2年のNOROSHI「MOTHER」予選編

レジスタリーグでようやく何をするべきか明確になった僕たち。
やってきたことが間違いだったわけじゃない。すべってきた経験が僕たちに負けのマントを被せていた。出てきても客席を飲み込む力がなかった。客を支配しろっていうのはずっときゅうりさんに言われてきた事だったけど、真の意味でやっと理解できた。飲み込むどころか冬学までの僕たちは飲み込まれに舞台に出ているようなものだったのだ。
簡単に今落研では、覇気を出せ覇気を出せというふうに言うが、本当の意味での覇気は挫折したものにしか出せないと思う。それ以外で出せるとしたら生まれながらに人を飲み込んでいく天才な人間のみ。

シンプルにいうと僕らは覇気のかけらもない漫才をしていたのだと。

レジスタリーグ、本当に追い込まれて全員を見返す意味で全員ぶっ殺してやるって思ってやった舞台で覇気の出し方を少し掴めた気がした。

相変わらず3時間はチームで継続していた。
僕が予選の直前にゼミ合宿に行くなどの、障害はあったもののチームとしての団結は強くなっていった。僕らのいいところは全員が単純だったところだと思う。
勝てそうな追い風が吹けばみんな上機嫌だし、負けそうになるとみんな不安感を抱く。
ただこの全員が一喜一憂するチームは、その単純さをそのまま団結に変えることができた。
冷めたことを言う奴も、ひねくれた物言いで水を差す奴もいない。

Forever小林のネタを最優先で着手した。
僕らは漫才でしっかりウケて、コントで跳ねて、ピンで爆発すると言うチーム構成にしていたため、ピンが確実かつ爆発できるネタに仕上げないといけなかった。
Forever小林は全員の悪ふざけ(主に僕らコンビ)と冷静な先輩方の添削によって成り立っていた。あとは彼の天性の裏笑い能力。
パンパンが人格者であり、なにより人の心を動かすことが出来る人材だったからこそ、彼に力を貸してくれる人がたくさんいた。寒川さんもそうだし、45期のタムタムさんや、わざわざ名前は出さないが45期も46期も彼を放っておけない。
彼の人徳によってForever小林のネタは完璧に近い完成度に近づいていった。

Forever小林が落ち着けば次はヤマアラシ。
ヤマアラシはオーディションでやったネタを練り直すことは決定していた。オーディション後先輩たちから外でも通用するネタだと評価を受けていたため、このネタで行くことは即決していたのだが、いかんせん、パンパンと真逆。ヤマアラシは人に頼ることが苦手だった。ネタは右往左往とさまざまな方向に行き来して、よくわからないネタになったりもしていた。

カナディアンロッキーはといえば、レジスタリーグでの「墓参り」の練り直しで決。
しかしレジスタでやった2分の尺は完璧だったがそこからの後半1分の畳み掛けが難航した。
何パターンも書いた。1日に2パターンくらい書いては、人に見せて「違うなぁ…」と却下を喰らった。
毎日真面目に練るが、空気が悪くなっていくだけ、コンビを組んだ一年生の頃からだが、僕らが煮詰まりピリピリしだすと先輩ですら気を使う空気になるらしい。
結論が出ないまま前日を迎え、焦りと不安感で世間話を1行もする余裕がなかった。

救世主は突然現れる

3年生と4年生が総動員で僕たちを手伝ってくれた。
絵が得意だったり日頃から手伝ってくれている人はForever小林に
よっしゃんさんをはじめとするコント軍団はヤマアラシを
伊勢丹さんきゅうりさんの漫才師匠たちが僕たちに付きっきりでネタ練りをしてくれた。

正直同じ日に出場したシュールレアリスムの子達には申し訳なかった。
けどまぁこれが上級生と下級生の差というか、自分たちも学年が上がれば上の人たちの乗っかり方が違うからさ…

相方がずっと主張していた案を、僕はずっと府に落ちずにいたが、先輩方2人がゴーサインを出した途端、僕の指は進んでいた。すごく情けない奴だ僕は。

ヤマアラシも隣の部屋でどうやらすごい面白い仕上がりになっているらしい。

それぞれの部屋で練っていた僕たちは、全員で少し唱題を上げた後、1組1組ネタ見せをした。
ネタ見せ後、僕らには完全に自信が取り戻っていた。


この時勝たなきゃいけない理由として、誰にも言ってないことが一つあった。
この芸会予選直前の頃、僕ら47期は執行期間を予定通り新歓ライブで終えるか、伸ばしてエールライブまでやり夏に48期に渡すか、の話し合いをしていた。
そもそもこの議論は、僕が提案して勃発した大論争なのだが、もちろんほとんどの7期は予定通り新歓で執行を終える派だった。
執行が始まってから僕は先輩の部長とよくこの話をしていて、やはり執行は夏スタートがベストではないかという結論を出していた。この理由は結構ちゃんとあるので書き出すと止まらないため、ここでは割愛する。
とにかく僕の中では夏まで執行を延ばして、48期に執行を渡すのは自分の経験を踏まえて、今後の後輩たちにとってより良い執行を取ってもらうための判断だった。今後の落研を見据えて、僕はどうしても執行は夏からにしたかった。
言い方は悪いけど、そのために47期がどうか犠牲になってくれないかの交渉は続いていた。結局、仮決定として全員の意見は変わらず、執行は新歓までの空気になった。
ぶっちゃけみんなに後輩のため後継のための決断をしてほしくて、そんなことを少しでも伝えられたらいいなと思って勝ちたかったんだ。


