最後の夏芸会。

8月7日。
この日のために、戦ってきた。

コンビを解散して、組み直しを白い目で見られようが
ネタ見せ先輩同期が誰1人笑ってくれなくたって
部長として、ライブを失敗させてしまい自己嫌悪に陥ろうが
現役部長で0票で落研ライブを終えようが
出続けた外ライブで全然結果が出なかろうが

相方が嫌いで嫌いでネタ練りしたくない時だってあったし、部長やりながら頑張っても、ネタが本番ウケないとか、執行や後輩のことでの悩みも尽きなくても、365日24時間落研のことしてても、その結果が出たことなんてほとんどなかった。それでも続けれたのは、いつか、いつか勝って、ここまで一緒に苦しんで戦ってくれた人と喜びたかったから。おもろいやつと思われたいがためだけに出てた1年生の芸会とは、想いも内容も全く違った。


実は芸会当日までのネタ練りが大変だった。

8/1〜3までが夏の合宿で、その前の7月下旬は合宿責でずっと仕事があり、直近の7/30.31に関してはゼミ合宿もあった。
そこで夜にクラ田さんと水質さんにネタ見てもらうくらい追い込んでた。これが寒河江ゼミのいいところだな。(ちなみに全然関係ないけど歴代寒河江ゼミは赤組になるというジンクスがあります。)

だから、本当にネタ練りの山場は合宿終わりの数日間。
だけど、なないろの島医者の漫才で行くことは決めてたし、なにより自信があったからそこまでは焦らなかった。

事前情報で、扇風機おじさんとヤスクニが同じ日だということを知っていた。ブロックが別れたとしても、強い人がちゃんといる以上、圧倒的なブロック一位を取れる漫才じゃないと上がれないとわかっていた。


だから僕らはとにかくラスト1分にかけていた。

勝ち上がる漫才は、勝ち切る最後の1分を持ってる。ダイソンも一患もキマイラも犬小屋もみんな最後の1分の圧がすごかった。

畳み掛けっていうもの自体すごく苦手で、漫才をやってきて、綺麗な後半を作れたのはNOROSHIの墓参りだけ。
自分のツッコミが長いのが足を引っ張り、テンポが漫才に出ないことにより、目に見える畳み掛け感は演出できないのが僕らの欠点だった。

だから、テンポは捨てた。

その代わり、ワードにとにかくこだわり、台本上無駄なものを1文字単位で精査する。
早いテンポが無理なら、笑いどころのない部分が一瞬も出てこないようにすれば良い。
そして構造自体のボケも入れた。

今振り返っても、カナディアンロッキーの芸会前のネタ練りは、とんでもなくストイックだったと思う。
二人とも、割と良い加減な性格で、人間性も真反対だったけど、芸会に対して並々ならない気持ちを持っていることだけで、方向性を揃えてやってきた。
だからこそ芸会前のネタ練りは、1文字についても言い合いをしたし、後半のパターンを数日間で10数個書き直したりして、結局使わなかったり。

飯食いにだけはバラバラで行かないと気がおかしくなるくらい。ピリピリもしてた。
でもこの夏はそんなピリピリもなかった。
ピリピリしてないんじゃなかった。
このピリピリと過ごしてきた約2年の月日が、僕たちの関係性を強くしたんだと思う。
この夏、彼がタバコを吸いに行くことをなんとも思わなくなっていた。

直前もずっと46期の先輩たちにお世話になった。
カナディアンロッキーのネタ練りを手伝うのってすごい嫌だったと思う。
わがままで我の強い二人が、揉めてるのを目の前で見ないといけないから。
関係性は良くなったとはいえ、一日中ネタ練りしてれば1日に2回はとんでもない空気は流れる。その空気を耐えながら、僕らに力を貸してくれた先輩。感謝でしかない。
自分で言うのもなんだけど、僕ら生意気で、嫌なやつでもあったけど、可愛げがあったんじゃないかな。僕が苦しんだ時、助けてくれるのは6期さんだった。

