重力の軽い星で
重力の軽い星で
俺の部屋は、七階だ。ベランダにエアタクシーを呼んだ。
オヤ、レトロだ確か二〇世紀のイエローキャブみたいだ。
ここは二二世紀、俺はサラリーマン通勤しなければならない
職種だ。
ベランダから腕を伸ばしタクシーのドアノブを引いた
イエローキャブはこうするんだったな映画で観た事があるぜ
面倒だな。
オォット、ドアがベランダに擦れる運ちゃんすこし離してく
れ。オイ、引っ掛かった身体が引っ張られる。身体が宙に浮
いた。落ちる落ちる。地面まで落ちてしまった。当然、怪我
はして無い。ここは、地球の住民が言う月だ。
俺たちの新天地だ。五十年前、巨大彗星がここに衝突したの
だ。衝突の衝撃で彗星の氷成分が溶け水面に覆われた。
早速テラホーミング事業が始まった。
シアノバクテリアを遺伝子操作で適応させたバクテリアで
酸素を作成した。
ほぼ水蒸気の大気だったが、酸素に変換する事で安定した
大気圧が生まれた。
月の長い極寒の夜で水蒸気が雪に変わるのだ。
それを改良して地球換算十気圧の大気圧にした。
これぐらい濃い大気で無いと弱い月の重力では大気を星に
繋ぎ止められ無い。ここでは煙草は厳禁だ。尤も俺は吸わ
ない。旅行者がスペースポートで煙草を吸おうとして大火傷
した映像を見た事がある。奴のライターとか言う点火道具は
爆発的に引火し煙草と言う紙で巻かれたそれはアッと言う間
に灰に成った。
奴の髪の毛は文字通り爆発した。
自動消火装置が奴に溺れるかと思う量の水を浴びせかけた
御陰で一命を取り留めた。
多分、何が起こったか理解出来無いでいるだろう。
この星は火気厳禁なのだ。彼は不注意だが、重罪だ。
既に非道い目に遭っているが月から永久追放だ。
俺は、地面の上までタクシーを降ろさせた。良くある事
だ。
でも少し不快だ。
タクシーは警察署に着いた。俺は、犯罪者では無い、
刑事だ。サラリーマンの中で出勤が必要な数少ない職種だ。
放火事件の捜査だ。ここでは最重要犯罪だ。
火を付けると言う事は地球での爆弾テロに相当する。
木星でヘリウムを採取してここの大気の酸素割合を下げる
計画があるそうだが、俺は一寸微妙だな。
ドナルドダックみたいな声で喋るのは嫌だ。
ヘリウムは気圧が高いから窒素では無くそれにするそうだ。
霧状水滴放出バズーカと水タンク、フライング・ファン
飛行用大型扇子と装備を受け取ると現場へエアバイクで出掛
けた覆面白バイだ赤色灯は格納して居る。現場に急いだ。
火の手が上がっている爆発が続いている。
俺は消防士では無い刑事だ幸い自動消火装置も起動しだし
た。怪しいエアカーとすれ違った刑事の勘だ追いかけるぞ。
エアカーを乗り捨て狭い路地に逃げた。
装備を背負って路地へ走り込んだ。
ジャンプして追い掛けられ無い。狭い路地だ。
それにこの路地の先は、大クレータの端だ容疑者は袋の鼠と
言う訳だ。奴が崖からクレータに飛び込んだ。
幾ら月の重力でもヤバイぞ。俺は、バズーカを捨て飛び込ん
だ。奴より早く落下するのに成功した。奴の確保に空中で
成功し、大型扇子を翼のように開き、落下速度を利用して
グライダー滑空から上昇気流を掴んで上昇に成功した。
エアパトカーと合流出来た。奴を引き渡すとさっきの崖の
上まで移動しバズーカを回収し、エアバイクで署まで帰還
した。取り調べは他の刑事が担当していた。奴が本星だっ
た。ただの愉快犯だ。恐らく月の居住権を剥奪され地球で
懲役を送る事になるだろう。勿論、月には一切、訪れる
事は出来無い。
文末
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