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テプラの奇跡

先日、久しぶりに近所の銭湯へ行きました。
銭湯のロッカーは、カギを閉めたあと手首にカギを付けて入浴する、というシステムのものだったのですが、カギ穴のそばに、あるメッセージがシールで貼られていました。

「カギを持って行かないで下さい」

カギを間違えて持ち帰る人に注意を促すためのものです。
最初は特に気にしてはいなかったのですが、ふと隣のロッカーに視線を移すとそこにはこう書かれていました。

「カギを持って帰らないで下さい。」

「カギを持って行かないで下さい。」と同じ意味合いなのですが、
気になったのは、元々「カギを持って行かないで下さい。」と書かれたシールの、「行か」の部分に更なるシールで上から「帰ら」と貼り付けてある事。同じ意味合いなのに何故わざわざ?

妙に気になりました。

気になって他のロッカーも見ると、「持って行かないで下さい。」
「持って帰らないで下さい。」が混在していました。
どうやら修正テープの貼り付け作業はまだ途中の様子。

一体何が?

湯舟に浸かりながら、「カギを持って行かないで」が意味するものについてしばし考えてみたところ、ある推測にたどり着きました。

もしかして・・・
「カギを持って行かないで下さい。」

「カギを(浴場には)持って行かないで下さい。」

と思ってしまった方がいたのでは?と。

いくらカギ付きロッカーが世に普及したとはいえ、カギを身体に付けて入浴するというシステムをご存知ない方もいるでしょう。
そこにきて「持って行かないで」という切実なメッセージ。
その方はそのメッセージを丁寧に汲み取ったに違いありません。

しかし、閉めたあとにカギを持って行けない、これは困ります。
閉めてもカギは持って行くな。一体どうすれば??
挿したままにして行ってもいいの?
まさかそんなはずは・・・。

困った時にはフロントへ。

「あの・・・閉めたあとカギはどうすれば良いのでしょうか?」
 といったお問い合わせが月に2回ほどのペースで来たのでは。

いずれにせよ、
従業員の皆さんは、何らかの無視できない理由により、
文面の訂正の必要に迫られたものと考えられます。
しかし全てのロッカーには既にシールを貼ってしまった。
最初から作り直すのは相当な手間です。

もし「カギはお持ち帰りにならないでください。」と、
全文訂正すれば、ロッカーの数から考えてもかなりのシールを消費する事にもなります。

加えてシールの作成に使われたのは恐らく「テプラ」。
文章を印字したシールを作成できるハイテクマシン。
テプラに使われるシールはとても高価です。
そう何度も何度も購入できるものではありません。
経理の許可が簡単に降りるとも思えません。

しかしこのままではお客様がカギを「どこへ」持って行ってはいけないのか伝わらない。私達はただ、家に持って行かないで欲しいだけなのに!
一体どうすれば!?どうすればこの思いが伝わるの?!

そんな時に誰かが言ったのでしょう。

「持って 帰ら ないでにすれば2文字だけで直せませんか?」

これは、今世紀最大の閃きといっても過言ではないでしょう。
「持って行かないで」を「持って帰らないで」とたった2文字を変えただけで、見事に「家に持っていっちゃダメ」という確かな意味になったのです。

最小限のテプラシールで、最大限のメッセージ通達に成功した従業員の皆さんに心から拍手を送りたい気持ちになりました。
短いシールを貼り付ける作業も結構大変かと思いますが、
是非とも頑張って頂きたいと思います。

どうしようもなくドラマ性を感じた、そんな2文字の話。

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