当日の朝、目を覚ました時に、最初に心に「勝てる」って出てきた。
電車で向かう道中も、今まで感じたことない感覚だった。緊張はしてない。ワクワクしている。ただふざけているんじゃない。圧倒的自信からくる余裕がチームの雰囲気を最高にしていた。
代田橋で待っていてくれる応援団にも勝ってくるという言葉が自信を持って伝えられた気がした。

会場につきエントリーを行おうとしている時、一つの異変に気付いた。
音響や道具の確認としてスタッフの方から「ヤマアラシさーん、ヤマアラシさん確認しまーす」の呼びかけに反応しない2人。
ボーッとしていた。
やばい完全に飲まれている。
会場にいる他の面白いとされている演者や、スタッフの空気に2人は完全に飲まれ緊張を始めていた。
エントリーを終えるとすぐさま僕はチームを集め「飲まれてるぞ。びびんな」と忠告した。
これはチームメイトに言ったように見えて、自分に言い聞かせていたことなのかもしれない。
その後僕らは、音響確認を終わらせて、ヤマアラシの小道具調達に出かけそのままカラオケに練習をしに行った。

空気はとても良かった。5人で本番前あんなに朗らかにいられたのは、もちろんオペレーターのサブが居てくれたのもあるけど、みんな勝利を確信して、余裕があったからだと思う。

カラオケでは死ぬほど練習した。それぞれがとんでもない声量で何回も何回も練習してた。
特にヤマアラシの練習はえげつなかった。絶対にミスをしたくなかったんだろう。当たり前の感覚だけど、この当たり前の感覚がある演者は今どれくらい居るんだろう。
最後にT.M.Revolutionの「hot limit」をみんなで謎に合唱して、カラオケを出て、方南会館へ向かった。

僕たちはCブロック3番目。香盤は悪くない。
それ以外の余計な情報はシャットアウト
前のブロックで誰がウケていようが、自分たちのブロックにどんだけ面白い人がいようが関係ない、やることは一つ。自分の自信のあるネタで笑ってもらう。俺らがやる約10分間は落研ライブを体現しようと。

初めて出番前袖で相方とグータッチをした。
それまで相方と袖で言葉も交わさなければ口も聞いてなかった。でもあの時だけは何か違った。
どんなコンビだったとはいえ、そこまで共にしんどい時期を過ごしてきて、目的も一緒だったから自ずとああいう行動が出来たんだと思う。

「創価大学落語研究会 チームMOTHER カナディアンロッキー!」

「はいどうもー!!」過去一大きな挨拶から
会場には暖かい目で座っている落研の仲間がいた。仲間に包まれた感じがした。
そこまで、同期に対して証明して姿で見してやる!とか色組より結果出してやるとか、俺らが勝ちたいとかあったけど、そんなの吹っ飛んで、漫才を楽しめそうっていう感情だけ湧いてきた。

本当に楽しかった。ただ楽しかった。
ずっとしっかりウケて、悩みに悩んだ後半1分も後半の畳み掛けとして十分にウケた。
終わりの挨拶を終え頭を下げたまま暗くなっていく舞台の上で、「楽しかったぁ」と小声で言ってしまったくらいに。

僕らの出番が終わりヤマアラシ。
ヤマアラシの最初のバラシがハネた時、袖の僕ら3人はハイタッチをして喜びあった。
ボケも外さず、大きいボケもしっかりはめて、十分すぎるネタをやってのけてくれた。ひとえに彼等の練習量とオペレーターの技量が身を結んだ瞬間だった。

そして大将Forever小林。いまだに理解が出来ないのだが、彼が登場した瞬間に爆発が起きた。「やっほー」と三輪車に乗って出てくる彼を方南会館は最高のもてなしで迎えてくれたのだ。ネタ中、実は大喜利は結構外していた。しかしぱんぱんのアドリブがハマりにハマって、会場を焼け野原にした。
その現場を見た誰もがこれが祈りの力なんだと納得させられたと思う。
爆発を何度も起こしていくパンパンをみて袖で大の男4人が手を合わせてはしゃいだ。あれが青春と言わなかったら、僕には一生青春は無いと思う。

全て終え、僕らは満面の笑みで控え室に帰ることができた。互いに賞賛し合いながら。

落研ライブでも外ライブでも部員の期待に背き、散々な結果を出し続けていたカナディアンロッキー
笑いに恵まれることなく、愚直に活動し続けても結果がついてこなかったヤマアラシ
落研ライブ最弱のForever小林

今までなかなか認められなかった落ちこぼれの演者が互いの成功を称えるかのように。

あとは信じるしかなかった。
Cブロックも気付くとすぐに終わり、結果発表が行われる。

僕らが呼ばれることはなかった


帰り道は本当に悔しかった。悔しかったという文字では伝わらないだろう。みんなが今思っている悔しさの数百倍はあったと思う。自信もあった。やってきたことにもネタにも。ウケ方も。そしてなにより前日まで支えて手伝ってくれた先輩たちの顔がずっと思い浮かぶ。そんな時に寒川さんに背中をさすられたもんだから、一気に感情の防波堤は崩壊した。

代田橋での集合。僕らは5人がもれなく泣いた。ただ僕らに共通していたのは最初勝てなかったら信心をやめると言っていたくらいだったのに、負けても辞めたいと誰も思わなかったことだった。間違っていなかった。ただ実力がなかった。もっとこのチームでネタがしたかった。戦いたかった。成長できている気がすごくした。泣いて泣いて泣き疲れて、代田橋から電車に乗ろうとした時、相方に呼び止められた

「5位のチームが棄権するかも知れなくて、6位の俺らが繰り上がるかもしれないらしい」

僕たちにはまだ希望が残されていた。



おまけ

結構すごいブロックだったんだよ

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