アニメ版シスター・プリンセスとは何だったのか-奥田たみをのシスプリ研究発表-

 皆さんこんにちは。シスプリ歴35日(2020年3月29日現在)の新米お兄ちゃん、奥田たみをです。シスター・プリンセス(シスプリ)20周年ということで、アニメ本編が1期2期ともYouTubeにて期間限定公開されていたのを、35日前から1話/日のペースで見始めたところ、思った以上にハマったので、特に1期についてちょっと個人的に記したくなったのです。どうも1期はファンの間でも賛否両論あって、否定的意見が大多数のようですが、私は肯定派ですので。

 ところでこの記事はその特性上、アニメ1期最終回までのネタバレを多分に含むので、未視聴の方はお戻りになられることをおすすめします。一応、未視聴の方にもわかるように書くことを心がけてはいますから、見る気がなければそのまま読み進めてもいいんですが、私としてはぜひ見てほしいです。

そもそもシスター・プリンセスって何よ

 ことの始まりは1999年、次の千年紀が始まるちょっと前に、電撃G'sマガジンにて「かわいい妹が9人もいたら人生楽しくね?」的な読者参加型プロジェクトが始まりました。後にそれは「兄1人に妹1人x9」から、「兄1人に妹12人」と形を変えゲーム化、後にアニメ化するに至りました。妹が増えてるじゃんって? ゲーム化に合わせて妹が3人増えたんですよ。ゲーム版はこの追加の妹3人(新妹と呼ぶそうで)の歓迎パーティーをするところから始まります。「妹が増える」とか「新妹(しんまい)」とかもうこの時点で何がなんだか。

 当時の人気たるや飛ぶ鳥を落とす勢いという言葉にふさわしいものだったらしく、何万人もの兄や姉を生み出し、多種多様なメディア展開がなされたりもしたそうで。さっきからふわっとした言い方が多いのは実際にその光景を見たわけではないからです。私が本格的にサブカルにハマったのは2006年あたりからなんで。

12人のいわゆる妹

 シスプリの妹たちは誰も彼も個性的で、見た目も性格も兄の呼び方も全員バラバラなんですが、「兄のことが大好き」という点に置いては全員共通しております。まぁ作品のコンセプトだしね。今なら一人くらいツンデレ妹がいるかもしれない。兄の呼び方が全員違うことを利用して、特定の妹のファンは自分のことをその呼ばれ方で名乗ったりすることもあるようで。その妹たちについて調べたことを挙げていくと:

可憐: お兄ちゃん大好き一本で攻める特化型にして、シスプリの顔。揃いも揃って全員が兄のことが大好きなこの世界ではちょっと影が薄くなりがちになりそうなものだけど、立ち回りや兄への思いの強さで押しも押されぬシスプリの顔という立場を保っている。アニメでは他の妹たちよりも比較的年上なので、一家をまとめる立場に立つこともあるが、兄と二人きりになると子供っぽくなることもある。ピアノが得意。アニメ1期における初めての出会いは沈みゆく兄をその細腕で引き上げるというどう考えても平凡ではないもの。外見上の特徴は黒いロングヘアと三編み。兄のことは「お兄ちゃん」と呼ぶし敬語で話す。

: スポーツ大好きな妹。特にスノーボードが大好きらしいがアニメでは1回も出てこない。その代わりほぼ常にインラインスケートで移動する。自転車も得意なようで、アニメ14話では見事なスライドを決める。と言うより球技を除くスポーツ全般が得意らしい。外見上の特徴は小柄で細身(と言っても身長は150cmなので身長148cmの可憐よりも高いのだが)な体格とスパッツ、長めのショートの茶髪。兄のことは「あにぃ」と呼ぶ。「兄ちゃん」じゃ駄目だったんだろうか……

花穂: 兄を応援するためにチアリーディングをやっている妹。他には花を育てるのが好き。しかしドジっ子で泣き虫。事あるごとに「花穂、ドジだけど見捨てないでね」と言ってくるのだが、もしかしたら度重なるドジのせいで捨てられそうになった過去があるのかもしれない。外見上の特徴は明るい茶のセミロングとヘアバンド。兄のことは「お兄ちゃま」と呼ぶ。「お兄ちゃん」なのか「お兄様」なのかどちらかにしてほしいと思わなくもない。

