『失われた川を歩く 東京「暗渠」散歩 改訂版』

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2020年2月に、洋泉社が親会社である宝島社に統合された。洋泉社は『映画秘宝』などでよく知られた版元だけれど、『東京「スリバチ」地形散歩』(皆川典久著)、『地形を楽しむ東京「暗渠」散歩』(本田創編著、上写真左)をはじめ、従来なかった、でも多くの人が待っていた書籍を刊行していた版元でもある。統合の話を聞いた時は、これらの書籍はどうなる?ということが、当然、気になった。

そんな折、本田創さんから『地形を楽しむ東京「暗渠」散歩』が版元品切で古書価格も上がっている…と聞き、手を挙げた。実は、これは私が勝手に思っていたことだけれど、カラー新書として実業之日本社で抜粋版を刊行できないか考えていたことがある。他社で刊行されていた書籍を、安価な新書や文庫に仕立て直して発売するのはよくあることだ。

良質な本が、「古い」というだけで入手難になるのはとてももったいない。しかし、版元にも事情がある。重版は、新刊や大ベストセラーと異なり、再配本ができない。注文待ちである。となると、2000部重版しても売り切るまで数年かかるかもしれない。経年ごとに不良在庫になる可能性は高まる。在庫には課税されるので在庫は少なくしたい。POD=小ロット重版は、オールカラーのA5判書籍では製造費が売価を上回るほどになるので無理。

前置きが長くなったが、手を挙げて、洋泉社の持っていた出版権を継承したを宝島社にもご理解いただき、実業之日本社から刊行できることになった。さて、どうしようか。

本田さんと相談して、以下のように決めた。

①洋泉社版から9年になるので、内容はアップデートする
②地図はすべて本田さんが作成する。洋泉社版刊行後、研究が進んだのと、洋泉社版には多少の誤差がある。利用できる地図・地形データも格段に整備された。
③旧版をお持ちの方も「欲しい!」と思っていただけるように、大判の「暗渠地図」を付録としてつける(書籍は「付録」とはいわないが)。

本書は、本田さん「編著」である。編著というのは、全体の構成を考え(編集)、自身も著者である形態だ。実際に、洋泉社版は、

・『軍艦島入門』の黒沢永紀さん
・暗渠マニアック!の髙山英男さん
・編集者の樽永さん
・「世田谷の川探検隊」の福田伸之さん
・『街角図鑑』の三土たつおさん
・暗渠マニアック!の吉村生さん

の6名と本田さんの7名が著者である。そこで、皆さんに連絡をしたところ、ご快諾をいただいた。そして、皆さんにご自身の原稿と写真をチェック・差し替えてもらい、完成した。本田さんの記事では、9割方、写真を入れ替えた。また、一見、洋泉社版とほぼ同じに見えるページでも、実際は歩き直したりしている。失われた光景も少なからずあり、あえて残した写真もある。

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さて、本文の構成は、洋泉社版を踏襲している。水系ごとにまとめている。たとえば渋谷川水系ではこのように広域の地図と俯瞰したテキストを載せ、

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次いで支流の暗渠を細かにレポートしている。この地図の製作も本田さんだ。ここは会社の近くなので、たまに散歩している。

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そして、付属の暗渠地図。900×600mmという巨大さ。新聞見開きよりも大きい。これも本田さんの手になる。本書は『東京「暗渠」散歩』なので、掲載は東京都に限っている。「都心」「広域」が表裏になっている。通常、校正紙は筒状に丸めて届くのだが、なぜか今回、初校も再校もシートのまま届いた。こんなでかい段ボール、処理するのも大変だよ…。よそで出力したものをそのまま送って来たようだ。

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綴じ込みにすると、書店店頭で開かれてビリビリに破けてしまうので、折ってビニール袋に封入し、こんな感じで見返しに貼り付けている。余丁があるが、それは書店店頭での見本として活用してもらうよう営業サイドに伝えてある。

暗渠を詳しく知るきっかけとなったのは、洋泉社版のさらに親本にあたるムック『東京ぶらり暗渠探険』だった。刊行は2010年。「軍艦島の黒沢さん、こっちにお詳しいのか!」と驚いた。本田さんや髙山さん、吉村さんと直接知り合ったのは、2014年のスリバチナイト22015年の地図ナイトからかな。もっと以前のスリバチ系の集まりでお会いしているかもしれない。以後、いろいろなところでお話をうかがってきたし、著書や記事を拝見してきた。

今回、まったくの新刊ではないけれど、暗渠に興味を持った東京の人がまず手に取るベーシックな本である「暗渠をテーマにした書籍第1弾」のような存在のリニューアル刊行に携われて個人的にもとても嬉しい。

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「実業之日本社から刊行できることになった」と前述したが、本書も当然、社内の企画会議に出すものだ。「暗渠」が理解されなければ通らない可能性もある。以前、これは大丈夫だろうと思っていた企画が通らなかったこともある。そこで、マニアパレルの水路敷Tを着て、「こういうTシャツがあるくらい、ぼくが作る地形の本が好きな人たちは暗渠も好きなんですよ!」と主観的な主張をすべく、会議に臨んだ。

ところが、企画会議は「ああ、暗渠ね」「洋泉社版、そんなに売れてるの」「何の問題もない」とあっさりOK。水路敷Tについて力説する必要はなかった。「暗渠」が、何の注釈もなく通じる時代になったのはとても感慨深い。しかし、私などより、本書関係者の皆さんのほうが、よほど強くそう感じているに違いない。

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