ここあちゃんはなぜ高校生になったのか ――制服と一緒に脱ぎ捨てたもの――

注:この記事はBrave Group(旧 Unlimited)が運営するRIOT MUSIC所属アーティスト・道明寺ここあさんについてかなりメタな話題を扱っています。そうした話題が苦手な方は、即座にブラウザバックされることをお薦めします。
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注2 : この記事には、深読み好きの厄介オタクによる考察という名の妄想が多く含まれます。情報源を示した部分以外は全て公式情報ではありませんので、ご注意ください。

注3 : もちろん違う解釈もあり得ると思います。「僕はこう思う」みたいなのをコメント欄に書いていってくれたらとても嬉しいです。





前書き

去る3月21日、横浜ベイホールで行われたRIOT MUSIC 1st LIVE "Re:Volt"。アンコール後にとある告知が映し出された。

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新衣装のお知らせである。このときはまあ、確かにここあちゃん来年から高校生だし中学の制服着られないよな、と思った程度だった(というよりライブの感動が大きすぎて余計なことにまで頭が回らなかった、というのが正直なところである)。

界隈がざわついたのはそれから1週間と少し後のことである。

この記事をお読みの方なら、「道明寺ここあが"Rinsing Hope"を歌う」ということの重大さもご承知のことだろう。とはいえ念のため2018年まで遡って補足を入れながら、以下の2点について扱っていこうと思う。

1. なぜ今 "Rising Hope" だったのか
2. 「一番の宝物」は誰にあてた曲だったのか

前提 : "道明寺ここあ" の声優交代劇

Rising Hopeが「道明寺ここあ」とそのファンにとっていかに特別なのかということを語るためには、2018年まで遡らなければならない。とはいえ、この頃は私もVTuberの界隈に入る前だったので、伝聞でものを書くことをお許し頂きたい。

当時、ゲーム実況と日常風景動画の投稿で人気を博していた「ゲーム部プロジェクト」というチャンネルがあった(というかチャンネル自体はまだある)。そのメンバーの一人・道明寺晴翔の妹としてデビューしたのが道明寺ここあである。

彼女はその歌唱力で多くのリスナーを瞬く間に魅了し、ゲーム部プロジェクトとともに Unlimited の顔といっても良いレベルに達した。実際、2018年末のチャンネル登録者ランキングではゲーム部プロジェクトが11位、ここあMusicが27位という好順位につけている。

ところがその後、2019年の春頃から、ゲーム部プロジェクトが担当声優への待遇問題や急な声優交代で炎上(この記事では扱わないが調べればいくらでも出てくるだろう)。さらに12月には道明寺ここあの担当アーティスト(中の人)の卒業が発表された。

このお知らせの中で、卒業理由については「並行して行っているバンドの活動に専念したい」という申し出があったという説明があり、それとともに以下のような記載があった。

今後に関してですが、道明寺ここあは大手音楽事務所様と提携し、協業という形でプロジェクト運営を行っていくべく、両社で検討をしております。
出来る限り早く新体制を発表させて頂き、活動を再スタートしていく予定です。
弊社としてはその活動を動画を始めとしたコンテンツ制作という形で最大限サポートし、今まで以上に素晴らしいコンテンツをお届けしていく所存です。
またそれに伴い、現在の「ここあMusic」チャンネルは本日を持って動画投稿を終了し、そのまま公開状態と致します。道明寺ここあの活動再開時には新しいチャンネルで活動していく予定です。

そして2020年の3月、新たなチャンネル「COCOA CHANNEL」に「ETERNAL BLAZE」が投稿されて、道明寺ここあは再スタートを切った。2代目道明寺ここあである。

この声優交代に関しては円満に行われたことやチャンネルを変える等の配慮があったこともあり、ゲーム部のときほどの炎上はなかったようだ。とはいえ、道明寺ここあのファンから諸手をあげて歓迎されたわけではもちろんなく、それは「ETERNAL BLAZE」の動画に10,000ほどの高評価に対して1,500ほども低評価がつけられていることからも窺える。

