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夢現ReMaster 感想

言語化によるアウトプットよりゲームのプレイ(インプット)に時間を割きたい気分なので、今回は手短に。前書きもカットで。


〇ゲーム制作モノとして

本作をゲーム制作物として見るならば、文句なく面白いと言っていいだろう(少なくとも、ゲーム制作×百合という似たようなプロットをもつNEWGAMEより出来がいいことは筆者が保証する)。ゲーム制作における裏話や、ゲーム業界特有のあるある話が随所に盛り込まれており、それをギャルゲーらしいライトな筆致で上手くシナリオに混ぜ込んである。なので、百合ラブコメ的要素を楽しみつつも、普段はプレイヤーとしてしか携わることのないゲームというものに少し詳しくなれる。そういった意味で本作は、とっつきやすいライトな楽しさ(funny)と、興味関心的な意味での面白さ(interesthing)を上手く調和させた作品だと言えるだろう。

こういった調和の巧さは、工画堂スタジオの過去作である「白衣性恋愛症候群」にも見られる。公画堂スタジオというブランドそのものが持つカラーと言ってもいいかもしれない。

お家芸であるところのバッドエンドは本作でも健在。いつも展開が唐突なのはご愛嬌。本作のバッドエンドには主人公あいが持つ隠された母性のようなものが垣間見えるシーンが多く、個人の趣味嗜好の話にはなるが、かなり”アリ”だった。可愛いよね、あいぽん。個人的には、バナナルートバッドでのくまのヌイグルミのくだりがお気に入り。

さて、面白いことに本作も1つのゲームである以上、シナリオの随所に織り込まれているゲーム制作に関するちょっとしたトピックスやゲーム業界の四方山話は、本作にもまた当てはまるのである。例えば、サブキャラクターの立ち絵の有無を妥協できないこころに対して、さきさんが「立ち絵は作らずに、全身を描いたCG一枚で済ませる」といった提案するシーンがある。結局このシーンではこころはその提案を受け入れないのだが、この手法は、(作中作である「ニエと魔女と世界の焉わり」ではなく)「夢現ReMaster 」の別のシーンで実際に使われているのである。具体的にばななルートで登場した義母がそれにあたる。義母のビジュアルはCG一枚のみで表現されており、立ち絵は存在しない。

このように、作中でのゲーム制作に対する提言はシナリオを構成する一部であると同時に、プレイヤーに対するメタ的な発言としてもまた機能する。つまり、これらの提言は全てブーメランにもなっているのだ。本作を通じて知ったゲーム制作の知識や、創作物として見たゲームに対する視点は、そのまま本作にも当てはめることができたりする。こういった「ある意味プレイヤー参加型」の構造は、基本受動的な媒体であるノベルゲームにおいて中々に新鮮ではあった(勿論それを意図して制作したという訳ではないのだろうが)。


〇個別ルート

各個別ルートについて、個人的にはさきさんのルートが断トツで出来がいいように感じた。もはやこのルートの一本道でもよかったのではないかと思ってしまう程には抜けていた。ここまでの書き方でなんとなく想像がついていることと思うが、筆者は本作について、ラブコメ部分というよりはどちらかというとゲーム制作モノとしての側面を高く評価している。その為、全ルート中最もゲーム制作に正面から向き合っているこのルートを気に入るのは、当然と言えばそうではあるが。

このルートは全体的に完成度が高かったように思うが、その中でもとりわけ印象に残っているのが、シナリオの合間合間に入り込む、入稿までの制限時間を告げる謎のナレーションの正体だ。そして、その正体がプレイヤーに明かされる場面では、素晴らしい構図のCGでもって、ライターと経営者の本来的な力関係のようなものがこれでもかという程まざまざと表現される。非常に印象的な名シーンだったように思う。

バナナのルートについても少し言及が必要かもしれない。といってもシナリオに関してではなく、地の文の独特な文体についてだ。本作中でこのルートだけ文体が異質(表現が固くやや文学的?)で、身も蓋もなくぶっちゃけてしまえば読みにくい。特に、代名詞が何を指しているのかが異常にわかりずらく、一度で文意を理解できずに読み返す頻度が他のルートに比べて圧倒的に多かった。

