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コント『試着の旅』


客 「へえーここが表参道かー。今日は勇気を出して路面店で試着するって決めたんだ!おっ、このお店、なんだかとってもおしゃれだなー、入ってみよ!」

ウィーン

客 「こんにちはー!」

店員「らっしゃっせーーーっ!!」

客 「雰囲気に似合わず家系ラーメンみたいな挨拶されちゃった」

店員「へいらっしゃい! お客さん、何から握りましょうか!」

客 「挨拶どころか何もかもが違う! もしかしてここ寿司屋さんだった? 店名めちゃくちゃオシャレな筆記体だけど」

店員「ご安心くださいお客様、当店は寿司屋でなく、『歴史』をテーマにしたセレクトショップでございます」

客 「は、はあ……」

店員「イタリアの老舗ブランドを中心に、カジュアルなものからドレッシーなものまで、幅広く様々なアイテムを取り揃えております」

客 「あ、ちゃんとファッション系のお店なんですね」

店員「勿論でございます。特に今日はイキのいいバッグが入ってるよ!」

客 「やっぱり寿司屋じゃん!!手つきがどう見ても寿司握るやつ!! イキのいいバッグってどういうこと?」

店員「はいよっ! バッグの握り一丁〜!」

客 「うわー!どうしよう注文しちゃった! イキのいいバッグの謎も解けてないのに、バッグの握りって新たな謎まで生まれるし、これから私どうなっちゃうの〜〜!?」


ギュッ


店員「サイズ感はいかがですか?」

客 「え……あ……はい、いい感じです……」

店員「こちらのバッグ、重厚感があるのに、軽いですよねー。こうして手に持っていただく他にも、ベルトをつけて斜めがけにしても可愛いんですよ〜」

客 「な、なるほど、バッグの取っ手を握って、試着するから、バッグの握り……。もしかして、このお店、お寿司屋さんがコンセプトなのかな?」

店員「いえ、私がなんとなくやってるだけです」

客 「なんとなくなんだ!」

店員「店長たちには内緒だよ⭐︎」

客「可愛く言ってもダメだと思いますけど!?」

店員「ヘイッお客さん、次なに握りましょうか!!」

客 「ダメだ忠告を聞き入れてくれない」

店員「握りのほかに、巻物なんかもありますが」

客 「巻きもの? スカーフとかのことかな? バンドゥとかツイリーとかバッグに巻きつけるのもあるし……」

店員「バンドゥ巻きをご注文ですか?」

客 「発音がかんぴょう巻き!!」

店員「申し訳ございません。うちはバンドゥ巻きは取り扱ってないんです。どちらかというと太巻き専門でして」

客 「謎が深まるなー、何を巻くんだろう」

店員「では、巻物をご注文ですね!? では、カッパ巻き一丁〜!」

客 「普通に寿司屋メニューきちゃった! キュウリを具にして海苔で巻いた酢飯が出てきたらどうしよう〜〜」


ふわ……


店員「こちら、新作のkappaの新作のブルゾンです。お客様によくお似合いですよ」

客 「ブランド名かよ! 確かにkappaはイタリアの歴史あるブランドだけども!!」

店員「当店は幅広い品揃えに違わず、スポーツブランドも取り揃えておりますよ。こちらのブルゾン、スポーティなシルエットながら華やかなデザインで、とってもお似合いです」

客 「わあ……。サイズもぴったりだし、まるで体に寄り添ってくれるみたいにしっくりくる……」

店員「お客様とこのコート、まるで海苔と酢飯みたいです!!」

客 「その例はどうかと思うけど、このコートは本当に素敵だし、私にピッタリ……。これまで、こういうスポーティなブランド、着たことなかったな……。服の試着はなんだか身構えちゃって苦手だったけど、身体にふわっと巻くって考えると気軽にできるかも。着るっていうのも、広義では巻くってことだし……」

店員「試着も手巻き寿司も似たようなものですからね」

客 「? 似てるかな? でもそんな自信満々に言われると、なんか似てるような気もしてきた……。ドキドキして、ワクワクして、色々試せて、楽しいし……」

店員「その意気ですよお客様!」

客 「そっか、試着は、お寿司なんだ……! 握り寿司に、巻き寿司に、あと、ちらし寿司かな?  散らすものいうと、香水とかかな?
すみません、香水のちらしってありますか!!」

店員「恐れ入りますお客様、香水はつけるものなので、香水のちらしと言われましても、少々意味がわかりかねます」

客 「ここで裏切るんかい!!! 散々乗せといてわかりかねるんかい!!」

店員「あ! ですが、散らすものでなく、つーけーるーもーのーでしたら、お客様にぴったりの香水がございますよ、少々お待ちくださいませ」

客 「「つーけーるーもーのー」って小学生みたいに強調して言ってきた! ああもう、冷静になると『試着はお寿司』もかなり意味不明だし、時間差で恥ずかしくなっちゃったな!!」

店員「お待たせしましたお客様、こちら当店限定のオードパルファムでございます」

客 「醤油じゃん! 見た目が完全に醤油じゃん!! 寿司につける醤油じゃんこれ!」

店員「確かに見た目は黒いですが、お洋服にシミになったりはしませんのでご安心ください」

客 「ええ……ほんとに香水なんですかこれ……。あのう、こちら、試してみてもいいですか?」

店員「はい是非! ああ、お客様、オードパルファムは濃度が高く、コクがある味わいなのでつける際は少量で大丈夫ですよ」

客 「今、コクのある味わいって言いました?」

店員「お皿……じゃなくて、手首をお出しいただいて」

客 「醤油の気配がちょくちょくして心配になるんですけど。わ、でも、これ、すっっごくいい香り……」

店員「爽やかな磯の香りですよね」

客 「マリンノートを磯の香りって言わないでくれます!? わぁぁ、でもほんといい香り……もう一目惚れしちゃった……」

店員「こちらでしたら、小さいボトルの取り扱いがございますが、いかがですか」

客 「ううん、手が出ない価格じゃないし、この爽やかな感じ、コンセプト的にも絶対まといたい! これ、買います!!」

店員「ありがとうございます! 準備いたしますので、こちらにおかけになって少々お待ちください」

客 「はーーーー……初めての香水、勢いで買っちゃった……。でも、これまで全然勇気が出なくて、入店してすぐ逃げ帰ってばかりだったから、試着もできてよかったなあ……。香水だって即決ではあったけど、しっかり試したし。変なお店だったけど、素敵な買い物ができてよかった。この満足感なら、『試着はお寿司』と言ってもいいかもしれないなあ……」

ウィーン

客 「あ、別のお客さんがきたみたい。いいお店だけど、あの変な接客されたら驚いちゃうよね、大丈夫かな……?」

店員「いらっしゃいませお客様、本日は何をお探しですか?」

客 「通常運転に戻るんかい!!!」

店員「本日はイキのいいバッグが入荷しておりまして、おすすめですよ。こちらをお握りいたしましょうか」

客 「異常と通常運転のハイブリッド!! でも依然異常さは薄れてない!!」

店員「……あ、はい、……はい、申し訳ございません…はい…」

客 「わ、怒られてる……」

店員「すみません、先日回らない寿司を食べた時のテンションが下がらなくて、つい、はい、はい」

客 「回らない寿司のせいだったんだあの接客……」

店員 「はい、大変申し訳ございません、店長」

客 「店長がご来店だった!!」


どうも、ありがとうございました。


『自問自答ムンプラ』の、ショートコント「試着」が好きすぎるあまりやらかしました。申し訳ございません。


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