EV資源の安定調達 コバルト・ニッケルにESGの壁


主要国が二酸化炭素(CO2)削減の切り札に掲げる電気自動車(EV)。量産には電池に使う鉱物資源の安定調達がカギとなる。政情不安や中国の影響力拡大といったリスクをどう克服するのか。課題を探った。

「コバルト相場の上昇が急すぎる」。商社の担当者は困惑する。3月上旬のコバルト価格は1ポンド25ドル台。年初から約10ドル(約60%)高い。新型コロナ禍で、世界の約7割を供給するコンゴ民主共和国からの輸送が滞った。


コバルトはニッケルと並ぶEV用リチウムイオン電池の主要材料だ。しかし、年明けからコンゴ産の粗水酸化コバルトの調達が困難になった。重要資源をアフリカの一国に依存するリスクが露呈した。コンゴの政情は不安定で、零細な採掘現場では児童労働も問題だ。

コバルトを使わない電池を開発する一方、ニッケルの使用量を増やす策もある。だが、ニッケルも問題を抱えている。

「増産してほしい」。米テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は昨年、電話会見で鉱山会社に訴えた。だが各社の動きは鈍い。しびれを切らしたテスラは今月、仏領ニューカレドニアからニッケルを長期調達することを決めた。


多く生産されているニッケルはステンレス向けで、コスト面から電池用にすることは難しいとされる。2020年に約9万トンだった車載電池用ニッケルの世界の需要は30年に100万トン程度まで拡大する見通し。主要産出国の増産が必要となる。

中国勢はインドネシアで年産計15万トンとなる3つの開発案件を進める。経済産業省出身の川口幸男・日本メタル経済研究所(東京・港)理事長は「中国は電池用のニッケル資源を(自国向けに)押さえようとしている」とみる。

鉱石から電池用ニッケルを作る工場をフィリピンに2カ所持つ住友金属鉱山は、インドネシアにも新設を検討している。年産約9万トンを15万トンに引き上げる計画だ。

しかし「世界で表面化した全ての計画を合わせても、世界の必要量には届かない」(大手商社)。

コバルトやニッケルは開発が難しい鉱山が多く、なかなか十分な投資が進まない。採掘後の残さをためるダム建設も必要となる。近年、鉄鉱石の鉱山で残さダムが決壊し死傷者が出た。「環境対策やインフラ整備にも投資が膨らむ」(住友金属鉱山の丹羽祐輔ニッケル営業・原料部部長)

開発現場は新興国の辺境部にあり、電源に石炭火力を使う案件が多い。温暖化ガスに価格をつけるカーボンプライシングが導入されれば逆風だ。埋蔵量が多い熱帯地方では森林伐採の懸念もある。ESG(環境・社会・企業統治)の観点から難がある。

主産地はカナダなどからインドネシアやフィリピンなどにシフト。「カントリーリスクが増している」(大手商社)

リン酸鉄リチウムを正極材に使う電池(LFP)もあるが、航続距離が課題となる。ニッケル開発が進まなければ、価格が急騰しかねない。電池や自動車メーカーの収益を圧迫し、EV価格に転嫁されれば普及の足かせともなる。