ソーシャルメディア上の主張に反して、イベルメクチンはCOVID-19患者に効果がないことが臨床試験で示されました。

SciCheck ダイジェスト

無作為化対照試験により、イベルメクチンがCOVID-19患者に有益でないことが繰り返し判明しています。米国国立衛生研究所はCOVID-19に使用しないよう勧告しています。イベルメクチン愛好家達は、それに反することを虚偽に主張し続けています。

記事全文

複数の大規模 無作為化 対照 試験の最新の結果は、コロナウイルス(SARS-CoV-2)によって引き起こされる病気であるCOVID-19の治療に、抗寄生虫薬のイベルメクチンを使用しても効果がないことを示しています。この結果は、安価で入手しやすいこの薬がCOVID-19の治療に有効でないことを示す既存のエビデンスと一致しています。

しかしながら、最近発表されたブラジルでの研究では、イベルメクチンによってCOVID-19の入院が100%減少し、COVID-19の死亡率が92%減少したと主張しており、イベルメクチンを奇跡の薬として宣伝する人々に新しい翼を与えるものでした。この調査研究は方法論的な欠陥があり、イベルメクチン 
 活動家 によって執筆 されたものです。そして、その結果は、COVID-19にこの薬を使用することの利点を特定しなかったより強力な研究と完全に矛盾しています。

「今や何千人もの参加者を対象とした、適切に実施された複数の大規模二重盲検無作為化臨床試験から、イベルメクチンは、COVID-19の早期外来治療に対して、いかなる意味の臨床利益ももたらさないことが示されています」ミネソタ大学医学部の教授で、米国における2つの大規模試験の顧問であるDavid Boulware博士は、電子メールで我々に語っています。

「特に、米国では2つの大規模な多施設無作為化臨床試験(Covid-Out; ACTIV-6)が終了しています。この2つの試験はいずれも、イベルメクチンの統計的に有意な効果を検出することが出来ませんでした」と、Boulware氏は付け加えました。

加えて、この欠陥研究は、国立衛生研究所のCOVID-19治療ガイドラインのウェブサイトに、イベルメクチンが推奨治療法として「今」追加されたという誤った噂と絡み合ってしまいました。しかし、それは正確ではありません。この薬は、しばらく前からNIHの抗ウイルス治療のページ(こちらは2021年6月12日のアーカイブキャプチャ)に、「COVID-19を治療するために評価されている薬」として掲載されていたのです。しかしながら、NIHは臨床試験以外でのCOVID-19の治療にイベルメクチンを使用しないよう推奨しています。

「昨日は国立衛生研究所がイベルメクチンをCOVID-19治療のリストに追加した」と元格闘家のJake ShieldsがTwitterに書き込んでいます。「陰謀論者は正しく、『専門家』はまたもや間違っていたようだ」と、後に問題の研究に言及しました。彼のツイートは3日間で42,000以上の「いいね!」と13,000以上のリツイートを獲得しました。

9月3日、保守系サイトThe Blazeは「イベルメクチンがCOVIDの死亡リスクを92%低減、専門家による研究結果」と題する記事を掲載し、1,000以上のシェアを獲得しました。同日、テネシー州の元共和党下院議員候補であるRobby Starbuck氏は、自身の ソーシャル メディア 上の投稿で、この研究とNIHのウェブサイトにイベルメクチンが追加されたとされることの両方に言及しました。

「今こそ、イベルメクチンを使用した人、或いは使用する自由を主張した人、医師の処方を拒否した薬剤師、COVIDの治療で受けた限りない憎悪に対して行なわれた大量検閲キャンペーンについて考える良い機会だ。それに対する攻撃は、ビッグファーマと政治家の懐を肥やすためのものだった」と彼はFacebookの投稿で書いています。彼のインスタグラムに投稿されたキャプチャーは、4日間で26,000以上の「いいね!」を獲得しました。

お伝えしたように、NIHのウェブサイトには、治療薬としてイベルメクチンを推奨するような変更は、最近ありません。イベルメクチンに関するページには、同機関のガイドラインがCOVID-19の治療に同剤を使用しないよう推奨していることが明記されており、最終更新日は4月29日となっています。

この抗寄生虫薬は、COVID-19の予防や治療を目的として、食品医薬品局から承認・認可されたものではありません。イベルメクチンは、腸管ストロンギロイド症やオンコセルカ症、アタマジラミ、皮膚疾患といった寄生虫によって引き起こされる一部の症状の治療にのみ、ヒトでの使用が承認されています。FDAは、本剤の大量投与やイベルメクチンを動物に使用することは危険であると警告しています。

イベルメクチンの錠剤です。
この抗寄生虫薬は、COVID-19の治療薬としてFDAの承認・認可を受けていません。
写真提供:Getty Images経由のCallista Images

