トータルおいくら?

夜桜の思い出は帰りに寄ったおでん屋さんの記憶しか無い
姫路城の夜桜ライトアップは大変綺麗だったし、彼女は僕がプレゼントしたマネキンコーデを着てくれていたので、それはとても嬉しかった。流石に全身コーデではなくトップスだけだったけど、少し変わったデザイン(深い緑色で両手を広げたらモモンガみたいになる)の服をわざわざ着てくれていた。

桜を見終わって帰り道、美味しいおでん屋さんが近くにあるので、寄っていきましょうと彼女が言う。
ちょうど駅まで向かう道に、そのおでん屋さんはあった、みるからに老舗、のれんをくぐるとカウンターのみで、中はお客でいっぱいだ、2席空いており、彼女は「今日はすぐに座れた」と女将さんに常連っぽく話しかける。いつもいっぱいで入れないらしい。
彼女は慣れたふうに注文をし、隣の渋いおじさまとも、軽く会話をした。

僕は慣れないカウンター席でモジモジする。明らかに僕だけ場違いで浮いている。
お酒は呑めないし、ズボンの中のお財布はマジックテープ式だ。服装もつりあってない(おばあちゃんが百貨店で選んでクリスマスに送ってくれたセーター。孫用いっちょうらだ)
壁に並べられた木のお品書きには各おでんの名称は書いてあるが、値段が書いてない。
いったいいくらするんだろうとずっとビビっていた。結局僕は何を食べたかも、味も、話の内容も覚えてない。
運命の会計の時、もたもた財布を出していると、今日はお礼がしたかったからと、彼女はスマートに会計を済ませた。

なんだかとても恥ずかしい。
彼女の方がずっと大人だった。それはわかっていたこと。
僕らはつりあってない。
彼女からみたら僕は子供だ、
親元で働く仕事のできないぼっちゃん、まともに相手してもらえるはずがない。そう思えた。

帰りの電車で乗り合わせたカップルたちはみな楽しそうで、お似合いばかりにみえた。

家に着き、今日のお礼メールをする、すぐに返信がある、メールのやりとりは2人だけの時間でとても楽しい、心地よく、安らかな時が流れる。
ついつい、今日は手をつなぎたかったとポロっと書いてしまう。

彼女からはそんな気持ちはなかったと、ワンちゃん友達になれたらと思っていたと返事がくる、そのあと。

「そしたら次は造幣局の桜をみにいきましょう。」と2通目がきた。

次のデートで僕は初めて彼女の手を握る。彼女との距離がグッと近くなり、甘い香りがたまらなかった。

後でわかったが、歳の差は8つ。
でも、もう僕は気にしない。

第1部 完