雛子: 妹たちの中で最も小さい(身長132cm)。アニメだと幼稚園児だった。夢の中に出てきたクマを探すために置き手紙を残して島から出ようとするほどアクティブな幼稚園児。まぁ子供なんてそんなもんかもしれない。そうでなくてもアニメでは「年長者のマネをする」「一度伝えたことを再度主張する」「表現が直接的」「舌っ足らずな喋り方」など子供っぽさを遺憾なく発揮していた。外見上の特徴は先述の低身長と高い位置でまとめた短いツインテール。兄のことは「おにいたま」と呼ぶ。あと3年もしたら「お兄様」と呼ぶようになるのかもしれない。ツインテールだし。

咲耶: 妹の枠を積極的に飛び越えようとするアクティブな妹。兄のことが大好きなのは可憐とキャラが被っている気がするが、こちらはより積極的にアプローチを掛けてくる。しかしどうあっても妹は兄と結婚はできないという現実の壁を飛び越えられずに悩む場面も。大人びた見た目や言動とは裏腹に、年相応の少女の脆さというものも併せ持つ二面性が多くのお兄様お姉様のハートをキャッチした。おしゃれが大好きという設定の割には私服のセンスがちょっと独特だったりする。部屋着かと思ったらそのまま買い物に行ったりするしね。しかし本気でおしゃれするとめちゃくちゃキレイになる。外見上の特徴は高身長(159cm)と低い位置でまとめた長いツインテール。髪は茶。兄のことは「お兄様」と呼ぶ。

白雪: 一人称が「」語尾が「ですの」と特徴的な喋り方をする妹。外見も相まって人を選ぶ。料理全般が得意で、その腕は折り紙付き。兄に料理を食べてもらうことを生きがいに頑張る妹。時々非常に独創的な(最大限婉曲的な言い回し)料理が出てくるのが玉に瑕。アニメだと尻を強調した描かれ方をすることが多い。外見上の特徴は後頭部で髪をまとめる大きな黒いリボンとよく見えるおでこ、地面に対して水平か、10度ほど後頭部に向けて上向きの傾斜がつけられた内向きの巻き髪。身長140cmと、姉妹の中で3番目に背が低い。髪の色はアニメだと濃い紫。ゲームだと薄い紫。兄のことは「にいさま」と呼ぶ……「お兄様」系列の呼び方、多くない?

鞠絵: 遠慮しがちな性格の病弱な妹。儚げな雰囲気と、あまり外で活動しないで部屋にいることが多いためか、どうにも影が薄い。体が弱いせいで、一緒にいて倒れたりしたら迷惑がかかるからと、なかなか兄と一緒に行動しようとしない(別に兄のことが嫌いなわけではない)。ゴールデンレトリバーのミカエルがお友達。よく読書をしており、そのためか想像力と感受性が豊か。外見上の特徴は長くて黒い髪を後ろで三編みにまとめたヘアスタイル、メガネ。スカートは長いことが多い。兄のことは「兄上様」と呼ぶ。

千影: 何を考えているのかよくわからない、占いが得意な妹。目に見えない存在と話をしたりできるらしい。家族旅行の際には天測で現在位置を把握するという重大な役割を任されていたので、別に姉妹の輪から外れているというわけでもない。2回目に兄の前に姿を表した時は、何もない机の上に突如強い光とともに現れて、その場にいた一同の度肝を抜いた。前世の記憶から、再び兄と結ばれる日を強く願っており、可憐や咲耶とは違った方向で愛が重い。兄の前世の記憶を蘇らせようとすること幾度、その都度失敗しているがめげない芯が強い子。姉妹の中では、特に雛子と仲がいい。外見上の特徴は紫のロングヘアを後ろでシニヨンにしていることと、高身長低露出度の服装。特に服装についてはこだわりが強いのか、遭難した際もカーテンで即席の服を作った際、一人だけ露出度が低かった。兄のことは「兄くん」と呼ぶ。ゴルゴ13ほどではないが、滅多に喋らない。