大規模臨床試験の最新の結果から有益性なしと判明

世界中で80以上の研究が、COVID-19の治療または予防のためにイベルメクチンの使用を検討してきました。しかしながら、我々が何度も 報告しているように、無作為化対照試験でイベルメクチンの臨床的有用性を示す証拠はありませんでした。

ここで、我々が追っている大規模臨床試験の最新の結果をいくつか紹介しましょう。

5月、ブラジルで行なわれたTogether試験の研究者達は、中等量のイベルメクチンを毎日3日間投与しても、「COVID-19の早期診断を受けた外来患者において、COVID-19の進行による医療入院や救急部観察の長期化の発生率は低下しなかった」と結論付けました。この試験は、SARS-CoV-2感染患者計3,515人を対象に、679人がイベルメクチン、679人がプラセボ、2,157人が別の介入を受けたものです。

6月には、NIHの資金提供によるACTIV-6試験で、イベルメクチンを1日中3日間投与した結果、「米国におけるCOVID-19の外来患者において、デルタ変異期およびオミトロン変異期の症状の短縮は1日未満で、入院や死亡の発生率は低下しなかった」と報告されています。この試験のイベルメクチン群には、SARS-CoV-2感染者1,591人が参加し、イベルメクチン群に817人、プラセボ群に774人が割り付けられました。

最後に、8月に、SARS-CoV-2感染患者1,323人を対象にイベルメクチン、メトホルミン、フルボキサミンのCOVID-19への使用を検討したミネソタ大学Covid-Out試験の研究者は、3剤のいずれも「Covid-19に伴う低酸素症発生、救急部訪問、入院、死亡は回避されなかった」ことを報じました

「我々が使用した用量、つまり、中央値で一日当たり体重1キロにつき430マイクログラム、3日間投与では、この集団-そして我々の集団は、BMIが25を超える30歳以上の成人-において、重度のCOVID-19を減らす効果はありませんでした」と、ミネソタ大学医学部の准教授、Caroline T. Bramante博士は、イベルメクチンがCOVID-19の重症度を減らす効果があるかという質問に対する返答動画で述べました。

この試験に助言を提供した Boulware 氏は、イベルメクチンを服用した被験者とプラセボを服用した被験者の間で症状の持続期間に差がないこと、数値的にはイベルメクチン群の患者の方がプラセボ群よりも ER への訪問や入院が多かったことを研究者が発見したと話しています。

問題となった研究

COVID-19に対するイベルメクチンに関する主張を復活させた研究は、ブラジル南東部の都市イタジャイで、2020年7月から12月にかけて、COVID-19の予防のために住民にイベルメクチンを提供する市中プログラムのデータを用いたものです。

3月には、同じチームによる同じデータセットを用いた以前の観察研究に、複数の方法論的欠陥があったことを説明しました。両論文は、研究者が従来の査読付き雑誌よりも早く研究を発表出来るオープンアクセス型のオンライン医学雑誌であるCureus(=確認した時は503エラーでした)に掲載されました。最新の論文の査読には5日間(=確認した時は503エラーでした)を要しました。他の学術誌では、査読プロセスは通常1カ月以上かかります

研究チームは複数の利益相反を報告しました:著者のうち2名はイベルメクチン製造会社と金銭的なつながりがあり、4名はCOVID-19の治療法としてイベルメクチンを推進する団体に勤めています。

著者のうち2名はイベルメクチン製造会社と金銭的なつながりがあり、4名はCOVID-19の治療法としてイベルメクチンを推進する団体に勤めています。

1月に発表された最初の研究(=確認した時は503エラーでした)と8月に発表された2番目の研究は、どちらも無作為プラセボ対照臨床試験にはなっていませんでした。その代わり、研究者らは、イベルメクチンが提供された診療所や保健所が収集したデータを振り返りました。この研究の方法によりますと、COVID-19の症状がない人は、低用量(先に述べた臨床試験で投与された量の約半分)のイベルメクチンを150日間にわたって15日おきに連続2日間服用するよう処方してもらうことを選択することが出来ました。その後、COVID-19を受けた人達を医学的に追跡調査し、入院や死亡のデータを登録しました。本研究では、非使用者(イベルメクチンを使用しない住民)、不定期使用者(10錠までの服用者)、常用者(30錠以上の服用者)にグループ分けし、その転帰を比較しました。

「イベルメクチンを定期的に使用することで、非使用者と比較して、COVID-19による入院が100%、死亡率が92%、COVID-19による死亡リスクが86%減少しました」と、この論文は結論付けています。「COVID-19関連の転帰からの保護は、イベルメクチン使用の全てのレベルにおいて観察され、50歳以上の集団と併存疾患を持つ集団において、死亡リスクの顕著な減少を示しました」

しかしながら、この研究は観察研究であり、せいぜいイベルメクチンの定期的使用と予後の改善との関連を見出したというだけで、入院や死亡を減少させたとは言えないと、専門家は多くの問題点を指摘しています。

