いいえ、裁判所はFDAがCOVID-19に対するイベルメクチンの使用を禁止する勧告を出したことで法律を破ったとは裁定していません。
【主張】
連邦裁判所は米国FDAが法律を破り、プロパガンダを削除しなければならないとの判決を下した。
米国FDA、イベルメクチンとの戦いに敗れる。
イベルメクチンに関する米国FDAのオーウェル的な嘘に爆弾が落とされた。
真実と医療の自由のための大規模な勝利で、米国FDAはイベルメクチン使用に関する全てのSNSコンテンツと消費者向け勧告を削除しなければならない。
【評定詳細】
《事実無根です》
COVID-19のイベルメクチン服用に対する米国FDAの警告が違法に医療行為を妨害したとする訴訟は、米国FDAと原告との和解により棄却されました。
裁判所は米国FDAによる法律違反は認めませんでした。
《誤解を招きます》
この訴訟は、イベルメクチンがCOVID-19に有効かどうかとは無関係です。
適切に実施された臨床試験では、イベルメクチンがCOVID-19患者に意味のある利益をもたらすことは判明していません。
イベルメクチンは依然としてCOVID-19の治療薬として米国FDAに認可されておらず、未承認です。
【キーポイント】
イベルメクチンはヒトの寄生虫感染症の治療薬として承認されています。
COVID-19の大流行時には、イベルメクチンがCOVID-19の有効な治療薬であると喧伝する人もいました。
また、COVID-19に対して「適応外」で処方した医師もいました。
しかしながら、COVID-19の治療にイベルメクチンを用いることを支持するための信頼性の高い科学的証拠はありません。
イベルメクチンはCOVID-19の治療薬としては、米国FDAによって承認も認可もされていません。
【レビュー】
2022年6月、米国FDAが消費者にCOVID-19のイベルメクチンを服用しないよう助言した消費者勧告とSNSへの投稿が訴訟に巻き込まれました。
2024年3月下旬に和解が成立したこの訴訟は、多くのSNS投稿や記事が出回り始めました。
多くのフォロワーを有する健康誤報の発信源として知られる DC Draino(Roger O'Handleyとしても知られる)とErin Elizabethによるツイートでは、裁判所が米国FDAの法律違反を認め、イベルメクチンに関する投稿を削除せざるを得なくなったと主張されていました。
2020年以来、COVID-19の治療にイベルメクチンを使用することを推進してきた医者であるPierre Koryも、訴訟の結果は米国FDAの投稿が「違法」であることを示していると同様の主張をしました。
他の投稿で使われた言葉は、FDAの敗訴を暗示していました。耳鼻咽喉科の専門医で訴訟を起こした医師の一人であるMary Talley Bowdenは、「米国FDAはイベルメクチンとの戦争に負けた」とツイートしました。X( 旧Twitter)の彼女のプロフィールには、この主張が繰り返されています(「DR-PTとの関係を妨害したとして米国FDAを提訴し、勝訴した!」)。
誤報と陰謀論の発信源であるGateway Punditは、この件に関する記事中でBowdenの言葉を繰り返していました。
しかしながら、これらの投稿や記事は誤解を招くものばかりです。以下に説明する通り、これらは訴訟の結果と意味を誤って伝えているからです。
訴訟の経緯と結審
COVID-19のイベルメクチンを患者に処方していた3人の医師(Bowden, Paul Marik, Robert Apter)によって、この訴訟は2022年6月に最初に提訴されました。
イベルメクチンは寄生虫感染症の治療薬としてFDAに承認されています。実際に、2人の科学者はイベルメクチンの抗寄生虫活性の発見により、2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
イベルメクチンはCOVID-19の治療薬としては承認されていませんが、医師は「適応外処方」、つまり承認されている症状以外の治療に薬を使用することが可能です。
Bowden, Marik, Apterの3人は、米国FDAの消費者向け勧告(「COVID-19の治療または予防にイベルメクチンを使用してはならない理由」)及び、この勧告を共有するSNSへの投稿が、彼らの医療行為を違法に妨害したと主張しました。彼らは、米国FDAの勧告が彼らに損害を与えたと主張したのです。
注目すべきは、訴状には次のように明言されていたことです:
後述します通り、この情報は後に関連してきます。
この訴訟は当初、テキサス州の連邦判事によって棄却されました。しかしながら、2023年9月、控訴裁判所は判決を覆し、裁判の続行を認めました。
2024年3月21日、裁判所は、3人の医師と米国FDAとの和解により訴訟が却下されたことを発表しました。即ち、米国FDAが消費者向け勧告を削除し、消費者向け勧告に関連するSNSへの投稿を削除することに合意すれば、3人の医師は訴訟を却下することに合意しました。
訴訟の却下に関する合意文書では、これらの行為が「事実または法律の問題、不正行為、不法行為、またはこの訴訟のいかなる当事者側の責任も認めるものでも証拠となるものでもありません」と明記されています。
米国FDAの広報担当者はThe Epoch Timesに対し、「2年から4年近く前の声明について(訴訟を)続けるよりも」和解を選んだと語っています。
以上のことからわかるように、米国FDAは訴訟に負けたわけではなく、その結果は、DC Draino、Elizabeth、Koryの主張に反して、米国FDAが法律を破ったことを意味するものでもありません。
加えて、米国FDAは現在の勧告とSNSへの投稿を削除することに同意していますが、勧告の改訂版を発表する権利はまだ保持しています。
この訴訟はイベルメクチンのCOVID-19治療能力とは無関係です。
訴訟では、COVID-19に対するイベルメクチンの治療効果について議論しているわけではないと明記されていますが、訴訟をCOVID-19に対するイベルメクチンの有効性の証拠と混同することを選択した人もいます。
実際、この訴訟が2022年6月に提訴された当初、SNSの投稿の中には、米国FDAがイベルメクチンに対する立場を翻したことを意味し、結局この薬はCOVID-19に有効であるとほのめかしたと主張するものもありました。以前のScience Feedbackのレビューでは、このような主張を報告し、それらがいかにこの訴訟の手続きを誤って伝えているかを説明しました。
和解の後、これらの主張が復活しています。
