんが、ロンドン芸術大学の一部であるセントラル・セントマーチンズの卒業生によるアート作品を紹介するInstagramアカウントに、このディスプレイの類似写真が投稿さていました。この写真は、2018年5月27日の投稿の8番目のスライド(アーカイブはこちら)として登場しました。説明文には以下のように書かれています:

ADRENOCHROME
作:Natalie Lambert @nlnl84
プロモーションビデオ、展示インスタレーション、 ADC altcoin、adrenochrome kegs、ブランドウェブサイトを含む統合アートワーク
www.adrenochrome.net
動画 - @nlnl84の経歴をご覧下さい。

#csmemerge #csm #fineart #adrenochrome #power #institutionalcritique #blood #sacrifice #harvesting #childsacrifice #adrenaline

https://web.archive.org/web/20230515162153/https://www.instagram.com/p/BjRaLeFhSmF/ 

この作品制作者自体は画像盗用された被害者ですから、ハイパーリンク付けは省いています。

執筆時のInstagramでは、以下のような投稿がなされていました:

(出典:2023/05/15 月曜日 16:38:52 UTCに取得したInstagramのスクリーンショット)

《adrenochrome》入りの樽は、左右の青枠で強調され(下)、右側の黄色枠で《adrenochrome》の文字がクローズアップされています:

(出典:2023/05/15 月曜日 16:38:52 UTCに取得されたInstagramのスクリーンショット)

Instagramの投稿の説明では、このディスプレイは「統合されたアートワーク」であるとされています。また、シェル石油やハイネケンについては一切触れられていません。

シェル石油

シェルの米国広報担当のAnna Arata氏は、Lead Storiesの2023年5月15日の電子メールで、「この噂は真実ではありません...しかし、はっきり言って、これらの主張は虚偽です」と述べています。彼女は更に付け加えました:

  • この物質(アドレノクロム)は、シェルの化学品ポートフォリオに含まれる製品ではありませんし、かつてあったこともありません。

  • ハイネケンは、シェル・トレーディング・アンド・サプライの顧客ではありませんし、そうであったこともありません。

QAnonとの関連

このFacebookの投稿は、子供の血を渇望し、悪魔の儀式で生贄にする小児性愛者の世界的陰謀団(彼らが言い張っている)「ディープ・ステート」とQAnonの陰謀論に大きく関わっています。

2022年3月31日のMen's Healthの記事では、別のアドレノクロム関連の話でLead Storiesと対談したカリフォルニア大学サンフランシスコ校の精神医学の健康科学臨床教授であるJoseph Pierre博士が、QAnonとの関連とアドレナクロムとその神話の関連について論じています:

QAnon運動の中心的な陰謀論は、悪魔を崇拝する小児性愛者のリベラル派が、国際的な児童性売買組織の背後に存在するというものです。この説の更に過激な側面は、彼らが子供からアドレノクロムを採取し、それを若さの泉のような薬として自己投与しているというものです。

https://leadstories.com/hoax-alert/2022/10/fact-check-video-does-not-show-patent-for-harvesting-adrenochrome-from-humans.html 

マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ氏は、しばしばこうしたQAnon説の対象になっており、Facebookの投稿の冒頭に「Ole Insane Billy Boi」と書かれているのは、そのためかもしれません。

この化学物質が不老不死をもたらすという証拠はありませんし、別のLead Storiesのファクトチェックで取り上げられたように、幻覚作用のようなものがあるわけでもありません。アドレノクロムがLSDのような性質を持つという概念には、文学的根拠はあるが科学的根拠はありません。作家のJosie Adamsは、The Spinの2020年4月7日の記事で次のように説明しています:

Aldous Huxleyが1954年に発表したエッセイ『感受の扉』は、主にメスカリンの体験について書かれており、アドレノクロムがサイケデリックなサボテンと同様の効果を持つ化合物であるという可能性について論じています。彼はアドレノクロムを摂取したことはなく、どのようにして入手するのかも知らないが、ただ人体で自然に生成されると述べています。彼は「アドレナリンの分解産物」と表現していますが、これは意外にも正しいのです。

1962年の小説『時計じかけのオレンジ』では、Moloko Plusというカクテル(ミルク入りグラス)のオプションとして「drencrom」が登場しますが、この化合物が最も多く使われているのは、ハンターSトンプソンの小説『ラスベガスの恐怖と憎悪』の中でしょう。それは小説の中のことかもしれませんが、多くの人はそれを人々が実際に行なったことだと思い込んでいました。

1998年の『恐怖と憎悪』のDVDコメンタリーで、監督のTerry Gilliamは、Thompsonがアドレノクロムのことは全部作り話だと言ったと述べています。

https://thespinoff.co.nz/society/07-04-2020/explainer-adrenochrome-the-drug-that-doesnt-exist 

QAnonの主張に関連する他のLead Storiesのファクトチェックは、こちらでご覧頂けます。

アドレノクロムについて特に言及している他のLead Storiesのファクトチェックは、こちらでご覧になれます。

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