出会い

僕は
よく笑い、笑顔の可愛い女性が好きだ。

中学生のときに初めて彼女ができたが、
それ以降は女性とのお付き合いなどない。

大学卒業後は就職することもなく、
親の不動産業を手伝っていた。
特になんの出会いもなく5年くらい過ぎたとき、今の妻となる女性とはじめて出会う。
その日は事務所でひとり留守番をしていた。
事務所は駅から離れたところにあり、知った人以外は滅多に来店はない。
店の前に車が止り、誰か入ってくる、やばい!客がきた。カランコロン(喫茶店か!)
背が高くすらっとした、上下黒スーツで、眼鏡はしていない、一重の目に眉尻はキリッと上がり、いかにもお仕事できますって感じのセールスレディが入ってきた。
「○○さんいらっしゃいますか?」と母の名前を呼ぶ。
以前、銀行に勤めていた時にお世話になって、転職したので、改めて挨拶にきたのだという。
今は留守にしてることを伝えると、名刺をおいて、「また来ます」と帰って行った。
名刺には大手外資の保険会社の名が入っていた、勝手な印象だが、銀行、不動産、保険という響きがどれも好きではない。
そう。僕はこの業種が向いていない。できればレーンを流れてくるお餅を黙々と詰める作業なんかをしていたい…
今の仕事には自信をもてていなかったから…
だから、綺麗な人だなぁとは思ったけれど、いかにも仕事ができますという感じの女性は苦手だった。

数日後、今度はブティックを開業しようとしてる知人を連れて、なにかテナントは無いかと相談に来た、管理する物件に、空きテナントがあったので紹介することになり、僕がその物件を案内する、
その日もロングのスカートで黒っぽい服、肌は無駄に露出せず、メイクも最低限、仕事で勝負してますってスタイルだ、知人のおばさまも上品な感じの女性で、もの静かに説明を聞いている、チラッと彼女をみると、私のお客様に適当な説明したら許しませんからねって目でこちらを睨みつけている(ようにみえた)
その日は雨が降っており、肌寒く、
冷たい視線は恐怖すら感じ、内覧を終えた。
話は変わるが、うちの母親は世話付きだ、そして犬好きだ、当時もマルチーズを飼っていて、ブリーダーさんから直接譲ってもらったり、ワンちゃんを探してるお客さんを紹介したり、そんなことをしていた。

いつそんな話になったかは知らないが、彼女の実家の犬が亡くなって、両親にマルチーズをプレゼントしたいから紹介して欲しいという話になっていた。
それでブリーダーのところへ犬を見に行くことになる。
「あんたが運転手してよ」と僕は母に言われ、休み返上で運転をさせられた。
「ブリーダーのところはペットショップと違って想像以上に臭いし、汚いから、綺麗な格好してきたらあかんよ」って母に言われた彼女は、当日、ジャージ姿でやってきた(胸にネームこそ無かったが)中学生時代に着ていた様なジャージだ、
いままで見た姿と違って、とても新鮮だった。また、ワンちゃんと接する顔もとても優しく、彼女の違う一面にドキッとした。
その日はバレンタインデー、僕は何の期待もしてない日、彼女は帰り際に「運転ありがとうございました」とチョコをくれた。男はバレンタインデーのチョコになんて弱いのか。
あれ?僕に気がある?そんなわけないのに、母が冗談ぽく「あんたみたいな子がうちの嫁に来たらいいのになぁ」と余計なことを言う。
「そんな、私なんて」と社交辞令でうまくかわすが、照れた顔がまんざらでもないようにみえた、そしてその照れ笑う姿がとても可愛い。
このギャップに僕はやられた、何を思ったのか、すっかりその気になって、ホワイトデーに、お店のマネキンが着てる服を一式買い、彼女の家に行くのでした。もちろん義理チョコだったというのに……

つづく

次回、イタいホワイトデー