悩みに悩みきった、
けど、今までやってきた中で1番納得のいく、1番好きなネタができた。


あとは、全力でやるだけか

いや、勝たなきゃな

この夏、僕らが47期3年生の中で1番最初の出番だった。
ずっと大将のつもりでいた。同期を、落研を引っ張ってきたつもりだった。
だから、すごく怖かった。僕らが負ければ、後に続こうとしている演者は不安になる。
それが学内で圧倒的になると決めた人間の背負わないといけないものなんだと思う。

僕らが負けようがなんとも思わない演者もいたかも知れない。
だけど、あの時僕らが負けるということは、客観的に見ても、大将の首が取られるということだった。
何がなんでも上がらないと。


当日の朝、いつものように相方は寝坊した。
ここまで来ると、もうルーティンだ。
いつも通り。今日勝てる。不思議とこう思えた。

代田橋に着くと、応援団が朝早くから出迎えてくれている。
僕らはあの時間がすごく恥ずかしい。
だけど、すごい力をもらっていた。相方と男二人で朝から出番まで過ごしていたら、ただ緊張が膨れ上がって終わっている。
あのタイミングで、応援団の顔を見れるのは僕らに八王子で過ごしているかのような安心感を与えてくれるんだ。

相方はおちゃらけて、応援団を後にして、タバコを吸いにいくと言い残し、隠れてすぐにメッセージを読んでいた。

会場に着いた。
香盤はBブロック…
ヤスクニと扇風機おじさんは…一緒かい!!

落研で育てられたメンタルも、この時ばかりは折れかけた。
「やばいなさすがにこれ」
そんな情けない僕の言葉に
「もう関係ないだろここまできたら」
相方は、雑に見えて、すごく強い言葉を返した。

その通りだ。
柄にもなくまともなことを言った相方に腹が立ち、落ち着くことができた。そういう意味ではありがとう。

漫才の練習ってすごい嫌いだったのに、この時なんであんなに出来たんだろうな。
絶対に上がりたかったし、100%やりきれば上がれる自信のあったネタだったんだろうな。

本番前

袖で僕たちは「でぃ」の衝撃を前にした。
正直聞いたことのなかった。可愛らしい少年は僕たちの目の前でとんでもない爆発を起こしていた。
前までなら完全に心が折れてたと思う。

けど
「もう関係ないだろここまできたら」

でぃがネタを終え、僕らの直前の出囃子が鳴る。NOROSHIからやり始めた袖でのグータッチを済ませた。

このグータッチ凄いダサいしこんなことやってる漫才師大っ嫌いだったよそりゃあ。

だけど、いつしか、この後ウケたら一緒に喜ぶし、スベってももう二人で受け止めて強くなっていく仲間としての関係性を、言葉で言うの恥ずいからこのグータッチで共有しようとしてたんじゃないかな。あんなに2人でスベって、2人でしか負えない傷をつけられてきたんだから、普段喋らなくても舞台では仲間でいないと、立っていられなかった。

照明がつく。
1番大切な「はいどうも」
声出せてる。よし今日はいけそうだ。

ただただ楽しかった漫才は終わった。
暗転した後、頭を下げたまま、噛み締められた。


控え室に行ってからはほとんど2人で話さなかった。

結果発表。
僕らの名前は呼ばれなかった。

正直涙も出なかった。
けど死ぬほど悔しかった。
最後の夏が終わった。
このための前期だった。
けどそれが全て終わった。


でもまだ創価落研の夏は終わってなかった。

死にそうになりながら、後輩や同期にどんな顔をされるか、どんな同情をされるかの恐怖を抱えて、Forever小林のネタ練りにそのまま向かった。

自分が勝てなかったんだ。
みんなを勝たせよう。
それしか僕の存在価値はない。

腐ったら負けだ
腐ったら負け。

後輩でも同期でも一年生でも良い、勝たせよう。
自分は負けても。

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