鈴凛: 技術の鈴凛、魔術の千影と並び称される(されてない)メカ好きな妹。その知識と技術は幅広く、人型ロボットをつくるわモバイルPCや携帯電話をつくるわOSまで実装するわ潜航艇を組み立てるわ、挙句の果てには等身大の自分の分身を作り上げる(しかも平然と二足歩行する画像認識も問題ない)など世界トップレベルどころか間違いなく世界の最先端。開発にかまけて資金難になることが多く度々兄に「資金援助」と称して金を無心するが、逆に言えば中高生の扱える金額程度でそれだけの実績を残せる、千影とは別の意味で住んでいる世界が違う妹。将来の夢はロボットの分野でアメリカに留学することだが、もうこれ以上学ぶことなんて無いんじゃなかろうか。外見上の特徴は茶色のショートヘア、ロングスカート。服装はチャイナドレスをモチーフにしたものが多い。兄のことは「アニキ」と呼ぶが、頭に空いた穴から弾を出したりするということはないし別にマッチョでもない。「顔のアップだけだと衛と区別がつかない」と言ってはいけないらしい。

四葉: イギリスからやって来た、「チェキ」が口癖の騒がしい子。「チェキ」とは多分「Check it」のことだと思う。「かなりブッ飛んでる性格」とはゲーム版の説明書のキャラクター紹介欄の言。常に兄の行動をチェキしており、ファイルに纏めたりもする。外国からやってきた妹たちの中でも、この子だけアクセントが独特なので声が聞き取りづらい。カゴの中の水飲み鳥のワトソン君がお友達。変装して「怪盗クローバー」を名乗り騒動を引き起こすこともあるが、兄には変装を即座に見破られていた。外見上の特徴はツーサイドアップの茶髪と、肩までのロングヘア。兄のことは「兄チャマ」と呼ぶ。「にいちゃま」じゃなくて「あにちゃま」な。

春歌: ドイツからやって来た、お茶もお華も歌も踊りもできる大和撫子。妄想力逞しく、兄とあらぬことを考えては勝手に頬を染めて「ポッ」などと言ったりする。華と歌はアニメでは出番がなかったが、茶と踊りについては修行の成果を存分に発揮したし、他にも灸や武道(薙刀と和弓)の能力も存分に見せつけてくれる。なお薙刀は落ちてくる窓を真っ二つにできる腕前。ガラス切るのってめちゃくちゃ難しいのに。外見上の特徴は青っぽい紫髪ロングのポニーテール。私服は小袖に行灯袴が多いが、洋服を着ないわけではない。兄のことは「兄君様」と呼ぶ。「君」と「様」で敬称が被っているような気もするが気にしないほうがいい。ところでどうでもいいことなんだけど、出身はドイツの東西どちらなんだろうか。生まれて数年後には東が西に併合されるんだから気にするだけ無駄なんだろうけど。

亞里亞: フランスからやって来た、メルヘンチックな妹。お菓子と兄が好物。千影とは別の意味で何を考えているのかわからない。間延びした話し方と小さい声で聞き取りづらいのだが、歌を歌わせると豹変する。困ったことがあるとすぐ「くすん」と泣き出してしまう。雛子と歳が近いからか仲がよく、よく一緒にいる。アニメ1期の個別ストーリーでは、この子だけ兄と直接のストーリー展開はなく謎の老人と不思議な世界を旅していた。外見上の特徴は、銀髪縦ロールと西洋人形のような服装。兄のことは「兄や」と呼ぶ。「あにや」じゃないぞ、「にいや」だ。

 と、12人も個性的な妹がいるのなら、アニメ化するにしてもイントロダクションとまとめ、間にちょこちょこ12人全員と兄のストーリーを入れて、あとは一人ひとりの掘り下げという意味でも個別ストーリーを入れていけば特に問題はなさそうなのですが、ところがそうはならなかったんですよね(2期はそうなってたけど)。

