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DIR EN GREY 『ARCHE』

Artist DIR EN GREY

Album 『ARCHE』

Tracklist 
Un deux
咀嚼

Phenomenon
Cause of fickleness
濤声
輪郭
Chain repulsion
Midwife
禍夜想
懐春
Behind a vacant image
Sustain the untruth
空谷の跫音
The inferno
Revelation of mankind

and Zero
てふてふ


「ドクン...ドクン...」

???「産め!神の子を!」

「まさかの四つ子!?」

近年のDIR EN GREYを少しだけおさらいすると→2008年に最高傑作となる7thアルバム『UROBOROS』をリリースし、その名盤『UROBOROS』から更に深い闇の底に沈み込んで、鬱屈した重苦しい想いを込めたドス黒い暗黒エネルギーを内に内に溜め込んでいた8thアルバム『DUM SPIRO SPERO』では、まるで踊る一寸法師の如し魑魅魍魎となって、この世を"漆黒の狂気"に染め上げていた。おいら、この『DSS』って本来ならば解散前に出すようなアルバムだと思っていて、と言っても実際にリリースしちゃったからには時すでにお寿司で、だから自分の中で今のDIR EN GREYというのは→実質的に"解散"しているのにも関わらず今なお活動を続けている、言うなれば"亡霊"のような状態、言い換えれば"超えちゃいけないライン"を超えた先にいる存在、それすなわち『人間を超越』したナニカ・・・そんな漠然とした奇妙なイメージを彼らに持ち続けていた。その『DSS』でバンドの実質的なバンドの終焉を迎え、つまり自らの世界を"一巡"させた彼らに降りかかったのが"呪い(ANATHEMA)"で、その『呪縛』を背負い続けたまま、このDIR EN GREY亡霊は一体どこへ向かったのか?無限の暗黒を抜けた先に見たのは『光』だった?それとも・・・


-これは『呪い』を解く物語-

Un deux

「みんなに聴いてほしい」...あのDIR EN GREYがこんな言葉を呟くなんて・・・これまでの彼らのイメージからは想像できないような事件だった。そんな、名盤『UROBOROS』と前作の『DUM SPIRO SPERO』で築き上げてきた、これまでの"DIR EN GREY"というイメージすなわち"偶像"をブチ壊すような、そして本作『ARCHE』を象徴するかのような”Un deux”は、先日のツアー『BY THE GRACE OF GOD』の一発目に披露された曲で、何より驚いたのがこのスタジオ音源を聴いても→「あぁ、そーえばライブでもこんな感じに緩急を効かせた曲調だったなー」みたいな記憶が蘇ったというか、これは"DIR EN GREY"というバンドとライブでの"再現性"は永久に交わることのない関係と言った僕を真っ向から否定する、ちょっと予想外の出来事だった。で、朽ち果てた大聖堂の鐘が鳴り響くイントロから、前作の"DIFFERENT SENSE"から複雑怪奇さを取り払ったような緩急を効かせたスピード感と同じく"LOTUS"をイメージさせる凛とした音響系の美メロやジャジーな塩梅を織り交ぜながら、まるで『進撃の巨人』の主人公エレンが巨人を駆逐する『覚悟』を決めた時のような、あるいはジョジョ一部のジョナサン・ジョースターが最期の波紋を振り絞るかの如く、『灼熱の魂』が込められた力強く刹那的そして前向きな歌詞を高音中心に歌い上げる、「大地を蹴り進め」「わずかな命 この瞬間に散らす」と何かに吹っ切れたように"自由"で真っ直ぐな感情表現を魅せる京の爽やかというよりラフでカジュアルなボーカル・メロディが、ほとばしる"ロックバンド"としてのリズム&ビートを刻みながら驚くほど"シンプル"に、それこそ様式美的でありライブ感のあるアッパーな楽曲で、例の神ライブで感じた"地味"というイメージを覆すような、存外アッサリとスタイリッシュに駆け抜けていた。なんだろう、音自体は今のDIR EN GREYに近いのだけれど、もの凄く不思議でもの凄く奇妙な"新鮮さ"がある。もうなんかこの一曲が全てを表しているというか、この曲が合わなきゃ『ARCHE』は悪い意味で"とんでもないアルバム"に聴こえてしまうだろう。名盤『UROBOROS』の名曲"VINUSHKA"『DSS』"THE BLOSSOMING BEELZEBUB"のような構成美もクソもない、まるで一人の真人間が"漆黒の狂気"すなわち『悪』に染まり、永遠の奈落に堕ちていくような重厚かつ深淵なスケール感とコンセプティヴな精神的世界観は皆無で、あくまでも"シンプルさ"というのを貫き通し、そして何よりも「みんなに聴いてほしい」という明確な"意思"『未来』への"自由"が込められた、言ってしまえばこの曲は赤い公園"NOW ON AIR"、そしてANATHEMA"The Lost Song Part 1"と全く同じベクトルにある、誇り高い"勇気"と気高い"意志"を併せ持つ楽曲なのだ。

・・・そう、"邦楽界のスティーヴン・ウィルソン"こと奇才津野米咲率いる赤い公園も、今年の日本レコード大賞の優秀アルバム賞を獲得した2ndアルバム『猛烈リトミック』"売れたい、売りたい"という明確な"意思"を、それこそ今作のDIR EN GREYと同じように「いろんな人に聴いてほしい、いろんな人に伝えたい」という切実な想いと願いを、そのアルバムのオープニングを飾る"NOW ON AIR"「届け日本中の耳に!」という歌詞を経由して自らの楽曲に落とし込んでいた。しかし、V系サブカルといった"アンダーグラウンド"な特定シーンの中で、「わかる人がわかってくれればいい」を決めゼリフ=言い訳にしてヲタ向けの商売やってた彼(女)らが、ナゼ今になって"メインストリーム"すなわち"大衆性"を意識し始めたのか?その心境の"変化"に僕は大いに興味を惹かれたのだ。 

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