言ってしまえば初代ここあのファンにとって、2代目ここあは「道明寺ここあ」のガワを被っているだけの別人なのだ。熱心なファンであればあるほどそうした感覚を持ちやすく、彼らが新たな道明寺ここあに対して良い感情を抱きづらかったのも無理からぬことだ。「道明寺ここあとしてではなく、別キャラとしてデビューさえればよかったのに」という声は未だ各所で耳にされる。

なぜ新たなキャラクターではなく「道明寺ここあ」として再始動させたのか。その理由までは分からないが、結果論的に見ればこの選択は、「道明寺ここあ」のネームバリューとクオリティの高い3Dモデルを武器にできるメリットと、活動開始時点から多くの「アンチ」を抱えるというデメリットの両方を孕んだものとなった。そして、運営を含め企業全体で下されたその決断から生じたデメリットは、表に立つ道明寺ここあ個人が中傷という形で一身に引き受けることになった。いわば2代目ここあは、企業が負うべき大きな「原罪」をその身に背負ってその活動をスタートしたのである。

1. ここあが"Rising Hope"を歌う意味

前置きが長くなった。どうして「Rising Hope」が特別なのかと言えば、初代ここあが初めてカバーMVを投稿したのがこの曲だからである。

この動画をきっかけに彼女を知ったというリスナーも多く、「兄の晴翔が権利関係でミスをしたため、一旦削除して投稿しなおされた」という少しお茶目なエピソードを含め、ファンにとって思い出深い曲であることは容易に想像できる。

そんな曲を2代目ここあがカバーしたらどうなるか。少なくとも1年前なら「思い出を踏み荒らされた」と感じたリスナーが反発し、「これはここあじゃない」「前の方が良かった」なんてコメントで溢れかえったのではないか。言い換えれば、「初代ここあの代替」として見なされ、初代の面影をなぞることを期待されているうちは、彼女には「Rising Hope」を歌うという選択肢はあり得ないのだ。

では逆に、どうして彼女は今回のライブで「Rising Hope」を歌うことができたのか。その答えの一つは、数回にわたるRIOT LIVEにオリジナル曲、3月のリアルライブと現在のここあが積み重ねてきた実績だろう。初のオリジナル曲「Fall in Sunset」でファンの心を救ってきたのも、Re:Voltでの「Eternal Blaze」や「Only my railgun」で魂の歌唱を見せ、MCまで完璧に務めあげたのも、紛れもなく今の彼女である。そうした積み重ねの中で、「道明寺ここあ」のアイデンティティは初代から受け継いだ「ガワ」から魂に浸透していった。分かりやすく言えば、2代目ここあは初代の代替ではなく、初代とは独立した「本物」と認識されるようになったのだ。

その兆しは9月に髪を切った頃から見られていたが、今回投稿された「Rising Hope」を以てそれが決定的になった。投稿された動画をみれば、高評価は低評価の200倍を超え、コメント欄には彼女への賞賛と応援のコメントが並んでいる。これこそ、この1年間の実績が彼女の原罪を凌駕した証だと私は捉えている。

孤独なまま時が経ったって 逃げる事覚えたって
新しい今日が来ちゃうけど
この願いたとえ魔法が無くたって叶えなきゃ、誓った
僕はキミと まだ見たい未来 あるんだよ
泣きそうでも悔しくても止まっていられない
握ったメッセージ that's rising hope

中傷や叩きにあう中で孤独を感じたこと、逃げようと思ったことがどれだけあっただろうか。泣きそうなくらい悔しかったことだって、あったのではないか。それでも負けずに歌い続けてきたから、彼女は「新しい今日」を歌えるのだ。