 ちなみに各妹たちの年齢についてははっきりとしていないので、見た目に応じて中身もいちばん小さそうな雛子が実は495年の時を生きるロリババアという可能性もないわけではないです。

実装された仕様

「兄1人に妹12人」の設定を引き継ぎ始まったアニメ「シスター・プリンセス」は、しかしその内容が既存のメディアミックス作品の何とも違い、「兄が妹たちを拒否する」という始まり方をしました。まぁ「15年間一人っ子だと思っていたら妹を名乗る女の子が13人も突然現れて、しかも共同生活をすることになった」という状況に置かれたら誰でも最初は「そんなバカな」とすんなり受け入れることなんてできないでしょう。しかも「エリート養成塾トップの成績を持ちながら高校受験に失敗しエリートコースを外れ、家に帰れば身の回りの世話をしてくれた使用人が任期満了を理由に家を出ていき、受験していない高校からの合格通知が届き、離島に拉致される」という状況の末に共同生活を余儀なくされたものなので、アニメ版の主人公、海神航(みなかみわたる)からしたら理不尽どころの騒ぎじゃないわけです。更に妹たちは四六時中つきまとってきて、彼の個人的な時間など寝るとき以外にはないのです。

 賢明な皆様ならすでにお気づきでしょう。これは「ギャルゲー世界を実際にやってみたらどうなるのか」というのを実際に描いてみた作品なのです。

 1話でデジカメ(の画面)を押しのけて可憐が航の眼前まで顔を近づけるのは「画面を飛び越えてヒロインがやってきた」という暗喩だったのです。このアニメ、他にもそういう暗喩が多くて、全部見たあとでもう一度見返すと腑に落ちる箇所が多々あります。

 ちなみにこのデジカメは、その後「増えていく思い出」を描写するの(と作画枚数の低減)に貢献してくれるようになります。26話で撮影枚数のカウントが「0001」になっていくのは、再び兄と妹が揃った、新しい出発を示しているのでしょうか。

お兄ちゃんと12人の妹から見たアニメ版シスプリ

 さて、アニメ版の主人公、海神航の置かれた状況については先ほど説明したとおりです。もうちょっと詳しく書くと、進学塾トップの学力を有しながら高校受験に失敗し、「どうせ受かるから」と他にどこも出願していなかったので行く場所がなくなり、更には家で世話を焼いてくれた使用人のじいやは契約満了を理由に家を出ていき、自活能力のない航は行く場所も帰る場所もなくなったところで、知らない高校の合格を知らせに来た謎の黒服2人組に拉致され、連れてこられた島にある高校で入学手続きを済ませる間に4人の女の子(可憐、咲耶、花穂、雛子)と出会って、色々あって不動産屋に案内された住居に行ったらその女の子たちが出迎えて、しかも4人全員が妹だということを知らされるという「ぶっ飛んでるなぁ」と言いたくなること請け合いの第1話です。わけがわからない? いいから第1話を見てくるんだ。

 そして第2話では新居周辺にある謎の轍や木の傷、リボンの付いた骨、屋根の上の人影、上の階から聞こえるうめき声を調べていくうちに、更に8+1人の妹の存在が判明するわけです。2日で家族が大量に増えた航、「そんなバカな」と言いたくなるのもわかります。

 ところでゲーム版では「主人公には妹が9人いる」という状態から始まることを考えると、アニメ版で妹がたくさんいるということを曲がりなりにも説明してくれるのはかえって親切なのではないかと思うのですがどうでしょ。強制的に納得させられるゲーム版とは違って、「このようにして妹が増えた」という説明はあるわけですから。

 そして12人の妹たちによる「お兄ちゃん大好き攻勢」が始まります。いつ、どこで、何をしていても妹たちがつきまとってくる。いや鞠絵だけは木陰にいたところを兄上様の方から偶然やって来たのですが、ともかく12人がひっきりなしにつきまとって何かしようとしてくる。家でも学校でも。実はアニメを見た後にゲーム版を買ってちょっとだけプレイしてみたんですが、ゲーム版でも同じような状況に陥ります。このアニメ、割と正確にゲーム版を再現してないか? などと思うのですが、ここからが違うところ。

