『街角図鑑 街と境界編』刊行によせて


『街角図鑑 街と境界編』(三土たつお編著)が発売になった。

ぼくはデイリーポータルZ(以下DPZ)のファンで、東京カルチャーカルチャーのファンだ。いつも記事を楽しみにしている。本書の「第1弾」となる『街角図鑑』は2015年のDPZに書かれた三土さんの「街角図鑑」という記事から生まれた。そこにはもうカバーイメージも誌面イメージもあった。さっそく旧知の三土さんに連絡をとり、「会社の企画会議にかけてもいいですか?」とお願いした。

企画会議は、「一般の人(同僚)」が相手だ。「類書が5刷まで行ってます」とか「パイロンのトイが○○万個突破したそうです」とか「最近、テレビでやたらとパイロンが採り上げられています」というようなことが説得力になる。でも、この企画にはそういう要素がない。出版物としてはいままで存在していないジャンルだからだ。となると、会議の出席者に「おもしろそう」だけではなく「売れそう」「そこには読者が○人いそう」と思ってもらうしかない。「おもしろそう、でも売れないよね」と思われて企画が没になることはよくある。幸い、会議の出席者たちもそう思ってくれ、ゴーサインとなった。やった!

画像2

DPZの記事から約1年後、『街角図鑑』が刊行された。三土さんの執筆だけでなく、多くの方にいろいろなテーマの「図鑑」や解説を寄稿していただいた。もともとの狙いはいわゆる「路上観察」「ドボク」、そしてDPZの記事が好きな人だったけれど、こちらが想定していなかった方々にも迎え入れられた。情景模型・ジオラマ、マンガの背景資料などにも有用と、その道のプロの方々がSNSで広めてくれた。そういう広がりはすごく嬉しい。おかげで少しずつ版を重ね、刊行から4年で4刷。バカ売れはしていないけれど、ロングセラーになった。

画像3

続編をーー。それは思っていたけれど、実はなかなか難しかった。ぼくの好みでいえば、続編はドボクだ(カタカナ表記する理由についてはWikipediaを参照してほしい)。でも、それはちょっと違う…とも思っていた。かといって『街角図鑑』で扱ったものと同等の存在感があるものは、もう20も30も思い浮かばない。目につくものの多くは記載済みだった。そこでちょっと足踏みをした。

刊行から3年経った2019年4月、続編を刊行することにした。まだテーマは練り切れていないけれど、そこから三土さんと、あるいは寄稿してくださった方を交えて何度も打ち合わせを重ね、確定したものから取材を始め、あるいは原稿を依頼し、その後も何度も構成をいじりながら進めた。

画像4

テーマは「街」を外したくはなかった。最後の人家からクルマで15分も20分もいってから出会うものは、「街角」図鑑ではない、と思ったからだ。そこで、『街角図鑑』を踏襲した「街の中」と「街外れ」くらいを基準とした。結果、「街にあるもの」「私たちを取り囲んでいるもの」「街と街の間にあるもの」の3章構成とした。とはいえ、「橋」は街中にもあるけれども山奥にもある、そのように、ぼくたちが見ているものは、定義などできやしない、ということを再認識することになった。台割(目次)が確定したのは、最終原稿があがる直前だった。

Aプラス街角図鑑1

そんなこんなで、前回より多くの方に執筆ご協力をいただきながら、第2弾となる『街角図鑑 街と境界編』が1年がかりで完成した。配本(問屋着荷)は2020年7月30日だ。

* * *

『街角図鑑』には「装飾テント」、本書には「玄関灯」を寄稿してくださった内海慶一さんは、本書について次のように考察してくれた。(ブログ「ぬかよろこび通信L」より)

僕がこのシリーズをいいなと思うのは、「図鑑」を名乗りながら、専門家ではなく「鑑賞者」がメインで参加しているところ。各分野の「中の人」とか研究者に執筆を依頼するという選択肢もあるはずだけど、主に「それをずっと見ている人」が執筆しているのです。
鑑賞者側からの目線でつくられていることが、本書をユニークなものにしている。そしてあらためて驚くのは、それを成立させる各ジャンルの鑑賞者がいるということです。よく考えたらすごい。

そうなのだ。「各ジャンルの鑑賞者がいる」のだ。これは本当にすごいことで。コミケやマニアフェスタでも、さまざまな方がさまざまなものを鑑賞し、ワンテーマの同人誌を制作している。そうした社会的な流れがあることを証明したのが、三土さんがDPZに書いた記事「目に映るものの名前をできる限り知りたい」だ。それをアレンジして本書の「はじめに」ができあがっている。

画像6

『街角図鑑 街と境界編』は、『街角図鑑』よりも少しだけ図鑑テイストは減ったかもしれない。でも、『街角図鑑』とは違う採り上げ方ができたものも多い。もし、お読みになった方で、もうちょっと付け足したい、何か言いたいという方がいたら、ぜひご自身でそういうサイトを作ってみてほしい。これはアオリとかでは決してなくて、「ぜひ話に穂を次いで、発展させてほしい」という意味だ。ぼくは、優れた本は「読んだ人が語り出す」という性質を持つものがあると考えている。『街角図鑑 街と境界編』が、読んだ皆さんの趣味的関心を強め、あるいは皆さんが語り出すことがあったら、それ以上嬉しいことはない。「街角図鑑」は、三土さんが名前と器を考えたものだけれど、みんなで作る図鑑なのだ。








この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?