じょんの読書日記⑤ 世界インフレの謎

渡辺努「世界インフレの謎」

著者は東大の経済学者であり、物価研究に関する日本の第一人者。本書はパンデミックが経済や物価に与えた影響、日本の慢性的なデフレの背景とその解決策といったテーマについて、初学者にも分かりやすく説明されている。現在進行形の経済的問題に関する、標準的な経済学的分析を知ることができるであろう。但し、普段から白鳥の例のブログを読み慣れている金融どうぶつの森の面々からすれば、退屈な面は否めない。以下、内容の非常にざっくりした要約。

2021年より顕在化した世界的なインフレの背景には、財への需要シフトや労働供給の減少(グレートリタイアメント)、サプライチェーンの変化(一時的な混乱や脱グローバル化)といった複合的な要因の重なりがある。これに対して、中銀では70年代の高インフレの経験以降、物価に関する分析や政策手法の開発を進めてきたが、それは主に需要サイドに働きかけるものであり、今回見られたような供給要因に対しては対応手段・知見共に乏しい。現在、中銀はインフレを抑え込むために利上げを進めているが、それは供給要因発のインフレを需要の減退により抑え込むものであり、不況を招く可能性が高い。

翻って日本はというと、インフレは徐々に進んではいるものの、世界的には引き続き極めて低い水準(本書執筆の22年夏頃)である。この背景には不良債権問題が深刻化して不況に陥った95年前後以降の「物価は上がらないものだ」というノルムが寄与。もっとも、足元では世界的にインフレが亢進するなかでこうした認識に変化も見られており、家計の値上げ許容度が高まっていることを示唆するアンケート結果もある(黒ちゃんが世間様からクソミソに叩かれたあの例の研究のこと)。

日本で賃金・物価が凍結された現在のスパイラルを打破するためには、政府によるコーディネーションが重要。この点、アベノミクスの時には政府が賃上げを促していたことは方向性として正しい。(この働きかけが効かなかった要因とその対応策が色々書いてあるが、正直理由づけが弱い。なかなか妙案がないというのが実情だろう)。

なお、最後のポイントについては、評者も基本的に同意しており、長らく続いた物価賃金の凍結を解凍するためには政府のやや強引な介入(例えば最低賃金の大幅な引き上げ)が必要になると思っている。