彼女の一年を語るにあたって、はずしてはいけない話題がもう一つある。5月にデビューした芦澤サキ、9月デビューの松永依織、長瀬有花、凪原涼菜という仲間の存在である。先輩としてしっかりしなければ、というプレッシャーはあったにせよ、彼女たちと一緒だからこそなし得たことというのがたくさんあるはずだ。先日の"Re:Volt"だってその一つである。だからこそ、1日のライブでは4人の持ち歌を借りたのではないか。

「私は一人じゃない、仲間がいてこその道明寺ここあ」

そんなメッセージを読みとってしまうのは、考えすぎだろうか。

2. 「一番の宝物」は誰に宛てた歌か

Rising Hopeの歌唱後、MCを挟んで歌われた「 一番の宝物~Yui final ver.~」。選曲のせいで涙腺が決壊してしまったのは私だけではないだろう。しかし、なぜこの曲が選ばれたのだろうか。

念のため補足しておくと、この 「一番の宝物~Yui final ver.~」はアニメ「Angel Beats!」の10話で特殊エンディングとして使われた曲である(正確にはアニメで使われたのは (Yui ver.)だが)。

本人は「みんなへの感謝をこめて」というが、歌詞を見るまでもなく「別れ」のイメージが強いこの曲。無意味にセトリのラストに持ってこられたはずがない。では、ここあが歌いたかったのは誰との「別れ」なのか。答えはいろいろとあるだろうが、一つの答えは「今までの道明寺ここあ」なのではないか、と考えている。

先述したとおり、去年3月のデビュー以来「道明寺ここあ」の名前と姿を引き継いだ彼女は、そのネームバリューを大きな武器の一つとしてファンを獲得してきた面が否定できない。いいかえれば「道明寺ここあ」という存在の中には、2代目の魂の他に初代ここあの残滓が共存していたのだ。それは彼女の活動にあたって大きな利益をもたらすものでもあり、同時に活動を縛る呪縛でもあった。だが今や彼女は、初代の面影に頼らずともファンと向き合い、音楽を届ける術を持っている。だからこそここあは今回 "Rising Hope" を高らかに歌ったのだ。

そして、今まで支えてくれた初代ここあの面影に「さよなら」と「ありがとう」の気持ちを込めて一番の宝物を歌ったのだと私は思う。

「私は一人で歩けるようになったよ。今まで一緒に歩いてくれてありがとう」

あの歌にはそんな意味があったのではないか。そして同時に、リスナーに対しての「私はもう今までの『道明寺ここあ』の面影に頼らなくてもやっていけます」という成長の表現であり、「ありのままの私を見てください」という意思表明なのではないか。その上で、1年間自分を支えてくれてこれからも一緒に歩いて行くであろう、RIOTの仲間とリスナーが「一番の宝物」なのだと、感謝の気持ちを歌ったのではないか。そんな気がしてならない。

まとめ どうしてここあは高校生になったのか

よく考えてみれば、ここあやサキが歳を取っていることに疑問を持つべきだったのだ。というのも、ゲーム部プロジェクトのWebサイトを見れば分かるとおり、彼らは活動開始の2018年から2020年にまでずっと高一のままである。ということは、晴翔の妹のここあも当然歳をとっていなかったはずだ。

それが今年になり、どうして歳を取り始めたのか。Brave Group全体でVTuber(CTuber)の捉え方に変化があった、というのがきっと正しい答えなのだろう。

それでも、今年ここあが中学の制服を脱ぐことになったことに意味を感じずにはいられない。今回のライブのテーマが「初代の面影からの卒業」をテーマにしていたとすれば、制服こそがその面影の最たるものだからだ。

高校生になり、彼女の髪型で、彼女の服装で、これからも道明寺ここあは我々に歌声を届けてくれることだろう。きっと4月1日は、本当の意味で道明寺ここあがリスタートを切った日であり、今回のライブは制服を脱いで歩き始めた道明寺ここあにとっての、まさしく始まりの詩なのだ。

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