オーストラリアのウーロンゴン大学の疫学者Gideon Meyerowitz-Katz氏は、「主な欠点は、日常的に収集された少量の臨床データをいささか役に立たない方法で用いた非管理疫学試験であるということです」とメールで我々に語ってくれました。「この種の研究では、他の人も言及していますが、残留交絡、不死時間バイアス、生存バイアスなど、関係が見られるかもしれない別の説明を探すのに多大な時間を費やさなければなりませんが、その代わりに、この著者は単に偏った分析を実行して終わりにしました」 (残留交絡不死時間バイアス生存バイアスにつきましては各リンクをクリックして下さい)。

例えば、この研究では、性別、年齢、健康状態といった異なるグループの結果を説明するいくつかの要因をコントロールしようとしましたが、収入等の感染リスクに関連する他の要因については対照していませんでした。これらの要因は結果に影響を及ぼした可能性があります。

観察研究では、グループ間の差異をコントロールできないことが常に問題となります──そのため、最初から治療グループと対照グループに個人を無作為に割り当てる無作為化比較試験が、より信頼性が高く、エビデンスレベルも高いと考えられているのです。

最も重大なことは、シンガポール国立大学の生物学教授であるGreg Tucker-Kellogg氏とオーストラリアの医学研究者であるKyle Sheldrick氏が指摘しているように、この研究は生存者バイアスに苦しんでいるということでしょう。何故なら、一度COVID-19に感染した参加者はイベルメクチンを使用しないようアドバイスされているからです。

この研究は、イベルメクチンを30錠以上服用した「常用者」を対象にしているため、この点は重要です。つまり、この研究でイベルメクチンを服用した人のうち、病気になった人の大半は、「常用者」と判断されるほどの錠剤を飲んでいないはずなので、分析対象から外れたことになると、Tucker-Kellogg氏は動画で解説しています。一方、イベルメクチンを服用しないグループでは、研究の早い段階で病気になった人は、そのグループから外されることはありませんでした。

「定義上、『常用者』とは殆どの場合、感染しなかった人のことです。だってそ単にそのように研究がデザインされているのですから」とMeyerowitz-Katz氏は述べました。

または、Tucker-Kellogg氏が述べたように、「これはシステムをゲーム化する方法です。これは基本的に、イベルメクチンの厳格な常用者が、病気や死亡の割合が極めて低くなるように、結果をゲーム化しているのです。何故なら、病気になった人の殆どは、そのグループにカウントされていないためです」

この研究のコメントで、著者の一人であるCadegianiは、これらの問題を否定しています。

しかし、Meyerowitz-Katz氏は、たとえこの論文に方法論の問題がなかったとしても、イベルメクチンが効かないというより質の高い証拠がある現時点では、やはり有用ではないだろう、と述べています。

「問題点や誤りを挙げればきりがないのですが、それほど意味があるわけではありません。イベルメクチンに関して言えば、《タイトルに誤りがある》ことで、お粗末な研究が、エビデンスに書かれていることのダイヤルを動かすことは全くないだろう」とTwitterで述べています。「この研究結果は、イベルメクチンがCOVID-19の治療に臨床的に意味のある利益をもたらす可能性が低く、予防薬としての使用にはあまり根拠がないことを示しています。」

引用文献

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Jaramillo, Catalina. “Ongoing Clinical Trials Will Decide Whether (or Not) Ivermectin Is Safe, Effective for COVID-19.” FactCheck.org. Updated 29 Oct 2021.

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Bramante, Carolyn T., et al. “Randomized Trial of Metformin, Ivermectin, and Fluvoxamine for Covid-19.” The New England Journal of Medicine. 18 Aug 2022.

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Kerr, Lucy, et al. “Ivermectin Prophylaxis Used for COVID-19: A Citywide, Prospective, Observational Study of 223,128 Subjects Using Propensity Score Matching.” Cureus. 15 Jan 2022.

Kerr, Lucy, et al. “Regular Use of Ivermectin as Prophylaxis for COVID-19 Led Up to a 92% Reduction in COVID-19 Mortality Rate in a Dose-Response Manner: Results of a Prospective Observational Study of a Strictly Controlled Population of 88,012 Subjects.” Cureus. 15 Jan 2022.

Meyerowitz-Katz, Gideon. Epidemiologist from the University of Wollongong in Australia. Email sent to FactCheck.com. 12 Sep 2022.

Meyerowitz-Katz, Gideon. “15/n I could go on with issues and errors, but there’s not that much point. When it comes to ivermectin, a poorly-conducted study with errors *in the title* is not going to move the dial on what the evidence says at all.” Twitter thread. 15 Dec 2021.

Tucker-Kellogg, Greg. “The Cureus case of Ivermectin for Covid in Brazil, Part 2.” YouTube. 4 Apr 2022.



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