仏教説話風物語「蓮の花」

仏は雲の上から全てを見ていた。
何も干渉はせず、ただ優しく見守っていた。
愚行でさえ見守り、何もかもを包んでいた。
新たに庭の池に植えられたのは、蓮の花。
人々の命が実を作る、蓮の花。
善行で美味に、愚行で粗悪になる、蓮の花。
仏の遣は一つ目を食した。
彼は顔をしかめ、「げ」とだけ言う。
次に「とても食べられるものではない。」
と言おうとすると、仏はそれを言い始める前に、すでに口へ放り込んでいた。
彼はさらに顔が青くなり、また「げ」とだけ言う。
仏は言った、
「なぜこれが不味いなどと言えるのか。」
と。
彼は畏れ多くも仏に問うた、
「なぜ私とあなた様で味に差があるのでしょうか。」と。
答えて、
「それが、蓮の花だと思うか。」
更に答えて、
「なるほど、それならば説明がつきます。」
と。
しかしながら、仏は彼が自分への美辞を述べる前に、それを遮るように齧り、
「ふむ、それが答えならば、これはやはり不味くなるべきであるのに。」
と言った。
彼はやや不機嫌なのをなるべく声色に出さないよう注意しながら問い直した、
「答えはなんでしょう。私にはお手上げでございます。」
答えて、
「ここの別荘は好きだ。なにしろ、大変栄えた街の上に位置しているから。この蓮は人の行いを記録し、実をつける。だから、これは人をそのまま写すのだと思われるだろうが、実は違う。これは、確かに人の行いを写すが、蓮は心を持たない。蓮が味を決めているのではないのだ。」
と。
彼はしばらくの時を思考に費やし、ようやく自分の愚かさを知った。
そして言った、
「少し、留守にします。代わりは最近瓜当番をさぼっている彼に任せます。」
答えて、
「よろしい、いつかまた、これで茶をやろう」と。

全てを世界に求めていては、仏になるなど言語道断だ。世界は普遍を与える。それを受け止める側の心は、世界と関わる限りそれに干渉するだろう。

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