見出し画像

おねがいごと

不安になることが得意だ。

飛行機と高速道路を使うときは生きて帰れない。 
23時以降は通行人の全員が犯罪者。
布団に入ったら強盗が押し入ってきて殺される。
駅のホームでは誰かに突き飛ばされる。
トンネルは崩れるし、船も沈む。戦争が始まる。
毎日毎日ありとあらゆる方法で自分を殺している。


不安は自分以外にも付き纏うもので。

親を見送れば今のが最後の会話だったのだろうと。
返信が来ない友人はもう愛想を尽かしたのだろうと。
恋人はわたしが子を成せなければ離れていくだろうと。
今日のバイトで大失態をしてクビになるんだろうと。
面倒な人間だと全員から思われているんだろうと。
自意識過剰も度を過ぎれば可哀想なものだ。

考えすぎだよと言われればそれまでだけど、それが一番言われたくない言葉。だって自分が一番よくわかってる。
旅行からは帰って来れた、強盗と鉢合わせたことなんてない、船は浮いてる。
大丈夫なんだよ、たぶん。

心配事の九割は起こらないと聞いたとき、比べ物にならないほどの安堵感を抱いた。と同時に、遠慮なく心配事を心配するようになった。
厄介だ、地震も裏切りも九割起こらなければ人間はこんなにイライラしていない。
あれだけ信頼した友人はわたしを助けてくれなかったし、あれだけ忠告した相手と恋人は連絡をとっていた。
とうとう九割すら信じられなくなった。

新しいことが苦手なのは、環境の変化に耐えられないのは、そこが、不安を産むいちばんの原因だからだと思う。考えても考えても解決しないし、死ぬまで何かしらに怯える日々ならもう終わらせたい、と思うことの何が間違っているんだろう。や、間違ってないか。

努力こそが美しい。生きることは尊いこと。
そんな御託を聞いては反吐が出る。
ならば努力できない人は醜いのか、死にたい人間は蔑んでもいいのか。そんなわけない。わたしを、わたしの大切な人をバカにするな。

もう殺したいなら殺せよ、でも痛くしないでください。
ぜんぶ自分のせいだからわたしが死んだことは内緒にしてください。あの人たちはきっと泣いてくれるの。わたしが死んだら泣いちゃうの。だから教えないで。

もういいかなぁ。だって嫌いなんだもん、下手なんだもん、しんどいんだもん。ごめんね、ビビリだから自分じゃ消せないんだ。消しといてください。
地球から除名!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?