 なんと航、島を脱出しようとします。いきなり14人家族とシスプリのコンセプトの危機ですが、まぁ実際同じような状況に置かれたら逃げたくもなりますよね。泳げないのに、それ以上に島を出たところで行く場所なんてないのにどうするのかと言う疑問は残りますが、そこまで頭が回らないほどには追い詰められていた模様。何しろこの段階では妹は「私生活に干渉してくる敵」みたいな扱いなので、さっさと敵の包囲を抜け出して安全な場所に避難したいと考えるのは何もおかしな話ではありません。まぁ様々な要因によって失敗するんですが。

 そもそも航はそれまで15年間を一人っ子として生きてきて、家族については明らかでないものの同居してないことが使用人の存在からも推測でき、そんな家庭環境なので協調性がなくコミュニケーション能力に乏しく、自己中心的な面も目立つ、端的に言って社会性に欠ける人物として育ったことが(特に説明はなかったものの)描写されており、いきなりの共同生活は拒否反応が強く出たのでしょう。

 それからは妹と向き合う決意を固め、5話では未だに心が島の外を向いているという(島の外部と頻繁にメールのやり取りをして妹たちとのコミュニケーションが疎かになる)状態だったのが、妹たちとふれあい、お互いに理解を深めていくことで、最終話までに「妹たちを大切に考え、家族を守っていく」兄の姿に変身したのです。

 以上のことを総合的に考えると、急に妹を名乗る、見ず知らずの女の子たちと家族として過ごすことを強要され、やがて本当の家族になっていくというのが本作品のテーマだと考えられます。高校1年生(15歳)の兄を筆頭に12人の妹がいて、一番下が幼稚園児(5歳?)であることを考えると、全員が全員実の妹ということは考えにくいので、中には義理の妹や母親が違う妹などもいた事でしょう。海神家の家族構成とか婚外子の存在とかが気になるところですが、ここではそれらは考えないことにします。テーマから外れるので。

 つまり、航と12人の妹たちから見たアニメ版シスター・プリンセスのメインテーマは「家族」を作るということだったのです。

眞深と燦緒

 さて、先程から妹の総数が12人だったり13人だったりしますが、別に誤記でもなんでもなく、原作準拠だと妹は12人なのですが、アニメだと12+1人なんですよ。そのイレギュラーな存在が、兄の燦緒によってプロミストアイランドに送り込まれ、航が島から出ていくように各種工作をする任務を帯びて、一家の過ごすウェルカムハウスに潜入したところ成り行きで妹として、家族の一員として過ごすことになった存在「眞深」です。その出自からもわかるようにアニメオリジナル妹です。ゲームにも出てきてほしい。

 始めは指令通りに航が島から出ていきたくなるように暗躍していた眞深も、次第にその任務を放棄するようになり、最終的には本当の家族のように一緒に過ごすことを選ぶのですが、しかしいつまで経っても航が島を出ていかないことに業を煮やした燦緒の来島によって立場が一気に危うくなったり、航を連れて島を出た燦緒の後を追って、謝罪の言葉をしたためた書き置きを残して航を連れ戻しに島を出るなど、その様はまさしく航の妹でした。

 というのも航に対して工作を仕掛ける一方で、航や妹たちの情報も燦緒に送っていたことがあり、それが燦緒の航奪還作戦に資した可能性を考えると、いくら途中から本物の妹のように感じていたとしても、何らかの責任を感じ、幸せな家族を壊すわけには行くまいと、そのような事態を招いた責任を取る為と、航を島に連れ戻し自らは消えるという決断をしたということが終盤の展開からも伺えます。

 そもそも眞深はなぜここまで他人の家族に思い入れがあったのかと言うと、そのヒントは23話での、燦緒による眞深の扱いの悪さにも見て取れます。なんと燦緒、妹がコーヒーを飲めないということすら知らないのです。他にも妹に心無い言葉をかけるなど、兄失格と言っていいほど兄妹仲は険悪そのもの。結局この場面では、眞深は実の兄(燦緒)より偽の兄(航)を選び、燦緒と離反する道を選びます。

