見出し画像

文具売り場の「あいうえお」

先日、大型書店の文具売り場へ行きました。
少しいい筆記具を買ってみようかなと漠然と思い立ったのです。
売り場に着いて1番に気になったのが「芯が折れないシャープペンシル」
張り切って試し書きをしようと思いましたが、芯切れでした。

「書いてみたいから芯をいれて欲しい。」その一言がどうしても言えなかったのでボールペン売り場へ移動するも、どれを買えばいいのかさっぱり分からないくらい種類が多いので、とりあえず一通り試し書きをしてみる事に。

試し書きをする時、私は大体「あいうえお」とか「~~~」など、
特に深く考えずにオーソドックスなものを書きます。
試し書き用に用意された紙にも、大体は私と同じように書いている方がほとんどでしたが、中にはメッセージ性の高いものもありました。

「○○市」などの居住地、「○年○組」などの所属先のほか「中字0.3mm」といったまっすぐなボールペン情報、「書きやす~い」「茶色ここにあったんだ~!」といった今の率直な心情まで、意識してみるとかなり個性豊か。
中には「限界到達!!」といった心の叫び系メッセージもいくつか。

そんな個性豊かな試し書きの中に、一際目を引くものを発見しました。
その文字は、実に堂々と、用紙に大きめに書かれていました。

それは、
 

六角精児

『相棒』でお馴染みの俳優六角精児さん。ご本人も大変に存在感のある役者さんでありますが、多くの試し書きの中においても、その文字はただならぬ存在感を放っていました。

無性に気になったのが、何故に「六角精児」と書いたのか?という事です。
ペンを持ち、紙に書く。その短い時間の中で、一体どんな思考回路で
六角精児」に辿りついたのでしょうか。

その直前にどんな考え事をされていたのか?
ここに来る前に『相棒』を観ていたから、なのか。
もしくは『下町ロケット』を観ていたから、なのか。
それとも『六角精児の呑み鉄本線・日本旅』のファンだから、なのか。
はたまた「六角精児」という文字には実は、書に必要な8つの要素が含まれているというあの「永字八法」が隠されているからなのか。

真相に辿り着く事は一生できませんが、文具売り場の試し書き用紙という場において、これだけのインパクトを残す事に成功したこの方は、恐らく六角精児さんと同じくらいに個性溢れる方なのだろうなと感じました。

試し書きをする時に自分の好きなものを書く。
これは自分の今までの人生には1度もなかった発想でした。
そして何にも考えずに「あいうえお」とか書いている自分が急につまらない人間に思えました。大体にして、普段「あいうえお」と書く機会などほぼないにも関わらず、人は何故「あいうえお」と書いてしまうのでしょうか?
そもそも本気で試す気があるのでしょうか?考えてみれば不思議です。

存在感抜群の4文字の事を考えながらひたすら試し書きをし、
買おうか散々迷ったあげく何も買わずに帰宅しました。
行ってみて分かった事は「ちょっといい文具は想像以上に値段が高い」という事で、完全に怖気付いてしまいました。

次こそは芯が折れないシャープペンに芯を入れてもらい、
芯が折れない喜びを噛み締めながら自分の好きなものや言葉を書き、
思い切って購入してみようと決意を新たにした、ある日の午後。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?