例えば、MarikはThe Epoch Timesに対し、「医師が『米国FDAに従っただけ』という理由で、患者が救命治療へのアクセスを拒否されたために、どれだけの命が影響を受けたか、私たちは決して知ることは出来ないだろう」と述べています。
COVID-19の誤情報を繰り返し拡散しているX/ツイッターのアカウントThe Vigilant Foxは、「イベルメクチンに関するFDAのオーウェルな嘘に訴訟で爆弾が投下された」とし、「米国FDAはイベルメクチン使用に関する全てのSNSコンテンツと消費者勧告を削除しなければならない」と主張しました。
同じように、反ワクチン団体Children's Health Defenseの和解に関する記事の見出しでは、米国FDAは「血で手を染めた」と主張しています。
ワクチンの誤情報を広めた科学者Jessica Roseは、「米国FDAがIVMについて、SNSからその嘘を削除するよう命じられるほど嘘をついていたとしたら、他にどんな嘘をついていたのか」とツイートしました。
しかしながら、これらの主張は誤解を招くものであり、訴訟の結果によって立証されるものではありません。
この記事で訴訟の法的影響について論じたカリフォルニア大学法学部サンフランシスコ校のDorit Reiss教授は、誤った情報に対して次のように反論しています:
第一に、米国FDAがイベルメクチンに関して間違っていたという事実は全くなく、ましてや嘘をついていたという事実はありません。それを主張する正当な根拠もありません。
第二に、米国FDAは何も削除を命じられた訳ではありません。
米国FDAは、(私の見解では間違っていると思いますが)これ以上労力を費やす価値がないほど小さな事件と見なし、この件に煩わされるのを避けるための和解案として、イベルメクチンを提供したのです。
イベルメクチンは、人の寄生虫感染を治療する能力は認められていますが、COVID-19の治療薬としては未承認であり、米国FDAによって認可されていません。
イベルメクチンがCOVID-19患者に有効であることを報告した研究もいくつかありますが、これらの研究は一般的に信頼性に影響する限界を含んでいることが判明しています。Science Feedbackは、レビューの中でこれらの研究のいくつかを取り上げています(こちらとこちらを参照)。BBC Reality Checkもまた、イベルメクチンに関する欠陥のある、場合によっては詐欺的な研究についてのレポートを発表しています。
The Gateway Punditのように、c19ivm.orgというウェブサイトを引用して、COVID-19に対するイベルメクチンの有効性の主張を補強しようとするものも存在します。このウェブサイトは、イベルメクチンがCOVID-19に有効であることを示す100以上の研究を示していると称しています。
しかしながら、このウェブサイトを運営しているCovidAnalysis社は、COVID-19の治療法に関する分析に重大な誤りを犯していることが既に明らかになっており、Science Feedbackでもこれらの問題をいくつか取り上げて報告しています。Science Feedbackはこれらのレビューの中で、これらの問題のいくつかを取り上げています。CovidAnalysis社の分析の欠陥については、Ars TechnicaやScience-Based Medicineも取り上げています。
十分に実施されたランダム化臨床試験では、イベルメクチンがCOVID-19の予後改善に関連するという証拠は見つかっていません[1-3]。
最近では、英国で数年間実施されているPRINCIPLE試験で、イベルメクチンがCOVID-19からの回復とCOVID-19に関連した入院または死亡に及ぼす影響に関する結果が発表されています[4]。
著者らは次のように報告しています::
COVID-19に対するイベルメクチンは、回復、入院、長期転帰において臨床的に意味のある改善をもたらす可能性は低いです。
SARS-Cov-2感染に対するイベルメクチンの更なる臨床試験は、ワクチン接種を受けた地域住民を対象としているため必要ないと思われます。
結論
米国FDAは、COVID-19のためにイベルメクチンを服用しないよう警告する勧告に関連した訴訟で和解することに合意しました。
和解の一環として、米国FDAは勧告と関連するSNSへの投稿を削除することに同意しました。
しかしながら、米国FDAは勧告の改訂版を公表し、改訂版についてSNSに投稿する権利を保持しています。
米国FDAがイベルメクチンに関する勧告で法律を破ったと裁判所が判断したとか、FDAが敗訴したという主張は不正確であり、この訴訟の結果を誤って伝えています。
更に、この結果はイベルメクチンがCOVID-19に有効かどうかとは無関係です。
複数の臨床試験で、イベルメクチンによるCOVID-19の治療から意味のある効果は検出されていません。
引用文献
1 – Lim et al. (2022) Efficacy of Ivermectin Treatment on Disease Progression Among Adults With Mild to Moderate COVID-19 and Comorbidities: The I-TECH Randomized Clinical Trial. JAMA Internal Medicine.
2 – Reis et al. (2022) Effect of Early Treatment with Ivermectin among Patients with Covid-19. New England Journal of Medicine.
3 – Naggie et al. (2022) Effect of Ivermectin vs Placebo on Time to Sustained Recovery in Outpatients With Mild to Moderate COVID-19: A Randomized Clinical Trial. JAMA.
4 – Hayward et al. (2024) Ivermectin for COVID-19 in adults in the community (PRINCIPLE): an open, randomised, controlled, adaptive platform trial of short- and longer-term outcomes. Journal of Infection.
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