 つまり、航とその妹たちは、眞深が求めても得られなかったものだったのです。それを奪う企てに加担したとあれば、その結果まるで兄が死んだかのように気落ちする妹たちを目にすれば、いくら途中から任務を放棄したとしてもその責任は軽くなく、謝って済む程度の問題ではないということを考えたのでしょう。また、たとえ偽の兄妹だとしても、やっとのことで得られた本当に欲しかったものを、よりによって与えてこなかった本人によって奪われるという仕打ちに対する怒りや反発もあったことでしょう。眞深にとって航は、実の兄よりも兄らしい、まさに敬愛なる「あんちゃん」だったのです。

 一方そんなことお構いなしに航ばかりを求め続ける燦緒は、航をエリートの道に引き戻すべく誘導してきたその手を振りほどかれ、航が妹のもとに戻るという最も求めなかった展開に混乱します。なぜ彼がここまで航に執着するのか、おそらくは自分が自由に動かせる人形のような人間がほしいとかそんな理由じゃないだろうかと思うのですが、それはともかく23話で眞深に言われた「あんちゃんは格好良くなった」という言葉をヒントに、本当に格好いいことの真実を知るために再び密かに来島、航の兄としての振る舞いを見て「あれが格好いいのか」と頭を抱えたり、「本当に格好いいことの真実を探して」島にある高校に転校してきたりします。エリート街道と航以外に求めるものが増えた燦緒、人間性を捨ててエリートとして成功することが正しいことなのかという疑問をもとに、人間的にも成長していく道を模索し始めたということが伺えます。密かに来島して航を観察していた時に、それなりに眞深と仲良く話していたことから、兄妹仲は(26話で燦緒を見た眞深の反応から察するに)未だ良好ではないものの、修復途上にあるということが見て取れます。燦緒の前途は明るい。島の生活が、航の自己中心的な性格だけでなく、その友人の燦緒にまでいい影響を与えたのです。

 26話で燦緒に兄として振る舞う航を見せたときの眞深の口ぶりは、まさに自慢の兄を紹介する妹そのもの。他にも航を始め12人の妹たち全員が眞深を本当の妹だと信じて疑わなかったこと、本当の妹でないとわかってもなお家族の一員として待ち続けることを決めたことなど、たとえ本人がどう思っていようと、1年かけて眞深は航の本当の妹になっていたのです。この点は先程述べた「家族」を作るというテーマにも合致します。全く赤の他人すら家族として迎え入れる、そんな優しい世界です。灰色の街で灰色の人たちが、周りを見ずに忙しく動き回り、誰も見ない商業主義の象徴たる広告看板だけが鮮やかに彩られている東京とは真逆の、カラフルな町並みと自然に彩られた、誰もが一家を見守る箱庭のプロミストアイランドとの対比がここでも生きてきますね。

 ところでこの眞深という妹、ただでさえ航を監視し報告する役目に加え、かなりの走力や素手で魚を捕まえる身体能力、テントでの生活や食べられる野草の知識などといったサバイバル術、ウェルカムハウス内の妹たち8人に気づかれず3階の部屋まで移動する潜入能力、とっさに妹であると取り繕う機転、他の妹たちをよく見てサポートする面倒見の良さ、みんなが楽しめるよう率先して行動する性格の良さ、裁縫の技術などの家庭的な一面、不甲斐ない兄を叱り飛ばせる威勢のよさ、モーターパラグライダーの操縦と言った技術などを考えると、作中最も器用かつ能力の平均値が高い妹ではないかと思うのですがいかがでしょう。最後の最後に転校してきたときも、髪型を片側だけ「妹の眞深」として過ごしてきたときと同じように高い位置にまとめ、あとは下ろしているのも「本当は違うんだけど、まだ航あんちゃんの妹でいたい」という内なる心の声の現れだと思うととても愛らしいですよね。以上余談。