また、このルートは主にバナナ視点で進むのだが、バナナ視点で描かれる主人公あいの性格や人としての在り方(「あい像」と言い換えいいかもしれない)は、他のルートで描かれるそれとはかなり隔たりがあるように感じられた。例えば、このルートでバナナはあいのことを「明るくてひたむきな努力家」と評しているが、他のルートを見る限りにおいて、もう少し後ろ向きで内向的な人柄という印象を筆者は受けていた。多くのプレイヤーもそうだったのではないだろうか。ちなみに公式サイトにおけるあいのキャラクター紹介欄にも「根暗、ネガティブっぽい気質だが…」との記載がある。

要するに何が言いたいのかと言うと、バナナのルートだけ文体やキャラクターの描き方が異質で、ゲーム全体から見てやや浮いているように見えるという事だ。そして、このような不統一の最たる要因は、少なくとも筆者には本作が複数ライターであることに起因しているように見えてならない。

と同時に、さきルートにおいて「さきがシナリオを書けず、マスターアップに間に合わせるための苦肉の策として、こころが外注シナリオを発注する(そしてそれは当然のように面白くない)」みたいなシーンを見せられてしまった以上、これを安易に批判するのも躊躇われる。複数ライターであることを責めるのは、制作サイドの事情を一切鑑みないプレイヤー側の傲慢でしかないのではないか、とも思うようになったわけだ。先程本作に登場するゲーム制作周りのトピックスはブーメランでもあるというような話をしたが、この件についてはプレイヤーの安直な批判に対し先んじて張った防護壁の役割を見事に果たしている。

マリールートについては取り立てて思うところもなかったので割愛するとして、こころ(ture)ルートについては、魂の入れ替わりというトンデモ設定が全てを滅茶苦茶に破壊しており、正直筆者には読解が困難だったと言わざるを得ない。このルートに入るまでは一貫して現実世界に根差した自然的な世界設定で物語が進んでいた(と少なくとも筆者は思っていた)ので、trueルートで唐突に超自然的要素を持ち出しオカルト方面に舵を切ったのは些か突拍子もない展開のように思われた。

魂の入れ替わりについて、ハウダニットやホワイダニットという重要な問題を一切合切無視したとして、(その仮定自体に大分無理があるのだが)それでもなお論理的に整合性が取れていない部分があるにはある。だが、そもそもこのルートの解釈として、論理的な整合性という視点そのものがナンセンスであり不適切だろうから、これ以上の言及は差し控えようと思う。(どうでもいい瑣末な問題ではあるが、この世界における妊娠やHPIS細胞回りの設定についても、同じく触れるのは野暮というものなのだろう)


〇終わりに

冒頭で「手短に」とか言った気がするがあれは嘘で、気が付いたら2000字強も書いていた。本来1000字にも満たない書き殴りのメモのような記事するつもりだったが、案外筆が乗ってしまい今に至る。本作はそれだけ言及したい部分が多かったという事であり、それはつまり自分にとって濃いプレイ体験になったという事なのかもしれない。本文中でも既に似たようなことを書いたような気がするが、本作をプレイした上での最大の成果は、ゲーム制作の内情を垣間見たことで、制作物としてのゲーム(とりわけノベルゲーム)に対する新たな視点を得られたことにあると思う。

執筆現在12月26日と2023年もいよいよ暮れといった時期ではあるが、可能なら今年中にもう1本ノベルゲームを消化したいと思っている。そして、それをもって「読み納め」としたいという密かな計画があったりする。時間的な問題があり実現できるかは怪しいのだが。やるとしたらプレイする作品は今のところ「死に逝く君、館に芽吹く憎悪」か「FATAL TWELVE」の2択なのだが、折角の年末にディスプレイ越しとは言え血を眺め続けるというのもあれなので、「FATAL TWELVE」の方が無難なのかしら…。どちらにせよぼちぼち始めないと間に合わなそう。



〇【おまけ】ヒロインランキング

毎度恒例になりつつある、僕の独断と偏見による完全主観のヒロインランキング。ルート補正は勿論込み。不等号の数は「壁の厚さ」を表している。


あい>さきさん>>>マリーさん>>こころ>バナナ


カードゲームに例えるなら、さきさんまでがtier1、マリーさんtier2、こころ以下tier3といったところだろうか。


オタクの界隈で時たま物議を醸すショートヘアとロングヘアどっちが好きか論争において、僕は毎回「人による」と答えているのだが、事あいに関してはショート一択だとここに宣言させて頂きつつ、このへんで締めとさせてもらおうと思う。


こころ、もしかしなくてもセンスが無い?

異論は認めています。
















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