山田太郎の存在意義

 ここで触れておきたいアニメ版オリジナルキャラはもうひとりいて、妹ではないものの主人公の友人として振る舞う馴れ馴れしい男、山田太郎がそれです。自らの学力を京成灘高クラスと自称するものの、ロシア革命の年を1192年と覚えていたり(正解は1917年)するのを見ると、その他諸々の経歴も併せておそらく全て、少なくとも大部分が嘘だという見栄っ張りな面もあります。

 この男はとにかく妹たちを目当てに航の前に現れて、色々いらんことをしたりして視聴者の反感を買うわけですが、ではなぜ彼がこのアニメに存在するのかということも考えておきましょう。わざわざ不要なキャラを作って動かすなどということは考えられませんからね。

 山田の特徴を見ていくと、とにかく妹は13人ひとまとめで覚えていて(白雪だけは名前で呼んだことがある)、女の子に囲まれて暮らす航をその苦労も知らず羨ましがり(後に知ることになる)、勝手な妄想とそれを実現するために常に余計なことをするというどうにも好きになれる箇所がない男ですが、ではなぜそんなキャラが存在するのか。そのヒントは26話にありました。

 彼は作中で放送されるアニメ作品、ガルバンやそのパチモノのガソバルを「昔はよかったという後ろ向きの象徴」と言ってのけ、その後の場面で転校してきた山神眞深美(眞深のこと)に「結婚してくださーい!」と突進していくのですが、この姿はどうにもどこかで見たことがあります。そう、昔の作品の良さを語り、新しい作品に目移りするような、過去の作品が好きな割に移り気なオタクたちです。山田は我々を極端にしたようなキャラだったのです。

 他にも山田を見ていくと「あれだけ欲しかったものが簡単に手に入るととたんに熱が冷める」と言った趣旨のことなど、割と深いことを言ってたりするのですが、それ以上に過剰なまでの鬱陶しさが足を引っ張ったり、何よりシスター・プリンセスのファンはやたらと自分の妹に対する愛が一途かつ強い人が多いように見受けられるので、共感を得るには至らず、彼の評価は散々なものとなったのでしょう。私も19話で白雪を誑かし、食べきれないほどの両の料理を作らせ、航や妹たちを困らせたのにはかなり本気で怒りました。

 が、彼もまた島の住人の一人で、この作品にはなくてはならない存在なのです。たとえどれだけ妹たちからは無視され、視聴者からは鬱陶しがられようとも。

 ちなみに23話のタイトルは「はじめてのお客様」なのですが、それまでさんざん勝手にお邪魔していた山田が客として認識されていなかったのはちょっと笑いました。

結局アニメ版シスター・プリンセスって何だったの

 ようやくここでタイトル回収です。アニメのメインテーマに「家族」が含まれることはもちろんのこと、今までに挙げた「血の繋がりがなくても本物の家族になれる」「血の繋がりがあっても本物の家族ではない」「山田の数々の言動」を総合的に判断するに、このアニメは航と13人の妹たち、山田を通じて「どのように生きるか」というのを示してくれようとしていたのだと思います。

 アニメ版シスター・プリンセスは「生き様」を示してくれる作品です。ここに一つの結論が導き出されました。

 シスター・プリンセスは生き様です。

 せわしなく過ぎる日常からはちょっと距離を起き、家族を大事にし、過去に固執することなく、目新しいものにすぐ目移りするようなこともしない。

 アニメ版シスター・プリンセスは、生き方を見直すきっかけをくれます。

おわりに

 島への出入りは船以外に、干潮時に現れる道を歩いて移動することでも可能です。当初はこの道を通って島を出ることを考えていた航が、同じように現れた道を通って島に帰ることを決心する場面は、航の意識の変化が見て取れる名場面です。かつて「お兄ちゃんの日」に妹に会いに行った干潮の日が、今再び、しかし意識を新たに「お兄ちゃんの日」になったのです。

 これはわかりやすい例ですが、他にもあちらこちらにメタファーがこれでもかと言うほど仕込まれていて、このあたりを拾えるかどうかという点でも評価が分かれそうだなと感じました。かつてこのアニメを見て、しかしあまりの超展開に見るのをやめたという人がいらっしゃいまいたら、今再びご覧になることをおすすめします。今度はいろんなものが見えてくるかもしれません。

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